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セーラー服と機関銃/赤川次郎のあらすじと読書感想文

2015年9月18日 竹内みちまろ

 小説『セーラー服と機関銃』(赤川次郎)を読みました。1978年(昭和53年)に刊行された作品です。あらすじ(ネタバレ)と感想をメモしておきたいと思います。

 私立高校に通う2年生の星泉(ほし・いずみ/17歳)は、貿易会社の営業部長として活躍していた父親の貴志(45歳)が、成田空港で大型トレーラーにひかれて死にました。

 そこから、不思議なことが起こり始めます。不思議なと書きましたが、それは「不思議な」などという言葉ではとても表せない出来事ばかり。一つ目は、泉が、ヤクザの組長に就任したこと。目高組のそれまでの組長が死に、遺言で、組を甥に継がせるよう言付け、それがかなわない際は甥の血縁の者に組を継がせるよう言いつけていました。貴志が組長の甥でしたが、すでに死んでいました。

 泉は、就任依頼をかたくなに断ります。いったんは、泉の組長就任は無くなります。しかし、不安がよぎって泉が組の事務所へ引き返すと、案の定、佐久間が死んだ前組長の写真を前に、組長への義理を立てるため、拳銃で自害しようとしていました。

 そんなことがあって泉は組長を引き受けたのですが、その後は、一帯を取り仕切る大親分の浜口にタンカを切ったり、見覚えのある貴志の筆跡で記された、自分に何かがあったときは「私のマンションで、娘の泉と一緒に暮らしてほしい」という手紙を持ったマユミという女がマンションに現れたり、黒木巡査部長がマンションにやって来て、貴志が「小さな包みのようなもの」を持っていなかったかと聞いてきたり、目高組のシマが増えたことによりとばっちりを食った松の木組が事務所に嫌がらせの機関銃掃射をしてきたりと、めまぐるしく、事件が起こります。貴志は麻薬の運び屋で、2億円相当のヘロインを持っていたとのこと。ヘロインを失った浜口のライバルの組長(通称「太っちょ」)まで絡んできます。マユミや、泉のマンションのカードマンが殺害されます。

 ストーリーは、泉がコンクリート詰めにされそうになったり、浜口にキスを奪われたり、太っちょが泉をいたぶったりしながら、行方不明になったヘロインを起点に展開します。泉ファンクラブの3人や、佐久間が大活躍し、クライマックスを迎えます。

 『セーラー服と機関銃』を読み終えて、人間は何のために生きているのだろうと、考えさせられました。

 泉は哲学的といいますか、思索的なところがあります。佐久間が「お嬢さんはいいお仲間をお持ちですねえ」と3人組を褒めたとき、泉は、「みんな若いから……。それに学校は受験、受験でしょう。何かこう救いになるようなものがほしいのね」と返します。佐久間は「……時々、お嬢さんには驚かされますな」、「えらく、こう――さめてるというか、溺れない、というか」と感心していました。

 『セーラー服と機関銃』は、泉が突然、異世界へ連れ込まれ、そこで日常では考えられない冒険をして、機関銃をぶっ放すことで、現実世界に戻って来る物語です。

 ストーリーだけを辿れば、主人公が神隠しに遭ったり、異世界に迷い込んだり、旅をするというような、伝統的な物語の形式に収まっています。

 しかし、『セーラー服と機関銃』は、日常ではありえない出来事が展開することによって、かえって高校生たちが生きている日常というものが、泉のさめた目線を通して、浮き彫りにされているのかもしれないと思いました。

 佐久間は「本当に確かなものは、一見平凡でつまらないものですよ」と泉に告げますが、そんな佐久間は死んでしまいました。

 『セーラー服と機関銃』の根底に流れるものは、著者の人間へ向けた、夢も、希望も、生きがいも見つけられなくても、人は日常を生きなければならないという、さめた目線かもしれないと思います。また、そんなどこか哀しい目線が、『セーラー服と機関銃』を名作にしているのかもしれないと思いました。


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