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時をかける少女/筒井康隆のあらすじと読書感想文

2013年3月25日 竹内みちまろ

 『時をかける少女』(筒井康隆)を読みました。文庫サイズで100ページほどの短編です。あらすじ(ネタバレ)と感想です。

 高校一年生の芳山(よしやま)和子、深町一夫、浅倉吾朗の3人が理科教室の掃除をしています。二人の男の子が手を洗いに行っているとき、和子は理科実験室でもの音を聞きます。ドアを開けます。ガラスが割れる音がして、さっと身を隠す影を見ました。ラベンダーの香りが漂います。和子は、意識を失いました。床に倒れている和子を発見した一夫と吾朗が、担任の福島先生をつれてきます。和子は意識を取り戻しました。和子に不思議なことが起こり始めます。

 『時をかける少女』は、ずんぐりむっくりな吾朗、大人びたやせのっぽの一夫、それに和子の三人の青春ドラマでした。和子は、時間と場所を飛び越えてしまう能力を身につけてしまったのですが、その力を使って何かしようとか、好きな人に会いに行こうとか、そんなことを考えるわけでもなく、また仮に考えたとしてもその暇もなく、トラックにひかれそうになったり、地震が発生したり、火事が起きたりして、たいへんな目に遭います。また、和子には好きな人はまだいないようでした。地の文で、この年代の女の子にとっては同じ年の男の子は恋愛の対象にならないという内容が書かれていました。ただ、和子は、そういったタイプというよりは、まだ恋というものをしたことがなく、恋というものによくわからないけどほんのりとしたあこがれを持っているような女子生徒という感じでした。

 『時をかける少女』のストーリーは、実は一夫が未来から来た科学者の卵であることが明かされて、展開します。一夫は、時空を越える薬の研究をしています。どこか大人びた一夫は、実は、年上でもありました。一夫は、和子に、君のことが好きなんだと恋を打ち明けます。和子も、はじめての告白に胸を高鳴らせます。しかし、一夫には、薬の研究を完成させるというミッションがありました。一夫は、和子と別れて、未来へ戻ることを選択します。和子の頭から、記憶を消して、帰って行きました。

 読んだのは文庫版の『時をかける少女』ですが、奥付を見ると、初版が昭和51年(1976)になっています。ずいぶんと昔に書かれた作品ですが、自分の高校1年生のころを思い出しました。女の子に興味を持ちつつも、まだ恋というものを知りませんでした。中学校を卒業して、高校生という新しい世界が始まっているのですが、まだ大人へと続くその世界へ完全には入っていないような高校1年生特有の純粋さと、清らかさと、胸の高鳴りが描かれていました。

 ふと、これが現代に書かれた小説なら、もっと別のことが起こっているかもしれないと思いました。でも、自分の高校生のころを思い出して、現実はもっと素朴で、派手な事件や、どきどきするような展開はないと思いました。同時に、それゆえに、内面のときめきは、今思い返すよりも大きかったような気がします。あとになってから思い返すという現象自体がそもそも大人の発想です。高校1年生は、そんなことをする必要もなく、目の前にある時間を純粋に生きる時代です。未来というものを考えなくても、未来に恵まれている時代です。それゆえに、過去を考える必要もありません。

 『時をかける少女』には、そんな時間を生きている少女の心の揺れがほんのりと描かれていて、ほんものの作品は、それこそ時を超えて、読み継がれるのだなと思いました。


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