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やまなし/宮沢賢治のあらすじと読書感想文

2012年3月5日 竹内みちまろ

やまなし/宮沢賢治のあらすじ

 5月、カニの兄弟が、川底で「クラムボンはわらったよ。」「それならなぜクラムボンはわらったの。」、「クラムボンは死んだよ。」「それならなぜ殺された。」などと言葉を交わしています。魚が上流から下流へ、下流から上流へと泳ぎ去るたびに、「クラムボンは死んだ」り、「そこら中の黄金の光」が「まるっきりくちゃくちゃに」なったりします。突然、天井に白い泡がたって、青光りする鉄砲玉のようなものが飛び込んできて、魚が上のほうへ上ったようでした。兄弟カニがふるえていると、お父さんカニが来てそれは「かわせみ」だと告げました。怖がる子カニへかわせみはカニを襲わないことを教え、「心配するな」と声をかけます。

 12月、子どもカニも大きくなり、川底の風景も変わりました。兄弟カニが泡の吐きっこをしているとお父さんカニがやってきました。「黒い丸い大きなもの」が「ドブン」と落ちてきて、また、上っていきました。子カニは「かわせみだ」と身がまえますが、お父さんカニが「あれはやまなしだ」と教えます。親子3人は、流れていくやまなしを追いました。やまなしが木の枝にひっかかると、お父さんカニは、「もう二日ばかり待つとね、こいつは下へ沈んで来る、それからひとりでにおいしいお酒ができるから、さあ、もう帰って寝よう、おいで」と自分たちの穴へ連れ帰りました。

やまなしの読書感想文

 「やまなし」は、5月と12月という2つの場面で構成される、すぐに読み終わる掌編です。ストーリーが大きく展開するわけではなく、どちらかといいますと、光と色に満ちた幻想的な光景を中心とする場面を積み重ね、かわせみが魚を捕るというエピソードと、やまなしが落ちてくるというエピソードを重ねています。かわせみには襲われることはありませんが、どこかに自然界の危うさを感じさせるカニの生活と、それでも、やまなしが落ちてくるという幻想的なエピソードです。

 「やまなし」で描かれているものは、そんな川底の風景と、そこで素朴でつつましい暮らしを営むカニの姿であり、表現されているものは、それらを見つめる「まなざし」だと思いました。クラムボンは、光なのか、川面に映る何かなのかはわかりませんが、笑ったり、死んだり、殺されたりすると表現しているところに、兄弟カニが、自分たちが厳しい自然の中で生きていることを、意識せずとも本能的にわきまえているような印象があります。

 また、かわせみだと身がまえたら、甘いお酒を出すやまなしが落ちてきていたというエピソードを語る語り手の「まなざし」のやさしさを感じました。2日後には落ちてくるので今日は帰ろうというのも、どこか感慨深いです。

 「やまなし」は、「小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です」という文で始まり、「私の幻燈はこれでおしまいであります」という文で終わります。つまり、「幻燈」について書かれた短い両文に、「五月」と「十二月」の章が挟まれるという構成になっています。語られる本編は、劇中劇という扱いになっており、その劇中劇の物語を、別の誰かに語っている語り手が存在し、その語っている姿を、「やまなし」という作品の語り手は読者に提示しています。劇中劇の語り手が本編を誰へ語っているのかはわかりませんが、そんな構成にも、あたたかい「まなざし」を感じました。


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