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流れ行く者・守り人短編集/上橋菜穂子のあらすじと読書感想文

2016年1月4日 竹内みちまろ

流れ行く者・守り人短編集のあらすじ

 バルサが13歳、タンダが11歳の日々を描いた短編集です。育ての親のジグロに連れられてカンバル国から逃げてきたバルサは、トロガイの家で、厳しい武術の稽古をジグロから受けていました。バルサは村に住む少年タンダと仲良くなりますが、ジグロとバルサは追われる身だったので、バルサはジグロに連れられてロタ王国に行きます。

 ジグロは酒場の用心棒の職を得て、バルサはその店で給仕として働きます。ジグロは、バルサに流れ者の暮らしをさせるより、トロガイの家に預けて腰を据えた暮らしをさせたほうがよいのではと思うこともありました。ジグロは、酒場が縄張り争いのために襲撃され、1人で何人もの相手を打ちのめす活躍をしましたが、腕にけがを負い、その後、高熱を出しました。追い出されるような形で酒場の用心棒を止め、護衛士として商隊に加わりながら移動して、トロガイの家に戻りました。

 『流れ行く者・守り人短編集』には、そんな暮らしの中で起こる小さなエピソードが記されていました。

 普通の子どもとは違うタンダにはバルサには見えないものが見えたり、13歳のバルサが商隊に加わり、初めて敵と真剣勝負をして相手を殺す場面もありました。11歳のタンダは畑仕事を嫌がることは親や兄に許されないだろうなと思い悩んだり、バルサが賭け事を覚えて行く場面など、守り人シリーズの作品の中で紹介されたエピソードも描かれています。また、バルサが酒場で給仕として働く姿を想像してみるのも楽しいかもしれません。

 高熱を出したジグロが、酒場の危機を救ったにもかかわらず酒場の主人から厄介者扱いされたように、はぐれ者のジグロとバルサは、世間の人々と深く結び付くことはありませんでした。報酬を得て他人の命を助けることを生業とする用心棒というものがもともと義理とか人情とかを持ち込んだら続けられない家業であることなども紹介されます。また、カタギの人たちが、ひとつ所に腰を落ち着けて暮らすことができない根無し草には心を開かない様子も描かれていました。

流れ行く者・守り人短編集の読書感想文

 『流れ行く者・守り人短編集』を読み終えて、人間同士の絆というものを考えました。

 ジグロも、バルサも、カタギではない人間ですが、バルサが、同じようにカタギではないラフラ(賭博師)のアズノという老女と出会う場面がありました。ラフラは、賭博場のオーナーの預り金で勝負を行い、勝っても、負けてもオーナーの勘定が上下するだけの家業です。最終的にオーナーが儲かるように賭博の流れをコントロールしながら、賭博場を隆盛させたことに対して報酬を貰います。そして、一度でも大負けをすると、ラフラとしてはもうやっていけないとのこと。

 バルサが給仕をしていた酒場の奥にある賭博場で、バルサは、アズノから、ススットというロタ王国で最も人気のある領土を奪い合うゲームのコツを習います。

 ススットのルールでは、領土を巡って戦いや商いを繰り返し、領土の大半を獲得した者が勝ちます。。駒は、「王」や「戦士」のほか、「商隊の商人」、「旅芸人など放浪者」、「暗殺者」などがあり、「1」が出れば「王」、「2」が出れば「戦士」というふうにサイコロの目によって選ばれます。駒の動きは2つのサイコロの目によって左右され、サイコロの目に対応した動きを記した「運命の書」という小冊子に従って勝負は進行していくそうです。利益に換算される金額は、最初に決めた掛金の率で決まるため、大勝負をしかける者がいたりすると大博打になることも。バルサは、アズノのススットでの手を見て、戦いの要所で、獲得した領土や、よい条件を売り、場所取り合戦である勝負に勝つことはできないものの、確実に金を稼げる戦い方もあることを知りました。

 ススットは、経路を羊皮紙に記しておけるため、いつでも中断、再会ができます。アズノは、一帯を治める氏族長の重臣ターカヌと50年にも渡る勝負をしていました。バルサ以外に見物人がいない部屋で、ターカヌとアズノは、ターカヌの孫のサロームを加えて、ススットの勝負を再開します。ターカヌは武人らしく潔癖で粘り強い打ち手を続け、サロームは切れる頭で先の先を読みます。アズノは、ラフラとして賭け事をするときには見せたことのない攻めの技を繰り出し、見物しているバルサを圧倒しました。

 ススットを通して生まれたアズノとターカヌの交流は、読んでいて奥深かったです。

 アズノとターカヌの交流は、ススットというゲームを通して培われたのだと思います。ただ、ターカヌは陽の当たる場所を胸を張って堂々と歩く武人であり、政治家でした。一方のアズノは、完全にカタギの世界からははぐれてしまっています。決して、お茶飲み友達になれるような立場の2人ではありませんでした。

 しかし、2人がサロームを加えて最後のススットの勝負をする場面からは、2人の間に、お互いを思いやる気持ちが芽生えていたことが伝わってきました。通常の世界では交錯することのない2人が、ススットというゲームがあったために、理屈を超えて理解し合っていた様子が心に残りました。好敵手であり、共に歩んできた同志にも見えた2人の関係を築いたのは、ススットというゲームの存在であることも印象深いです。夢中になれる共通の何かがあれば、それが潤滑油となって、人間は立場や理屈を超えて分かり合えるのかもしれないと思いました。


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