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マスカレード・イブ/東野圭吾のあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2019年7月20日

マスカレード・イブのあらすじ

<それぞれの仮面>

 都内の高級ホテルであるコルテシア東京に就職して4年目の新米フロントクラーク・山岸尚美の前に、元野球選手で今はタレントである大山将弘が宿泊にやって来る。そして、大山のマネージャーとして、元恋人の宮原隆司が一緒に宿泊に来る。宮原は山岸の大学の先輩で、宮原の卒業後も交際を続けていた。しかし、宮原が勤めていた会社が倒産したことをきっかけに、宮原は山岸に別れを告げ、それ以来の再会だった。山岸は、宮原の登場に一瞬、動揺するが、慌てず冷静に対応する。

 その日の夜、宮原から山岸に電話がかかってくる。宮原から誰にも言わずに来て欲しいと言われ、指定された部屋に向かうと、そこは大山と宮原が予約した部屋ではなく、2人が来る前に予約し、宿泊していた横田園子という女性の部屋であった。

 山岸が部屋へ行くと、宮原が1人で待っており、状況の説明を受ける。宮原は2年前に結婚しているが、実はホステスの横田園子と不倫をしていて、その日はホテルで密会していた。しかし、宮原がシャワーを浴びている間に、横田が部屋から消えてしまったという。横田は今までに自殺未遂をしており、宮原は山岸に誰にもばれずに横田の居場所を探してほしいと依頼する。山岸は状況を聞き複雑な心境になったが、慌てた様子の宮原を見て、依頼を受けることにし、横田の居場所を探す。

 翌朝、山岸は宮原から横田が帰って来たと連絡を受ける。連絡を受け山岸は、宮原がチェックアウトする前に呼び出し、横田は宮原の不倫相手ではなく、実は大山の不倫相手ではないのかと指摘する。山岸の指摘に宮原は驚くも、大山はタレントとして色々な人に夢を売っており、大山を守ることが今の自分の仕事であると語る。そして、大山の不倫を隠蔽するために嘘をついたことを認める。山岸は、交際していた時から宮原は自分のことよりも人のことを優先する人物であったことを思い出し、変わっていないことに安堵しつつ、宮原を見送った。

 その後、山岸はチェックアウトする横田に声をかけた。山岸は昨晩、横田がどこにいたのかを突き止めていた。横田は、昨日急遽ホテルを予約して宿泊していた鴨田という男の部屋にいた。横田は鴨田と結婚の約束をしている仲であったが、大山と二股をかけていた。昨晩も横田は鴨田に内緒で大山と密会する予定でホテルに宿泊していた。しかし、鴨田が横田の浮気を疑い、急遽ホテルにやってきたので、横田は大山の部屋から姿を消して鴨田の元に行っていたのであった。ホステスである横田は、大山と鴨田という二人の男を手玉にとっていたが、最終的に資産力のある鴨田との結婚を望んでおり、大山とは時間をかけて別れるつもりであった。自殺未遂をしていたという過去も、男を自分に繋ぎとめるための嘘であり、今回はその嘘を利用するような形で大山の前から姿を消したとのことであった。

 横田は自分の結婚のために鴨田にお金を積まれ、何を聞かれてもそれ以上の報酬を支払うので1人でいたと言って欲しいと山岸に依頼する。その言葉を聞いた山岸は「どんなにお金を積まれてもお客様の仮面に隠された本当の顔を教えることはございません。その素顔が美しいならともかく、醜くければ尚の事です」と答えた。

<ルーキー誕生>

 捜査一課の新人刑事・新田浩介は、ホワイトデーの夜に発生した実業家殺害事件の捜査を行っていた。殺された田所昇一はジョギング中に何者かに刺殺されており、現場付近からは犯人が昇一を待ち伏せていたことを示す煙草の吸殻が5本発見されていた。

 新田は先輩刑事とともに、妻の美千代に話を聞きに行く。美千代は料理教室の先生をしており、美人で明るく気配りのできる様子から生徒たちからも人気であった。昇一とは生徒の紹介を通じて知り合い3年前に結婚したばかりであった。美千代は夫の昇一を殺害した犯人には心当たりはないといい、夫が殺されて心を痛めながらも凛々しい様子が印象的であった。昇一の部下から話を聞くと、昇一は社員に家庭を大事にするように指導する人望のある経営者であることがわかり、誰かの恨みを買うことはないように思われた。

