読書感想文のページ > あらすじ&読書感想文2 > D坂の殺人事件
2013年7月13日 竹内みちまろ
学校を出たばかりで職には付かず悠然とした日々を過ごしていた「私」は、東京のD坂の中ほどにある白梅軒という喫茶店でアイスコーヒーをすすっていました。白梅軒の真向かいにある古本屋を眺めていると、白梅軒で知り合った探偵の明智小五郎がやってきます。明智は古本屋の家の妻と幼馴染みで、なかなかの美人と評判の古本屋の妻は、白梅軒のウェイトレスの噂話によると、銭湯で見かける裸が体中傷だらけで、足袋屋を挟んだ古本屋の隣にあるそば屋の妻も同じように体中傷だらけといいます。「私」も明智も、25歳は越していない年齢。明智の下宿の四畳半の部屋は、部屋中が本で埋め尽くされていました。
「私」が白梅軒に来てから1時間ほど、明智が来てから30分ほどがたっていました。「私」は1時間ほど前に古本屋の奥の障子が閉められたのを見ましたが、それから障子が開けられることはなく、同時に、4人の客が古本屋からお金を払わないで本を持ち出していました。不審に思った「私」は明智と連れだって古本屋に行ってみます。障子を開けて、電気をつけると、奥の部屋で古本屋の妻が、首を絞められて死んでいました。警察に連絡をし、2人は事情徴収を受けますが、妻は殺されてから1時間はたっていないといいます。
1時間前から白梅軒の奥の部屋に出入りした者はいませんでした。調べてみると、古本屋は長屋の作りで、家の裏に一本、路地から外に出る通路があります。が、そこはアイスクリーム屋の証言で、誰も通行していないことが判明しました。11軒の長屋の住人の中には、不審なもの音を聞いたり、人が争うような気配を感じた者はいませんでした。さらに、古本屋から時計屋を一軒おいた菓子屋の主人が日暮れからずっと、古本屋の2階の窓が見える場所の物干しに出て尺八を吹いていたことがわかりました。窓から古本屋に出入りした者もいません。縁の下から天井裏まで捜索しても不審な点はありませんでした。近所に間借りしている学生2人が古本屋を訪れていましたが、犯行予測時刻に、障子の格子のすき間から男の姿がちらりと見えたと証言しました。しかし、一人は男は黒い着物を着ていたといい、もう一人は、白い着物を着ていたといいます。2人とも、嘘をつく理由はありませんでした。
古本屋の妻は殺され、その部屋の中にいたという男は、出入口はすべて見張られた状態の長屋の部屋の中から消えてしまいました。
「D坂の殺人事件」は、「私」が犯人を推理して、明智がその推理を覆し、結果は、明智が推理した通りという結末を迎えますが、感想に移りたいと思います。
「D坂の殺人事件」は、読み終えて、人間の記憶のあいまいさと、人間の心理というものの大きさを感じました。「私」は、明智と古本屋の妻が幼馴染みだったことから、明智が犯人ではないかと推理していました。2人の学生の証言は、部屋の中にいた男は、白と黒の両方の模様がある服を着ていて、それぞれがすき間を見た際に見えた色が違うと推測します。しかし、明智は、人間の記憶というものはいいかげんであることを簡単に証明してしまいました。「私」は、事実のひとつ、ひとつに答えを出していたのに対して、明智は、人間の記憶などあいまいなものと整理をつけて、心理面に重きを置いていました。なるほど、犯罪の動機の多くは人間の心にあるわけで、明智のアプローチの方が、答えには近いのかもしれません。
種明かしをしてしまうと、古本屋の妻は、「被虐色情者」で、長屋の中に、もうひとり、「残虐色情者」がいたのですが、いわゆるSMにも通じる心理に切り込んでいた点も、「D坂の殺人事件」は興味深かったです。
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