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映画「ローラーとバイオリン」アンドレイ・タルコフスキーのあらすじと感想

2006年12月14日 竹内みちまろ

 「ローラーとバイオリン」という映画をご紹介します。監督:アンドレイ・タルコフスキー、1960年/ソ連、主演:J・フォムチェンコ、V・ザマンスキー、N・アルハンゲルスカヤ。

 「ローラーとバイオリン」は少年と労働者の青年の一日の交流を描いた作品です。「ローラーとバイオリン」はバイオリンと楽譜を抱えた7歳の少年が忍び足でアパートの階段を下りる場面からはじまります。少年は近所の悪ガキ(というよりはロー・エイジ・ギャング)たちに見つかってしまいます。悪ガキたちにバイオリンを取り上げられてしまいました。労働者の青年が悪ガキたちを追い払ってくれます。少年ははにかみながらその場を去ります。少年はバイオリンのレッスンを受けるために革命前に建てられたような石造りの大きな建物に入っていきました。少年がシャンデリアがぶら下がっている廊下でレッスンの順番を待っていると白いリボンをつけた女の子が順番待ちの椅子に座りました。(ナターシャという名前かもしれない)女の子は「こんにちは」と少年に声をかけます。少年も下を向きながら「こんにちは」と答えます。少年は女の子が気になるようです。部屋に入るときに、女の子の椅子にそっとりんごを置きました。少年は、レッスンの帰りに、労働者の青年が運転する道路舗装の特殊車両のわきでたたずみました。特殊車両のエンジンの具合を見ていた青年は、そこにころがっているスパナを取ってくれと声をかけます。少年は、エンジン修理の臨時助手となりました。

 昼休みになった青年は、少年をメシにさそいます。牛乳瓶とパンの食事でした。少年は、親から禁じられている生の牛乳を飲むのがうれしいのでしょうか、何度も牛乳をラッパ飲みします。青年はバイオリンケースの取っ手をペンチで直してあげました。少年は、このバイオリンは子ども用で手がもっと伸びたら本物を買ってもらえるんだと言います。青年は「いつから?」と聞きます。少年は「習って2年」と答えます。青年は「いつまで習うんだ?」と少年に聞きました。少年は「先生は一生かかるって言うよ」とこともなげに答えます。青年ははっとして手を止めました。バイオリンを見つめます。「それで小さいときからはじめるわけか」と言いました。青年はバイオリンに何かを感じたようです。少年が「持ってみる?」とバイオリンを差しだします。青年はバイオリンと少年の顔を交互に見比べます。青年は、ハンカチでわざわざ手をふいてから、バイオリンを手に取りました。

 「ローラーとバイオリン」では印象に残っている場面があります。バイオリンを少年に返した青年は「何か弾いてくれ」と頼みます。少年は絃の具合をたしかめます。2人の姿を青年の仲間の若い女の労働者が見つめていました。女は青年に気があるようです。でも、少年と青年は、女のことなど気にかけません。女は、2人がいる世界に背を向けるように、ぷいっと向こうへいってしまいました。少年のバイオリンの音色が響きはじめます。青年は目を閉じます。青年の横顔に光が当たります。崇高さ、喜び、あこがれ、青年が何を感じていたのかはわかりません。青年はじっとバイオリンの音色に聞きいります。少年の演奏が終わりました。少年はバイオリンをケースにしまいます。演奏が終わったあとも青年は余韻を楽しむかのようなうれしそうな顔をしていました。青年はふと目で何かをさがすように光が差し込む周りの壁や天井を見渡します。青年の心にバイオリンの音色が再びよみがえります。青年は「そろそろ行くか、仕事だ」と少年に声をかけました。

 「ローラーとバイオリン」のストーリーは2人が映画を見に行く約束をすることで展開します。油だらけになって帰って来た少年は母親に「ローラーの運転手と友だちになったんだ」と告げます。母親は不安そうな顔をします。「今日はナターシャたちが来るのよ」と少年に外出を禁じてしまいました。

 「ローラーとバイオリン」は少年の一日を描いた46分の短い作品でした。少年と青年のすれ違いをとおして現実というものを描きあげた作品だと思います。「ローラーとバイオリン」を見終わって、世の中にはどうにもならないことがあるのかもしれないと感じました。世界にはそんな現実を浮き彫りにしてしまう一瞬が存在するのかもしれません。時計を裏返し、鏡を見つめた少年の心はバイオリンの音色にのって階段を駆け下ります。少年の心像風景を描いたラスト・シーンが心に染みました。


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