 容疑者が浮かばないまま捜査は難航していたが、新田は現場に落ちていた煙草の吸殻は、犯人があの場で待ち伏せしていたと見せかけた偽装工作ではないかと閃く。犯人は待ち伏せしていたわけではなく、ジョギングをする昇一に自転車で近づき声を掛け殺害した可能性があるのではと思い、その線で捜査を進めていく。自転車で近づいたということは犯人は近所に住んでいる可能性があると思い、捜査をすると、近くのファストフード店の監視カメラの映像から、喫煙所で他人の吸殻を盗む怪しい男が見つかった。

 その男は横森仁志という美代子の料理教室に通っている男であった。新田は横森から話を聞くと、横森は美代子に対して好意を抱いており、料理教室に熱心に通っていたという。結婚しているとわかっていながら美代子に告白をした横森は、美千代から腕にあるあざを見せられて夫から暴力を受けていると告白されたという。横森は美代子を救うために昇一を殺害したと認め、これで美千代と自分が一緒になれると喜んでいた。警察では、美千代を好きなあまり妄想がいきすぎた横森が、昇一を殺した事件として処理されることになったが、新田はどこか違和感を覚えた。

 新田は事件の結果を美千代に報告しに行った。そこで、美千代が通っているジムの関係者から、美千代にあざがあったことはないと聞き、美代子がわざと傷のメイクをして横森を騙して、夫を殺害するように誘導したのではないかと指摘する。家族と行事を大事にするように社員に言っている昇一が、ホワイトデーの日にジョギングに行っていた事に違和感を覚え、美代子と昇一の夫婦仲は既に冷え切っていたのではと推測した新田は、料理教室の生徒から美代子のことを聞き出していた。すると美千代はある生徒と不倫関係にあったという。新田は美千代を問い詰めたが、美代子が真犯人だとする証拠も横森を騙したという証拠も一切残していなかったため、美代子は捕まることはなかった。

 最後に、横森が逮捕されずに、求婚されたらどうしたのだと新田が聞くと、美代子は「あんな男、どうとでもできます」と答え新田は美代子の本当の素顔を垣間見た。美代子は、「刑事さんにとって、これがいい経験になったのならいいんですけど」。新田は、次は女の仮面に騙されないぞと唇を噛んで美代子の元を去った。

<仮面と覆面>

 山岸の勤めるコルテシア東京に典型的なオタク5人組が宿泊にきた。彼らは、美人と噂されてれいるが、性別、生年月日以外は非公表の女性人気作家タチバナサクラの追っかけ集団であり、タチバナサクラがコルテシア東京に宿泊するという情報を仕入れてホテルを予約していた。

 5人組はタチバナサクラに会おうとホテルのロビーに居座っており、山岸はこのままタチバナサクラが来たら、何かトラブルにならないかと不安に感じる。そこで、山岸は予約客の中から出版社の人間で、タチバナサクラの担当である望月和郎を突き止め、望月に連絡をして事前に5人組の存在について報告した。しかし、望月がホテルに到着する前に、望月がタチバナサクラ用に予約していた「玉村薫」という名前で、タチバナサクラはチェックインした。山岸の前に現れた玉村薫は、女性ではなく中年の男性であり、山岸は混乱するも彼を部屋に通す。その後、望月が到着し山岸に事情を説明する。

 玉村薫は望月のいる出版社の新人賞に応募した女性で、青春小説のジャンルながらもエロティシズムに溢れている作品で、満場一致の受賞となった。受賞の連絡をした際に、受け答えをしたのが、高校生の娘であったことから女性と疑わなかったが、実際は性別詐称して応募した父親の中年男性が執筆者だった。がっかりした編集部は、女性の覆面作家として売り出す方が話題になると考え次作を発表し、たちまちタチバナサクラは人気作家となった。さらに、ファンに幻想を抱かせるために美女の合成写真を作り、ボカシを入れて人物像を発表しようとしたところ、誤ってボカシを入れる前の美女の画像が流出し、熱狂的な追っかけまでできてしまうこととなった。

