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ねらわれた学園/眉村卓のあらすじと読書感想文

2012年9月14日 竹内みちまろ

ねらわれた学園/眉村卓のあらすじ

 2年生だけで500人ほどいる、有名高校への進学を第一とする阿倍野第六中学で新学期が始まりました。学校から150メートルほど離れた南大阪団地に住む同校2年3組の関耕児は、学級活動の時間に、予期せぬ形でクラス代表委員に選出されました。副代表は、団地の同じ階に住む幼馴染で席も隣の楠本和美でした。2人と、代表、副代表の座を争った西沢響子は、以前、誰かが教室の黒板に教師をちゃかす落書きをしたさい、「犯人」を見つけ出すことを提案していました。そのときは、「クラスから悪者を出して、どうするつもりなんだ?」と耕児に止められていました。

 響子と親しい2年生の高見沢みちるが、選挙で3年生の反対票を押し切って生徒会長になってから、学園がエスカレートしていきました。みちるは、1年生のころは目立たない存在でしたが、立候補演説の時には毅然とした声をあげ、生徒たちを圧倒する迫力を身に着けていました。耕児は、みちるに圧迫を感じつつも、ときおり見せるほほ笑みに、つい、引きつけられていました。しかし、クラス代表委員として出席した最初の生徒会で、みちるが「校内パトロール」を提案したときは、3年生の大半に交じって、1、2年生ではただ一人となる反対票に手をあげました。しかし、多数決で、校内パトロールを行うことが議決され、クラス代表委員からなる生徒会代議員から希望者が募られ、黄色い腕章をつけ、ホイッスルを持ち歩く校内巡回パトロールが開始されました。和美が「わたし、いやな予感がする。」と耕児にささやきます。

 和美の予感どおり、校内パトロールは、当初はたばこを隠れてすったり、口紅をした生徒がつるしあげられる程度でしたが、廊下でプロレスごっこをしたり、遊び道具を学校へ持ってきた生徒までやりだまにあげられ、「耕児、おまえの学校、妙なことをはじめたらしいな。」と父親から声をかけられるくらい、エスカレートしていきました。パトロール員たちは、たばこを吸う生徒から殴りかかられても、ホイッスルで仲間を集めて逆に殴りかかってきた生徒たちを取り押さえ、教師たちは生徒会で決まったことなので……と静観していました。

 耕児はパトロールには加わりませんでしたが、耕児のクラスの吉田一郎が、野球部の練習中にボールを追いかけて金網を乗り越えたことをパトロールに「告発」されました。

 耕児は、深夜、みちると、高校生らしき少年・京極とほか2名の合計4名が、白い制服を着て歩いているのを、団地から見かけました。耕児は、あとをつけて、みちると京極に気づかれますが、みちるは「塾」に行っていただけだといいます。京極が「高見沢くんに聞いているが、あす、きみのクラスで、きみの仲間をどうするか、討議があるそうだ。そのとき、きみが無用の抵抗をしないよう、ここで警告しておくほうがいいだろう。」などと言うと、みちるが超能力を使い、耕児の頭に激痛が走りました。みちるは「これでもまだ、わたしたちと対立するつもりですか?」とさらに耕児を痛めつけ、京極の「高見沢くん、やりたまえ。」という指示で、超能力で耕児の身体を地上2メートルくらいまで持ち上げてから、地面に落としました。

 翌日、「告発」された吉田一郎をどうするのかを、一郎が所属する耕児のクラスの学級活動の時間に話し合わなければなりませんでした。担任の山形先生も同席し、そして、時間になると、生徒会から、みちるほか2名がオブザーバーとして乗り込んできました。みちるが威圧し、西沢響子が「関さん! 生徒会長にたてつくの?」とたたみかけますが、耕児はあらかじめ作戦を話し合っていた和美と協力して、吉田には何の罰も与えないことを決定しました。しかし、その決議は、耕児のクラスと生徒会との全面戦争を呼び、学園をパニックに陥れました。

