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注文の多い料理店/宮沢賢治のあらすじと読書感想文

2011年8月29日 竹内みちまろ

注文の多い料理店/宮沢賢治のあらすじ

 『注文の多い料理店』(宮沢賢治)です。有名な作品なのであらすじは簡単に。

 2人の若くて太った、イギリスかぶれの紳士が、狩りのため、2匹のシロクマのような犬を連れて山道を歩いていました。獲物に巡り合えず、案内人がまごついてどこかへ行ってしまうくらいの山奥に入り込みました。犬たちはめまいを起こし死んでしまいました。しかし、紳士たちは「二千四百円の損害だ」などと動物の命をかえりみない会話をし、お腹がすいたので戻ろうなどと現実感のないことを口にしていました。

 紳士たちは帰り道がわからなくなっていたことに気が付きましたが、ふとうしろを見ると、「西洋料理店・山猫軒」という札が玄関に出された西洋造りの家がありました。中へ入ると、次々と部屋があり、扉には、「どなたもどうかお入りください。決して遠慮はありません」「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご遠慮ください」「壺のなかのクリームを顔や手足にすっかり塗ってください」などと記されています。遠慮はいらないということはタダでごちそうしてくれるのだ、などと利己的な解釈をしていた2人も、体中に塩をよくもみ込んで下さいという文言を見るにいたり、「どうもおかしいぜ」「来た人を西洋料理にして、食べてやる家とこういうことなんだ」とようやく気が付きます。逃げ出そうとしますが、戸にはかぎがかかっていました。

 奥の扉の鍵穴から2つの青い目玉が紳士たちがいる部屋の中をのぞいており、「だめだよ、もう気がついたよ」「いらっしゃい、いらっしゃい」「親方がもうナプキンをかけて、ナイフをもって、舌なめずりして、お客さま方を待っていられます」などと言っています。紳士たちは泣きだしましたが、その時、シロクマのような2匹の犬が扉を破って部屋に入ってきました。犬は次の扉にとびかかり、真っ暗闇になっている向こうへ突進して行きました。向こうから「にゃあお、くゎあ、ごろごろ。」という声がし、部屋は煙のように消えて、2人は寒さに震えながら草の中に立っていました。

 犬と案内人が戻ってきて、2人は東京へ帰りました。しかし、いっぺん紙くずのようになった紳士たちの顔は元通りには戻りませんでした。

注文の多い料理店の読書感想文

 『注文の多い料理店』は、読み終えて、作者の意図や思想がわかりにくい作品、言葉を換えれば、奥が深い作品だと思いました。ちなみに、『セロ弾きのゴーシュ』を読んだ時も同じように感じました。

 表面的にストーリーだけを追えば、西洋かぶれの紳士を風刺した教訓話だと思います。しかし、紳士たちとて、ブルジョアや、貴族ではなく、たんなる西洋化の流れのなかでかぶれた小物だと思います。世の中の流行にうかれてちょっと舞い上がるくらいのことは、いつの時代にもあり、動物の命うんぬんをさておけば、目くじらをたてるほどのことでもないような気がします。ましてや、紳士たちは、人のよい田舎者でだまされて痛い目に遭いそうになったという程度で、それが悪だとか、糾弾されるべきだと主張するのであれば、もっと別のストーリーを構築する必要があると思います。

 しかし、宮沢賢治は、2人を助けてはいますが、たかが小物である2人の顔に一生の刻印を押しています。何かそこに強い主張や思想を感じるのですが、一生の十字架を背負わされるには紳士たちがのんきでお人よし過ぎ、かえって、明確な悪意などが感じられません。

 『注文の多い料理店』は、単なる教訓話、説話ではなく、読み終えて、何ともいえない違和感やふに落ちない気持ちを含めて、読者の心に波紋を呼ぶような作品だと思いました。作者が自分の思想や主張を前面に出すよりは、問題を提起することによって、読者の心に波紋を呼び、それが読者の中で次の何かを生み出してくれたらと願って書かれた作品なのかもしれないと思いました。


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