読書感想文のページ > 炎路を行く者・守り人作品集
2016年1月6日 竹内みちまろ
『炎路を行く者・守り人作品集』には、守り人シリーズにタルシュ帝国の密偵として登場したヨゴ人のアラユタン・ヒュウゴの少年時代を描いた「炎路の旅人」と、バルサの回想の物語「十五の我には」の2編が収録されています。
「炎路の旅人」は、南の大陸にあったヨゴ皇国がタルシュ帝国との戦に負けて、タルシュ帝国の属国となっていく物語でした。
ヨゴ皇国で最高の武人と称えられた「王の盾」の家に長男として生まれたヒュウゴは、王に忠誠を誓う父に憧れ、「王の盾」になることを夢見ます。しかし、ヨゴ皇国は戦に破れ、都にタルシュ兵が侵入してきました。タルシュ兵は、平民や皇族には手を出しませんが、ヨゴ皇帝に忠誠を誓う上流階級の武人たちは、遺恨の芽を残さないため、家族まで皆殺しにされました。
ヒュウゴは、母親と妹と3人で、上流階級の武人たちの家族が隠れていた小屋にいたところを、タルシュ兵に襲われます。タルシュ兵は、都の門を破ると、真っ直ぐに隠れ家を襲撃しました。ヒュウゴは、漁師の娘リュアンに助けられ、一命を取り留めます。酒場に住み込みで働き始めますが、幼い頃から武術の鍛錬を積んでいたヒュウゴは、けんかの強さと鋭利な頭を持ち合わせており、一帯の半分を仕切るカシラになりました。しかし、タルシュの密偵や、貧しくても誇りを持って生きるリュアンの父親ヨアルなどに触れ、ヨゴの民を苦しみから解放するために、タルシュ軍に入ることを決意します。
「十五の我には」は短編です。バルサが用心棒として雇ってもらえなかった15歳の時に、用心棒家業の男といざこざを起こした苦い経験が回想として語られます。現在の時間軸としては、新ヨゴ皇国の皇太子チャグムがカンバル国とロタ王国の同盟の仲介に成功し、カンバル騎兵を率いてカンバル国を出発する前夜、バルサが、わずか17歳で新ヨゴ皇国と北の国々の運命を背負わなければならないチャグムへの思いを吐露します。
「炎路の旅人」を読み終えて、ミッションついて考えました。ミッションは日本語で書けば使命ですが、ヒュウゴは、タルシュがヨゴ皇帝に忠誠を誓う武人とその家族を皆殺しにしていることを知り、なんとしても生き延びてやると歯を食いしばります。しかし、タルシュ帝国に支配されたヨゴで平民たちが抜け出しようがない酷い暮らしを送っており、一方で、ヨゴの皇族が殺されることなくすみやかにタルシュ帝国の都へ移送されたことや、ヨゴの中流武人たちがタルシュの属国となったヨゴで出世していることなどを知ります。
ヒュウゴは、両親と妹を殺し、ヨゴを征服したタルシュ帝国を憎んでいましたが、タルシュ軍に志願しました。ヒュウゴは、ヨゴ皇帝へ忠誠を尽くす生き方は、ヨゴ皇帝に責任を負わせて自分自身の人生の在り方を自分で決めることを放棄した生き方だと感じたのかもしれません。タルシュ軍に志願したヒュウゴの心の中にあったのは、ヨゴ皇国の再興でも、ヨゴ皇帝への忠義でもなく、ヨゴの民を救うというミッションだったのだと思います。
そんなヒュウゴは後に苦難の道を歩むのですが、人間を苦難に立ち向かわせ、そして苦難を乗り越えさせるものは、心に秘めたミッションなのかもしれないと思いました。
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