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どんぐりと山猫/宮沢賢治のあらすじと読書感想文

2012年8月17日 竹内みちまろ

どんぐりと山猫/宮沢賢治のあらすじ

 一郎は、土曜日の夕方、めんどうな裁判をするので来ませんか、という内容のおかしな葉書を受け取ります。差し出し人は「山ねこ」で、飛び道具を持たないで下さいという但し書きも。一郎はうれしくなって、家中を飛び跳ねました。

 一晩寝て目を覚ますと、真っ青な空のすがすがしい日が明けていました。一郎は、ピーピーと笛を吹く滝や、楽隊きのこや、くるみの木の上を飛び回るリスに導かれて、かやの木に囲まれた黄金色の草地にやってきました。そこで、山ねこの馬車別当という男が一郎を待っていました。

 風が吹き、一面の草が波立つと、山ねこが現れました。山ねこは、一郎に、実はめんどうな裁判が起きているので考えを聞きたいと切り出します。草の中から、どんぐりたちが飛び出し、頭がどんがっている私が一番えらい! 一番丸い私がえらい! 一番大きなわたしがえらい! などと訴え始めます。どのどんぐりが一番えらいのかを決める裁判のようでした。しかし、裁判は3日も続いているのですが、収集がつかない状態のようです。

 そこで、山ねこが一郎へ、「このとおりです。どうしたらいいでしょう。」とそっと耳打ちしました。一郎は、笑って、「いちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、いちばんえらい」と言い渡したらどうでしょうと告げました。「お説教できいたんです」といいます。なるほどと思った山ねこが、そう言い渡すと、どんぐりたちは、自分がそうだと名乗り出るものはなく、しーんとして固まってしまいました。

 裁判を一言で片付けてしまった一郎は、山ねこから名誉判事になり、これからも葉書が来たら裁判に来てくださいと依頼されます。一郎は快諾しましたが、葉書に「明日出頭すべし」などと記載することは遠慮してもらいました。一郎は、黄金のどんぐりが入ったますをもらいましたが、家に着いたときには、普通の茶色いどんぐりになっていました。その後、山ねこから、葉書が来ることはありませんでした。

どんぐりと山猫の読書感想文

 『どんぐりと山猫』は掌編ですぐに読み終わります。インターネット上に小説を掲載するサイト「青空文庫」にも収録されていますので、読んだ方は多いのではないでしょうか。今回は、技法に焦点をあてて、読書感想文を書いてみたいと思います。

 『どんぐりと山猫』は、説明をせずに描写せよ、という王道を守った佳作だと思いました。冒頭でいきなり、山ねこからの裁判への招待葉書が届き、へんてこな内容でしたが一郎は歓喜します。なんで一郎がよろこんだのかなどはいっさい説明されません。また、裁判にしても、なぜそんな裁判が起きたのかや、そもそもなんで山ねこが裁判長をしているのかなどの説明はありません。さらに、裁判をまとめたお礼に、山ねこは、「黄金のどんぐり一升」と「塩鮭のあたま」とどちらがいいですかと尋ね、一郎が前者を選択すると、馬車別当の男に、鮭の頭ではなくてよかったなどと早口で告げていましたが、なぜ、鮭の頭でなくてよかったのかなどは、読者には明かされません。

 しかし、一郎が裁判に参加したり、どんぐりたちが勝手な主張をして山ねこを困らせたり、別当の男がどんぐりをますに入れて計ったりする描写が続くと、不思議な物語にどんどん引き込まれていきます。ラストシーンで、葉書が来なくなった一郎が、「やっぱり、出頭すべしと書いてもいいと言えばよかった」と思うことがあると提示されると、冒頭で起きた疑問(どうして一郎は裁判への招待が来て喜んだのだろう)はすでに吹き飛んでおり、読み終えて、妙に納得してしまいます。『どんぐりと山猫』は宮沢賢治が作り出す不思議な世界観の中で物語が進みますが、招待状が来て飛び上がって喜ぶ少年の心や、みんながそれぞれ勝手な主張をするため困ってしまう山ねこの姿などは、特別に説明しなくても物語を破綻させることはなく、またどんぐりや山ねこたちの姿からは、人間にとってはときに異世界であり脅威にもなる自然を感じさせ、それだけ、宮沢賢治が「本質」というものを描いているのだなあと思いました。


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