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映画「ノスタルジア」アンドレイ・タルコフスキーのあらすじと感想

竹内みちまろ

監督:アンドレイ・タルコフスキー、1983年/イタリア/ソ連
主演:オレグ・ヤンコフスキー、エルランド・ヨセフソン、デリア・ボッカルド、ドミツィアーナ・ジョルダーノ

 「ノスタルジア」は、(いわゆる)ストーリー展開がある作品ではありませんでした。ロシア人の伝記作家が通訳の女性といっしょにイタリアを旅する姿が描かれています。伝記作家が軌跡を追っているのはイタリアに来たロシアの音楽家のようでした。自由を手にしたロシアの音楽家は郷愁にとらわれて暗いロシアに帰ったようです。故郷で、酒におぼれて自殺したことが語られました。

 「ノスタルジア」は、2人がイタリアの寺院を訪れる場面からはじまります。伝記作家が通訳の女性に「イタリア語で話せ」と注意します。車から出た通訳の女性は、「見て、美しいわ」、「光線がモスクワに似ている」、「来て」と伝記作家を促します。伝記作家は、「俺は行かないぞ」と答えます。「美しい風景など見飽きている。結局は自己満足に過ぎない」と伝記作家は心の中で言います。通訳の女性は、イタリアの寺院のなかでみんなと同じようにひざをついて祈ることができませんでした。イタリアでは(信仰的な)習慣を事にする異邦人のようです。伝記作家が手がけている音楽家のことは名前だけしか知らないようです。研究者や出版関係の人間ではないことがわかりました。モスクワから来た2人は、政治的なことも含めて、なんとなく訳ありな雰囲気があります。

 「ノスタルジア」にはドメニコというイタリア人が登場します。信仰的な危機から家族を守るために、妻や幼い息子を7年間も家に閉じ込めた経歴があるようです。伝記作家の男は、ドメニコに興味を示します。ドメニコは「家族を救おうとした自分は間違っていた」と伝記作家に告げます。伝記作家は、無言で聞いています。ドメニコは、「世界を救うべきだったのに」と付け足しました。

 伝記作家と知り合うことによって、ドメニコの心のなかに変化が起きたようです。ローマに行って何日も街頭演説を続けます。ローマの人々はそんなドメニコを無言で見つめていました。

「自然を観察すれば人生は単純だと分かる。原点へ戻ろうではないか。単純な原点へ。道を間違えた場所まで戻るのだ。水を汚すことなく、根源的な生活へ戻ろう」

 ドメニコはそう叫んだあとに、ガソリンをかぶって焼身自殺しました。

 伝記作家は、ドメニコから、ろうそくをともしたまま温水場を渡ってくれと頼まれていました。ドメニコは、何度か試みましたが、そのたびに、狂人が自殺する気だと言われて止められてしまったようです。伝記作家は、3回試みて、3度目に、ろうそくをともしたまま、温水場を渡りきることができました。ちょっとした保養地のようになっている土地の人々は、みんなそんな伝記作家を無言で見つめていました。

 「ノスタルジア」では、タイトルにもあるように、伝記作家の郷愁がテーマになっていました。ロシアにある故郷と妻や母親の思い出の場面が何度も現れます。伝記作家が「イタリア語は苦手だからここからはロシア語で話す」と語りかける場面もありました。伝記作家は、沼でおぼれている人を助けたら「よけいなことはするな。俺はここに住んでいるのだ」とどなられたという、冗談にはならない小話を自嘲気味に聞かせていました。

 「ノスタルジア」には、郷愁の他にもテーマがあるように感じました。ドメニコの演説に出てきた諫めも、「ノスタルジア」はテーマにしているように感じました。恥を知り、始原に返ったあとに何が起こるのか、またそうするにはどうすればいいのかは、「ノスタルジア」では語られていないように思いました。ただ、そんなことを考える人間は、狂人扱いをされるという現象は提示されていたような気がします。

 「ノスタルジア」を見て一番感じたのは、もどかしさでした。製作者の心の中には、どんなにもどかしくても、それを形にして表現せざるをえない何かがあったのかもしれないと思いました。


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