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映画「サクリファイス」アンドレイ・タルコフスキーのあらすじと感想

竹内みちまろ

監督:アンドレイ・タルコフスキー、1986年/スウェーデン/フランス
主演:エルランド・ヨセフソン、スーザン・フリートウッド、アラン・エドワール

 「サクリファイス」は冷戦の最中に作成された作品です。ヨーロッパの(多分)北部の寂れた土地で隠棲生活を送る大学教授が主人公です。冒頭の場面で、老教授が海辺に木を植えます。小学校にあがるまえくらいの男の子といっしょです。最初は孫かなと思ったのですが、どうやら、男の子は老教授の息子のようです。老教授は、毎日同じ時間に同じことを繰り返せば、願いはいつかかなうと男の子に告げます。男の子は帽子を深くかぶって顔が見えません。自転車にのって向こうからやってきた郵便配達員に子どもらしいいたずらをしてキャッキャッとはしゃぐ姿もありました。植えた木を見あげた老教授は、日本の活花のようだと満足げです。教授は「回帰」という言葉にこだわっていました。文明社会のなかで人々は大切なものを失ってしまったとなげいていました。

 「サクリファイス」は、老教授の誕生日をおった作品でした。娘と娘婿がプレゼントを持って隠棲生活を送る一軒家に来ます。老教授は、贈られたロシアの聖像画の画集を見て、「邪心がない、子どものように純粋だ」と感動します。空に轟音が響きます。大地が揺れました。テレビからは、パニックを起こさぬように国民に訴えるメッセージが流れます。うろたえた声で「やるべきことはすでに述べたとおりだ」という声の主は首相かだれかだと思いました。どうやら、核攻撃がはじまったようです。

 核の夜が明けました。老教授はただならぬ様子です。ベッドから起きてから、ガウンのようなものを羽織りました。シャツとズボンを身につけていたので、ガウンではないと思いました。かといって、室内で外套を羽織るのは、ヨーロッパ人のルールに反することであるような気がします。セーターや、カーディガンのようなものかと思いましたが、それとも違いました。老教授は、ガウンのようなものをはおったあとに、なんと、帯を締めはじめました。それも、慣れた手つきで2重に締めました。ゆったりと締めながら、それでいて、体をねじってもほどけないほどしっかりと結んだ手際は、日本人でも見習いたいほどのよさです。どうやら日本の着物のようです。老教授は木目が美しい開き戸の扉を開けて、ステレオのスイッチを押します。尺八でしょうか、夜空に黒雲を呼び起こすような激しい音が鳴り響きます。鳥居が祭られた山々から荒ぶる神を呼び起こすような呪術的な音色にも聞こえます。日本の着物を着て、日本の音楽を奏でた老教授は、一軒家に火を放ちました。

 「サクリファイス」はラスト・シーンが印象的でした。「サクリファイス」を見終わって「希望」というものについて考えました。製作者が心に「希望」を持っているか、あるいは、製作者が作品をとおして「希望」を提示したかったのかということではなくて、うまく言えませんが、作品というものは、(ときに製作者の意図を超えて)見る人をいたわるものなのかもしれないと思いました。映画「サクリファイス」は核戦争をテーマにしています。老教授も老教授の良き友人である娘婿も、現実世界に喜びや幸せを見出せないようでした。老教授には「絶望」や「狂気」の影もちらつきます。しかし、「サクリファイス」のラスト・シーンを見て、心がやさしい慈愛に包まれたような気持ちになりました。「絶望」や「狂気」を描いた作品であっても、すぐれた作品というものは、見る人をやさしく包み込んでしまうのかもしれないと思いました。


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