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精霊の守り人/上橋菜穂子のあらすじと読書感想文

2015年10月30日 竹内みちまろ

 『精霊の守り人』(上橋菜穂子)を読みました。シリーズものとして続く冒険ファンタジーの第1巻です。あらすじと感想をメモしておきたいと思います。

精霊の守り人のあらすじ(ネタバレ)

 物語の舞台は、神の子孫という帝(みかど)が3人の妃(きさき)を娶る新ヨゴ皇国。新ヨゴ皇国は、北を青霧山脈に守られ、南、東、西の3方を海に囲まれた広大なナヨロ半島に広がる国。北の青霧山脈から流れる青弓川が鳥鳴川と枝分かれしてできた三角州に帝ノ宮、二ノ宮、三ノ宮、そして星読博士たちが住む星ノ宮があります。約200年前、建国の祖・トルガルが、激しい攻防を繰り返す海の向こうから渡って来て切り開きました。トルガルが来る前にはヤクーが住んでいました。

 同作の主人公は、女用心棒のバルサ。今年30になり、大柄ではないものの筋肉の引き締まった柔軟な身体を持ちます。バルサは、青弓川に架かる鳥影橋を渡っているときに、第2皇子であるチャグムを乗せた牛車の牛が橋の上で突然暴れだし、チャグムが川へ跳ね飛ばされるのを目撃します。濁流に飛び込み、チャグムを助けました。バルサは、二ノ宮に呼ばれ、二ノ妃が直々にやって来て、チャグムが命を狙われていると話し始めます。二ノ妃はチャグムと「今生の別れをする覚悟できたのです」などといい、「この子を救って――守って、わたしのかわりに、この子にしあわせな一生を与えてやってください」とバルサに頼みます。

 バルサは二ノ妃と計らい、二ノ宮に火をつけて火事を装います。チャグムを連れて逃げました。が、「狩人」と呼ばれる、帝に仕える暗殺者たちが、バルサを追い始めました。

精霊の守り人の読書感想文(ネタバレ)

 『精霊の守り人』を読んで、人間の人生というものはあっとういう間に終わってしまい、1人の人間が一生のうちにできることは、ほんとうに少ないのではないかと思いました。

 そう思ったキッカケは、100年前の出来事が忘れられていたことでした。「忘れる」と書きましたが、それは1人の人間の記憶力のことを言っているわけではなく、家族や共同体の記憶として伝承されなくなるという意味での「忘れる」です。

 『精霊の守り人』のストーリーは、ニュンガ・ロ・チャガ(精霊の守り人)であるチャグムに宿ったニュンガ・ロ・イム(水の守り手)の卵を、怪物・ラルンガ(卵食い)から守ることで展開します。ニュンガ・ロ・イム(水の守り手)は100年に一度、卵を人間に産み付けます。卵は夏至の日にかえりますが、それまでに卵がラルンガ(卵食い)に喰われてしまうと、日照りが続き、稲作が甚大な被害を受けます。

 物語では、チャグムを起点にして、バルサや、バルサの幼なじみの薬草師・タンダ、呪術師のトロガイ、狩人たちが活躍しますが、神出鬼没に襲い掛かるラルンガ(卵食い)の攻撃になす術が見つかりません。

 結局、土の精霊であるラルンガ(卵食い)は火に弱いことに気が付き、バルサたちは松明を掲げてラルンガ(卵食い)と戦います。ただ、ラルンガ(卵食い)を退治する方法に気が付いたのは、大松明を振り回して化け物を追う夏至祭での踊りからヒントを得てのことであり、誰かから教えられたわけではありません。当代最高と噂されるトロガイですら、100年前にも同じことがあったはずなのに、なぜ、ラルンガ(卵食い)を退治する方法を誰も知らないのだと地団駄を踏む場面もありました。

 100年と言えば、3世代、4世代ほどでしょうか。100年前の人間たちは、怖ろしいラルンガ(卵食い)との戦いを経験しており、ラルンガ(卵食い)に卵が食われたら甚大が被害を被ることを知っていました。しかし、それは100年後の人々には伝わりっていませんでした。

 なぜ、ラルンガ(卵食い)を退治する方法が忘れられたのだろうと思いました。

 恐らく、100年前にラルンガ(卵食い)と戦った人たちは、ラルンガ(卵食い)がいかに凶暴で、退治するのに苦労することを身に染みて理解し、それゆえに、ラルンガ(卵食い)の弱点を100年後に伝えなければならないと思ったのではないかと思います。

 伝えるためにまず思いつく方法は、語り聞かせることです。100年前の第1世代の人々も、第2世代に、あるいは、祖母が孫娘へという形で第3世代に語り聞かせたのではないかと思います。しかし、それでも伝わらなかったということは、当事者ではない第2世代や、第3世代は、いくら頭では分かっていても、自分が体験したことではないため、どうしても、さらなる第4世代や第5世代に、ことの重要性を伝えることに失敗したのかもしれません。

 なぜ、第2世代以降の人々は、「記憶」を受け継ぐことができなかったのだろうと思いました。勝手なそうぞうですが、人生は短くて、みんな目の前の今や、希望を託す未来を見ることに忙しく、過去を振り返る余裕がないのかもしれないと思いました。人間というものは、こうやって記憶というものを忘れて行き、現象というものは風化していくのかもしれません。

 そう考えると、ラルンガ(卵食い)の弱点や、卵をかえす方法が祭りの儀式の中に残されていたことは、興味深いと思いました。人間は「忘れる」ものですが、同時に人間は「忘れる」生き物であるということを分かっていたり、過去から教訓を得ることの大切さを分かっていたり、教訓を後世に伝えることの大切さを分かっていたりするものでもあり、どうすれば忘れないのかを考える英知を身に着けているのかもしれないと思いました。


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