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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年/シロ(白根柚木)について

2013年5月10日 竹内みちまろ

 多崎つくる、「アカ」こと赤松慶(あかまつ・けい)、「アオ」こと青海悦夫(おうみ・よしお)、「シロ」こと白根柚木(しらね・ゆずき)、「クロ」こと黒埜恵理(くろの・えり)は高校の同級生で、5人組をつくっていました。つくるだけ、駅舎建築の第一人者である教授から授業を受けるという明確な目的を持って東京の大学に進学し、あとの4人は家から通える名古屋の大学に進みました。つくるが19歳で大学2年生のとき、4人は、つくるへ、一方的に絶交を宣言。『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は、36歳になったつくるが、4人を訪れて、絶交の理由を尋ねる物語です。

 つくるは、36歳になって初めて知ったのですが、絶交の理由は、シロが東京のつくるの部屋にいった際、つくるにレイプされたと訴えたからとのことでした。つくるには覚えがなく、シロは東京のつくるの部屋に来たこともありませんでした。しかし、シロはつくるにレイプされたときの様子も話し、妊娠していました(一人で育てる決意をするも、流産)。36歳のつくるは、アカから、「おまえはもともとそんなことをする人間じゃない。それはよくわかっている」「シロはおそらく心を病んでいた」などと告げられます。

 シロは、古い日本人形を思わせる端正な顔立ちで、長身のほっそりしたモデル体型。艶のある長い黒髪で、すれ違った人がよく振り返るほどの美女。性格はおとなしく、きまじめで、美しく巧みにピアノを弾きますが、知らない人がいる前で弾くことはまずありませんでした。普段は無口ですが、犬や猫の話になったとたんに話し込むほどの動物好き。

 シロの父親は名古屋市内で産婦人科医院を経営していました。が、シロは、父親が中絶手術をしていることに嫌悪感を持っていました。本人は、獣医学校進学を希望しましたが、周囲の説得で、音楽大学のピアノ科に入学。しかし、長い曲になると息切れし、アカにいわせると、ピアノでも、「小さな世界ではやっていけても、広い世界に出ていくだけの力は具わっていなかった」。「まじめで内向的なシロは、音大に入ってから、少しずつ妙なところが出てきた」とも。

 シロが3人につくるにレイプされたと話し、シロは、つくるには「表の顔と裏の顔があるんだ」とも言ったそうです。19歳か20歳だった3人は、つくると絶交することにしました。

 シロがつくるからレイプされたと言った理由は、中学からの友達のクロにも、シロの姉にもわからず、つくるが36歳の時点ではシロは死んでしまっていましたので、今となっては永遠の謎です。ただ、クロは、シロは嘘を言っているわけではなく、シロの中では、最終的に、つくるからレイプされたということが「真実」になっていたと判断していました。なぜシロの中でそうんな「真実」が出来上がったのかは、クロにも分かりません。シロは心を病んでおり、つくるがシロに引かれていた、また、クロがつくるを好きだったなどの周辺情報はありますが、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』では、詳しいことは誰にもわからないという設定になっていました。大人になったクロは、「あの子には悪霊がとりついていた」「あるいは悪霊に近い何か」と、つくるに告げていました。

 内向的で無口なシロでしたが、アフタースクールで子どもに熱心にピアノを教えているときは幸せそうに見えたそうです。妊娠した子どもを生む決意をした理由を、クロは「あの子には生きているものは殺せない」と、つくるへ告げていました。獣医学校への進学の断念や、ピアノの才能の限界など、性格的なものも含めて、シロは、いくつかの壁にぶつかったようです。ただ、それは、輝く青春時代には想像もできないことだったかもしれませんが、大人になれば、多くの人が直面することでもあります。みんながみんな、夢と希望に満ちあふれていた高校時代に思い描いていた通りの人生を送ることができるわけではありません。シロは、純粋すぎたゆえに、強くなることができず、「悪霊」に取り付かれてしまったような気がしました。シロは、後ろ向きにしか生きることができない人間だったのかな、とも思いました。


→ 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年/村上春樹のあらすじと読書感想文


→ つくるの旅について


→ アカ(赤松慶)について


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