 「ねらわれた学園」のストーリーは職員会議の結果、全校生徒に帰宅するように指示が出ることで展開します。耕児と和美たちは、その機会を逆にチャンスととらえ、クラスを2手に分け、急病で休んでいた担任の山形先生の家と、自殺未遂をしたという西沢響子の家へ向かいました。山形先生は、高見沢みちるをはじめとする生徒会のやっていることはおかしいという耕児たちに理解を示し、響子の家では母親が、「あんたたち、うちの響子をそんなに殺したいの?」と逆上しました。合流した生徒たちは、みちるや、みちるに命令している京極という高校生らしき少年が通っている「英光塾」へ行きました。

 耕児たちは「英光塾」で京極と対決します。が、超能力を使う京極にはかないませんでした。しかし、京極は、「おまえらのような、わけのわからぬ連中が出てくるとは、私は計算しなかった。」といいます。京極は、自分には「使命」があり、「ここではこれ以上、うまくいきそうもない」ため、別の場所へ行くと言い始めます。京極は、文明が破産しようとしている未来から来て、一人ひとりの人間たちが自由や権利を勝手に主張した過去を変えなければ、その未来の世界を救うことができないといいます。京極は、「それを、なんにも知らないおまえたちばかどものせいで、全部つぶされたのだ」とくやしがりますが、「この時代の別の場所で仕事を再開するだけのことだ。」と口にします。去ろうとする京極に、みちるが、「わたしは、あなたとともに仕事をつづけます。あなたに教えられた使命を、最後までやりとげたいんです!」とすがりました。京極は、「きみは、ほんとうの仲間ではない。」と告げますが、みちるの「京極さんの役にたちたいの! 家族も学校も何もいらない。いっしょに……つれて行って!」という言葉を聞いて「わかった」と言います。京極とみちるは消え、英光塾は燃えてしまいました。

 耕児たちの学校に平穏が戻ろうとしていました。しかし、和美は、耕児に、「このあいだまでと同じような、あるいは似たことが、これからもまだあるんじゃないだろうかって気がするのよ。そう思うと、これからの、死ぬまでの一生が、変に長いような感じがする。」と、つぶやきました。耕児が答えないでいると、和美は、「いいえ、これはただの予感。」と小さな笑い声を立てました。

ねらわれた学園/眉村卓の読書感想文

 『ねらわれた学園』は読み終えて、ハッピーエンドじゃないんだな、と思いました。ただ、個人的には、ハッピーエンドよりも、余韻やせつなさが残る物語が好きなので、楽しく読めました。

 ラスト・シーンで和美が漠然と抱いた不安は、社会への不安であり、同時に、人間存在そのものが内包する(歴史的に何度も繰り返される)問題への不安だと思いました。どんなに心を強く、そして、誠実に持っても、社会や大衆というものは自分の外側に広がっています。また、そんな自分だって、いつ、不特定多数の大衆や、社会の悪しき部分の一員になるかわかりません。人間が生きるということは辛くたいへんなことで、だからといって、何がよくてどうあるべきかの答えは存在せず、自分の人生は自分自身で決めるしかありません。そんな人間存在の根源的なつらさのようなものを、和美は感じたのではないかと思いました。

 また、耕児が、みちるのほほ笑みが、どうしても魅力的に見えてしまうところも、印象深かったです。みちるは、洗脳がかっていることは確かですが、だまされたわけではなく、みちる自身が選んだ道でした。もちろん、背景には、京極への恋慕があるのですが、その京極への恋慕も含めて、人間があれほど、何かに純粋な情熱を向けることができ、全てを捨てるまでに真っ直ぐに何かを信じ、そして何よりも、現実世界での行動に移すことができる姿というものは、理屈を越えた魅力を持つのかもしれないと思いました。

 和美は、感受性が強く、理知的で、漠然とした不安を敏感に感じ取っています。いっぽう、みちるも、和美とは違った意味で感受性が強く、理知的で、敏感で、そして芯の強い少女です。性格や、思想や、発想や、行動原理は、それぞれ違いますが、真っ直ぐに、そして、生きるということに情熱を持っていることは同じだと思いました。耕児がみちるのほほ笑みに魅力を感じたのは、みちるの真っ直ぐさや、そして、もしかしたら自信満々の笑みの裏側に隠されている不器用さや、せつなさに、引かれたのかもしれないと思いました。


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