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片腕/川端康成のあらすじと読書感想文

2012年3月10日 竹内みちまろ

片腕/川端康成のあらすじ

 「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と告げた娘は、右腕を肩から外して「私」のひざの上に置きました。娘は、「あたしの右腕を、あなたの右腕と、つけ替えて」みてもいいと告げます。「私」は、娘の右腕をレインコートの中に隠し持って、夜の街を家まで歩いて帰ります。

 部屋に戻ると、「私」は、「よく来てくれたね」と娘の右腕に告げます。「なにかこわがっていらっしゃるの?」と「娘の腕は言ったようだった」と感じます。娘の右腕が「だれかいるの?」と尋ね、「ええっ? なにかいそうに思えるの?」と「私」は答えます。

 「私」は、ふと「この片腕を遠い娘のところまで、はたして返しに行き着けるだろうか」と疑問に思ったり、「娘の右腕を私の右腕とつけかえたりしたら、母体の娘は異様な苦痛におそわれそうにも」思ったりします。「私」は娘の右腕を抱えてベッドに入り、「ゆかたをひらいて、娘の腕を胸につけ」ます。「私」は、片腕を貸してくれた娘とは別人の「私に身をまかせようと覚悟をきめ」たさほど美しくない、そして、「異常であったかもしれない」娘のことを思い出しています。

 うっとりしている間に、自分でも気がつかないうちに自分の右腕を肩から外して、娘の右腕につけ替えていました。「私」が言った言葉だか、娘の右腕の言葉だかわからない「ああっ。」という小さな叫び声がし、「私」は、自分の右肩についている娘の右腕の指を口にくわえます。娘の指が舌に触るだけで、言葉にはならないよろこびを感じます。しかし、口で右腕を感じることはできても、右腕のほうに、くわえられている感触を感じることはありませんでした。「血が通わない。」と口走った「私」は恐怖を覚えます。

 「私」についている娘の右腕の小指が四角い窓を作りました。「私」はそこから部屋をのぞきます。「薄むらさきの」「ぼうっとした光」が見えました。娘の手が「私」のまぶたを優しく触り、「私」は「血が通っている。」と静かに告げます。「うっとりととろけるような眠り」に「私」は引き込まれました。

 目覚めると、自分の右腕が横腹を触っていました。「私」は戦慄し、娘の右腕を肩からもぎ取り、腕をつけ替えました。「自分のなかよりも深いところからかなしみが噴きあがって来た」。「娘の腕は……?」と顔をあげた「私」は、投げ捨てられていた娘の右腕をあわてて拾い、「生命の冷えてゆく、いたいけな愛児を抱きしめるように、娘の片腕を抱きしめ」ます。「のばした娘の爪の裏と指先きとのあいだから、女の露が出るなら……」と願い、娘の右腕の指先をくちびるにくわえました。

片腕/川端康成の読書感想文

 「片腕」は、娘から片腕を借りた「私」が、家に帰り、眠り、いつの間にか腕をつけ替えていて、起きて、慌てて腕をつけ替え、娘の指先をくわえる、という物語です。、登場するのは「私」「娘」「娘の片腕」「追憶の中の娘」だけですが、うっとりする作品でした。

 「片腕」で描かれているのは、「私」を見つめる川端の「まなざし」だと思いました。「片腕」の「私」は、娘から片腕を借りて自分の腕とつけ替えますが、「私」の心の中にいるのは、片腕を貸してくれたのとは別の「異常であったかもしれない」娘です。また、片腕を貸してくれた娘は、乳房を「人に触れさせたことのないだろう」と描かれていますので、乳房を人に触らせたことがあるのかどうかは作品の中で提示されている情報からは判断不可能ですが、少なくとも、「私」は、片腕を貸してくれた女を、処女だと(勝手に)思っているといえます。「異常な女」と「聖なる女(=処女)」という構造は、「雪国」の「駒子」と「葉子」にどこか似ていると思いました。

 「片腕」では、ラストシーンが印象に残りました。ふと目覚めた「私」は、外されていた自分の片腕を見て「呼吸がとまり、血が逆流し、全身が戦慄し」ます。「魔の発作の殺人のよう」に、「娘の腕を肩からもぎ取り、私の右腕とつけかえてい」ました。つけ替えたばかりの自分の右腕で、心臓の上をさすります。動悸が静まるにつれ、「自分のなかよりも深いところからかなしみが噴きあがって来」ました。

 この「自分のなかよりも深いところから」噴き上がってきた「かなしみ」とは何だろうと思いました。かなしみが噴き上がってきた時点では、「私」は投げ捨てた娘の右腕のことは忘れています。なので、右腕を貸してくれた娘や、貸してもらった右腕とは関係のない「かなしみ」といえます。また、はっと気がついて、あわてて拾った娘の右腕は「生命の冷えてゆく、いたいけな愛児」と表現されています。「私」は、娘の右腕を、「私」とは別に存在する他者とみなしています。「私」は娘の右腕の指をくわえますが、その場面では「かなしみ」については書かれていません。

 「片腕」を読んで感じたことは、片腕を貸してくれたのとは別の娘を利用して「私」は救われたいと思っているか、あるいはもしかしたら、「私」は、別の娘を利用して救われたいと思う「私」を、心の底では悲しんでいるのかもしれないと思いました。


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