 タチバナサクラには逃亡癖があり、現在、締切が過ぎている作品がある。そこで望月はホテルに缶詰めにして原稿を書くように依頼をしているという。タチバナサクラが中年男性であるとばれてしまっては大変なことになるので、望月は山岸に覆面作家の正体は内密にして欲しいと頼み、望月は玉村を残しホテルを出ていく。

 望月によると、外から玉村の部屋に何度か電話を入れて、部屋で執筆しているのを確認しているとのこと。しかし、山岸は何度かホテルから出ていく玉村を見かける。望月は連絡が取れている様子であったので、山岸は違和感を覚えながらも、いまだにロビーに張り付いている5人組の様子を伺っていた。

 5人組がチェックアウトする日、望月とは違う出版社のある男がフロントにやってくる。5人組はその男が出版社の人間であるとわかると、「タチバナサクラに会わせてくれ」と頼み騒動を起こす。5人組が警備員につれていかれた後、その男は、自分はタチバナサクラに仕事を依頼している立場だと主張し、山岸にタチバナサクラと連絡をとるように告げる。山岸がタチバナサクラの部屋に電話を繋ぐと、その男は受話器を取り上げ、タチバナサクラへ「応援しています」と話しかけ、受話器から聞こえる相手の声を録音した。実はその男も5人組の仲間であった。タチバナサクラの正体がばれたのではないかと山岸は焦るが、その男は「綺麗な声の女性だった」と満足して帰って行った。

 男性の発言を聞き山岸は違和感の正体に気づく。山岸が玉村薫の部屋を訪ねると、部屋には中年男性の他に、もう一人高校生の娘がいた。山岸が“この部屋にずっといたのは娘”であることを指摘すると、玉村はそのことを認め、真相を話し始めた。

 実は玉村薫は娘の本名であり、タチバナサクラとして新人賞を受賞したのは娘であった。エロティシズムな作品を出すと、娘が世間に晒されるのではないかと恐れた父親は、自分が書いたと言えば受賞はなかったことになると考えた。しかし、出版社が正体を出さずに覆面作家としてデビューすることを提案してきたため、偽装しながら娘に作品を書かせていた。今回の宿泊中、父は日中、仕事をしているので、娘が1人で部屋で執筆をしていた。望月から部屋に電話がかかってくると、ホテルマンが電話を繋いでいる間に、娘は父親に電話して部屋の受話器と携帯電話を接着させて、父親に対応してもらっていたという。父親は、娘の将来のために、いまは望月には黙っていてくれと山岸に頼む。山岸は「お客様の仮面を守るのが私たちの仕事です」と快諾した。

<マスカレードイブ>

 新田は、所轄の女性警官である穂積理沙と共に、大学教授の岡島孝雄が教授室内で刺殺される事件の捜査をしていた。容疑者として岡島と共同研究をしていた准教授の南原定之という男の名前が浮上する。南原と岡島教授との共同研究の中で、南原が特許を持っている研究方法が採用されないという話が出ており、岡島教授の研究の進め方に納得していない南原は、岡島教授殺害の動機を持っていたともいえる。

 岡島教授の死体が見つかった日の南原のアリバイは完璧であった。が、殺害時刻は死体が見つかる日の前日と判明し、新田は南原に話を聞くこととなった。

 南原は事件当日は大阪のホテルに泊まっていたが、不倫関係で密会していたので詳細は話すことができないと黙秘を貫く。自分のアリバイを証明するよりも、不倫相手の正体を隠すことを重要視している南原を不審に思う新田だったが、事情聴取を重ねる中で、南原はついに泊まっていたホテルがコルテシア大阪であることを白状する。新田から、南原の証言が正しいのか確認するように命じられた穂積は、コルテシア大阪に聞き込みに行く。

 その頃、山岸は新人教育の為にコルテシア大阪に応援に来ていた。山岸は穂積の聞き込みに対応することになった。南原の写真を見せられ、山岸は事件当日に見た記憶はないが、その数か月前に1度宿泊に来た記憶があると告げる。ホテルとしては基本的に顧客の情報をむやみに話すことはできないため、山岸は穂積に聞かれたことだけを答えた。思うような情報を得られなかった穂積は、その後も懸命に聞き込みを続けた。

