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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年/クロ(黒埜恵理)について

2013年5月10日 竹内みちまろ

 高校時代の5人組の物語を描いた『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。若いころに4人から絶交された多崎つくるが、最後に会うのが、フィンランド人陶芸家と結婚してフィンランドに移住していた「クロ」こと黒埜恵理です。今回は、クロについて、考えてみたいと思います。

 高校時代のクロは、自他ともに認める「聡明で皮肉屋のコメディアン」でした。5人組には2人の女子がいましたが、もうひとりのシロは、内気なピアニスト。多くの人が振り向く美女で、クロも愛嬌があり、ふっくらとしていて、胸も大きかったのですが、長身の美女であるシロと並んでしまうと、コメディアンというキャラクターに落ち着いてしまい、また、クロも自分からそれを感じて、心に違和感を持ちながらも、そのキャラを演じていたところもありました。本当は、周りを気にして自分を抑えてしまう繊細な女性だったのかもしれません。つくるが16年ぶりに尋ねて行った時、自身も陶芸家になっていたクロは、妻であり、2人の子どもを持つ母親でした。

 印象に残っている場面があります。

 クロは、シロとは中学からの友だちでしたが、クロは、フィンランドで、生まれて来た女の子に、シロの名前である「ユズ」と名づけました。「少なくともその名前の響きの中に、あの子の一部は生き続けている」といいます。クロは、死んだシロには「悪霊がとりついていた」と口にしていましたが、シロに起きた現象とは別に、また、クロはつくるが好きだったけどつくるはそのことに気付かずにシロに心惹かれていたという現象とは別に、シロと出会い、シロと同じ時間を過ごしたことを大切に生きていると思いました。

 クロが演じたキャラはシロと正反対でしたが、実際のクロの人格は、シロの人格と似ていたのかもしれないと思いました。

 しかし、そんなシロとクロですが、シロは精神を壊してしまい、クロは、人生に迷い、つまづき、回り道をしました。今でも後悔や迷いを感じているのかもしれません。しかし、それでも、泥臭く、あるいは、力強く生きています。それが大人になるということなのかもしれませんが、シロが、大人になることを拒んで自分の時間を止めてしまったように感じられましたので、余計に、高校を卒業したあとに苦労を次々と引き受けて行ったクロの人生に、どこか哀愁を感じてしまいました。特に、16年たって、つくるに告白する場面は、哀しさがありました。もちろん、告白したからといって何かが始まるわけではありませんが、それが哀しさに拍車をかけていたようにも思えます。

 そんなクロだから、フィンランドの暗い森に住むという「悪いこびとたち」に象徴されるものの存在を感じるのかもしれないと思いました。


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