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映画「僕の村は戦場だった」アンドレイ・タルコフスキーのあらすじと感想

2006年12月14日 竹内みちまろ

監督:アンドレイ・タルコフスキー(1962年/ソ連)
主演:コーリャ・ブルリャーエフ、ワレンティン・ズブコフ、E・ジャリコフ、ニコライ・ブルリャーエフ

 「僕の村は戦場だった」は、第二次世界大戦が舞台の映画です。破壊された教会にはロシア正教で用いられる聖像画が描かれていました。ロシア戦線の奥深くという設定のようです。川をはさんで侵攻するドイツ軍をソ連軍が食い止めています。ソ連軍に少年が捕まりました。びしょ濡れです。対岸から川を泳いできたと言います。冬です。鍛え上げた大人でも渡河に失敗して溺死するほどの寒さです。少年は、前線の偵察を終えて戻ってきたのでした。

 「僕の村は戦場だった」は、少年と大人たちの物語が交錯する数日間を描いた映画です。部隊を指揮する大隊長クラスの軍人がいました。兵卒に指令を出しながら部隊と行動をともにする中隊長たちに指令を出すレベルの上級大尉です。ドイツ語が堪能で、絵画や文学や音楽にも造形が深いようです。ただ、自分では蓄音機を修理できないし、かといって、そこらへんにいる兵卒をつかまえて修理させることもしないような人物でした。有能ではありますが、どこか他人との間に壁を作って自分だけの理想を思い求めるような青年です。

 もうひとり、少年とともに特殊任務を帯びた将校がいました。前線の部隊とは指揮系統が違うようです。後方にいる師団長クラスよりも(司令部直結だからかもしれませんが)ある意味では権力との強いパイプを持っている特殊将校です。上級将校を「銃の撃ち方を知ってるか?」とからかったりします。上級将校は「子ども扱いするな」と憤りを言葉にします。特殊将校は「むきになるな」とすかしていました。

 部隊に、美しい軍医がいました。ウエーブのかかった髪の毛から、はにかんだ笑顔を見せます。男が着るような軍服が、かえって、軍医の透き通るような肌を際立たせます。部隊を指揮する上級将校が地下に作られた病室に入ってきました。上級将校は、美しい軍医に、「戦闘がはじまってしまえばそれどころではなくなるが」などと言いながらも、「シラミが沸いたのは君の責任だ、2日で処理したまえ」などと威圧的に命令します。戦闘がはじまる前にやることは他にたくさんあるように思われます。上級将校は口実を見つけて病室にやってきたようでした。軍医は、敬語を使って上級将校に形式ばった返答をします。軍医が体を硬直させた瞬間にうしろの文机からメモが落ちました。上級将校がメモを拾ってあげました。2人の距離が縮まります。目と目があいました。でも、それ以上は、何も起こりません。軍医が顔をそらしました。逃げるようにして体をひるがえします。上級将校も追いませんでした。

 「僕の村は戦場だった」では印象に残った場面があります。特殊将校と上級将校は、少年を連れて、夜の川を対岸に渡りました。偵察任務を帯びた少年が、一人で、ドイツ軍のいる谷のほうへ進んでいきます。特殊将校は、雨さえ降れば谷までの少年の足跡が消えるのにとくやしがります。2人の将校は再び川を渡って自陣へ戻りました。2人の将校は、地下壕に入って虚脱感に襲われていました。美しい軍医が現れます。特殊将校がうれしそうに声をかけます。軍医は別れを言いに来たのでした。特殊将校が上級将校を振り返ります。上級将校は、後方の野戦病院に転属させることにしたと、特殊将校にも軍医にも背中をむけたまま答えます。あとは、黙ってたばこの煙をはきだしていました。軍医は地下壕を去ります。特殊将校がレコードの針をあげました。響いていたアリアがぴたりと止まります。特殊将校は「じつに静かではないか」とつぶやきます。「戦争ってやつは……」と言いかけて、あとを続けることを止めました。

 「僕の村は戦場だった」のラストシーンで、ベルリンに入城したソ連軍が映されました。貴族みたいなりりしい顔をしていた上級将校の顔にも銃創が刻まれています。険のあるを顔をして、我々はついに生き延びたのだと感慨します。泥沼をはいつくばって、ドイツ兵を何人も殺して、たどり着いたベルリンのようです。そこで少年の物語と大人たちの物語が交錯しました。戦闘がはじまる前に起こりそうになった軍医との一瞬の恋も、母と妹といっしょに過ごした日々を回想する少年の思い出も、けっきょくは、何も生みませんでした。

 「僕の村は戦場だった」は、戦争のあとに残る静けさを描いた作品だと思いました。


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