 その姿を見た山岸は、穂積を呼び出して、これは自分の推測なので証言として使わないで欲しいと念を押したあとに、山岸の推測を告げた。南原が以前、宿泊に来たという日、山岸は薔薇の香水の匂いを漂わせる女性の対応をした。そして、その後、ホテルのタオルを間違って持って帰りそうになったという男性のチェックアウトの対応をした。その男性のタオルには薔薇の香水の匂いが残っており、山岸はその男女は何か関係があるのではないかと考えていた。その男性の方が南原で、女性に関しては顔ははっきりと覚えていないと穂積に告げた。

 穂積は東京に戻り、山岸の存在を隠したまま、薔薇の匂いの女性の存在を新田に報告した。捜査を進めていくと、美容サロンを経営する畑山玲子という女性が、南原が数カ月前に宿泊した日と事件前日に宿泊しているということがわかった。南原とは何の関係もなさそうに思われる畑山であったが、新田はこの事件が交換殺人なのではないかと閃き、その線で捜査すると真実が明らかになった。

 畑山には大きな財産を所有している危篤の父親がいたが、最近になって父親に隠し子がいることがわかり、自分だけで財産を相続する事が出来なくなった。そんな時、偶然コルテシア大阪で出会った南原と畑山は、お互いに殺したい相手がいる事がわかる。畑山は南原に交換殺人を提案し、それを承諾した南原は畑山が夫婦で海外旅行に行っている間に、隠し子を殺害した。

 そして、今度は南原が出張に行っている間に、畑山の夫が岡島教授を殺害する予定で、全てが計画通りにいくはずであった。しかし、畑山は直前で南原を裏切った。殺害予定日の前日に岡島教授を殺害し、畑山に疑いの目を向かせないようにしたのだった。

 結局、南原と畑山の関係が明らかになり、事件は、南原の自供で幕を閉じた。事件解決後、新田は穂積に、コルテシア大阪で誰かから情報を得ていたのではないかと指摘する。そして、新田は山岸の存在を知り、そんな聡明な女性になら一度会ってみたいと言った。

マスカレード・イブの読書感想文

 この作品は、同じ著者である東野圭吾さんの「マスカレード・ホテル」で知られる「マスカレード」シリーズの第2作として書かれたものですが、内容としては「マスカレード・ホテル」の主人公である新田浩介と山岸尚美が出会う前のそれぞれの物語になっています。短編が4作収録されており、それぞれ事件の内容も違いますが、共通しているのは「人は人には見せない仮面をかぶっている」という点です。登場人物が隠している裏の顔に驚きながらも、読みやすい文章で4作ともサクサクと読むことができます。

 それぞれの仮面」「ルーキー登場」「仮面と覆面」「マスカレード・イブ」という4作がありますが、最後の「マスカレード・イブ」は2人が間接的に繋がっているような終わりになっていて、「マスカレード・ホテル」を読んだ方はぜひ読んでみて欲しいなと思いました。また、今作に関しては、新田も山岸もまだ新人であるという設定であったため、「マスカレード・ホテル」の時よりも失敗なども多く、2人の成長を感じられることができました。しかし、事件に対してや、人に対しての洞察力はさすがだなと思う点がありましたし、前作でも思いましたが、2人の仕事に対する姿勢は本当に尊敬できることが多いと感じました。

 私が4作の中で特に好きなものをあげるなら「仮面と覆面」という作品をあげます。正体不明の覆面女性作家の正体は中年男性である、という第一の仮面を見せて、正体がばれないのか読者をハラハラさせた後、実はその覆面すらも仮面だったという、どんでん返しが待っています。山岸はホテルマンとして、“お客様の仮面を無理にはがすことはしない”と心に決めていますが、事情を知っていたほうが、その仮面がはがれるのを守りやすいのではないかと、この作品を読んでとても感じました。そして、作中に出てくる5人組のオタクや出版社の望月を見ていると、世の中には知らない方が幸せなことが多いのではないかと思いました。「人は人には見せない仮面をかぶっている」というのは、この作品の中のできごとだけではなく、現実でもいえることではないかと思いました。


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