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ラプラスの魔女/東野圭吾のあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2017年12月3日

ラプラスの魔女/東野圭吾の登場人物

*東野圭吾の長編小説は登場人物が多いため、先に主要人物を紹介します。

【主要人物】

羽原 円華(うはら まどか):本作のヒロイン。人知を超えた計算力を持つ女性。10歳の時に母の故郷・北海道で竜巻に遭い、母・美奈を亡くす。

甘粕 謙人(あまかす けんと):円華の2歳年上。姉の自殺の巻き添えで重度の昏睡状態になる。後に羽原医師の脳神経再生手術を受け蘇生。手術後は自分に関することも含め一切の記憶を失っている。

甘粕 才生(あまかす さいせい):謙人の父。鬼才と言われる映画監督。47歳の時に事故で家族を失ってから映画制作から距離を置いている。

青江 修介(あおえ しゅうすけ):地球化学の研究者で泰鵬大学教授。赤熊温泉の事故調査を警察から依頼され、苫手温泉の事故調査を地元新聞社から依頼される。赤熊温泉の事故に関しては、中岡刑事から個別に相談を受ける。

【大学関係者】

羽原 全太朗(うはら ぜんたろう):円華の父。開明大学病院の脳神経外科医師。脳神経細胞再生の第一人者。

武雄 徹(たけお とおる):元警察官。円華のボディガードに雇われる。

桐宮 玲(きりみや れい):開明大学総務課職員。羽原の部下で円華のお目付け役。

【事故被害者および関係者】

木村 浩一(きむら こういち):謎の男。事故が起きた赤熊温泉、苫手温泉、両方の温泉地に現れている。

水城 義郎(みずき よしろう):66歳。映画プロデューサー。妻の千佐都と訪れていた赤熊温泉にて死亡。死因は硫化水素中毒。

水城 千佐都(みずき ちさと):義郎の年の離れた妻。元銀座の人気ホステス。木村と面識があるらしい。

水城 ミヨシ(みずき みよし):義郎の母。千佐都との結婚に反対していた。介護サービス付きの高級老人ホームで独り暮らし。

那須野 五郎(なすの ごろう):俳優。本名は森本五郎。苫手温泉にて死体となって発見される。死因は義郎と同じく硫化水素中毒。

中岡 祐二(なかおか ゆうじ):麻布北警察署の刑事。水城の事故を殺人事件と見立てており青江に事故調査を依頼。

ラプラスの魔女/東野圭吾のあらすじ

*ネタバレがありますので、ご注意ください。

 物語は円華と円華の母・美奈が北海道へ帰省したところから始まります。不幸にも2人は竜巻に見舞われ、美奈が身を挺して円華を竜巻から守ります。円華の父、全太朗は彼にしかできないという脳神経再生手術執刀のため東京に残っていました。

 それから数年後。ある日、武雄は桐宮から「ある女性の護衛をお願いしたい」と言われ、桐宮が勤める開明大学へと向かいます。桐宮に連れられ到着したのは『独立行政法人数理学研究所』。護衛対象は羽原円華でした。護衛といっても円華が外出するときにボディガードとして同行するだけです。

 しかし、武雄は円華と一緒に過ごすうち、しばしば不思議な現象が起きることに気付きます。彼女は一体何者なのか、武雄は何度も尋ねようとしましたが、円華に関する質問は禁じられていました。

 舞台は赤熊温泉に移ります。そこに二十歳そこそこの木村浩一という若者が訪れました。木村青年は温泉宿に二泊し、帰っていきます。その一週間後、一組の夫婦がやってきました。映像プロデューサーの水城義郎と妻の千佐都です。二人の滞在予定は二泊三日でした。二泊目に宿の近くにある滝を見に二人は出かけます。30分後、千佐都が一人で宿に忘れ物を取りに戻り、再び山道へと向かいました。その15分後、義郎は遺体となって発見されます。死因は硫化水素中毒死でした。

 インターネット記事で事故を知った中岡は、以前にミヨシから義郎と千佐都の仲と、千佐都が良からぬことを考えているのではないかと相談を受けていました。中岡は今回のことは単なる事故だと自分に言い聞かせます。

 義郎の通夜の日、千佐都は一人の男と出会います。千佐都に「硫化水素を吸ったのは、単なる不運だったのかな?」と尋ねました。男は義郎と旧知の仲であり、鬼才と言われる映画監督、甘粕才生です。

 舞台は再び赤熊温泉に。硫化水素ガスによる中毒死の事故調査を依頼された泰鵬大学教授の青江が現場を訪れます。不審な点は見当たらず、さまざまな偶然が重なった不幸な自然現象下での事故と判断します。青江はその夜、宿泊した宿で若い女性と出会います。その女性は武雄と桐宮の監視の目をかいくぐり彼らの元を逃げ出した円華でした。

 年が明け、中岡はミヨシが自殺したことを知ることとなります。ミヨシが暮らしていた介護サービス付きの高級老人ホームを訪れる中岡。そこで千佐都と鉢合わせます。義郎の死を事件と疑い始めていた中岡は千佐都にそれとなく尋ねるも、千佐都に不審な点は見当たりません。

 中岡と分かれ老人ホームを後にした千佐都は、千佐都より先に赤熊温泉を訪れていた木村に電話をかけます。中岡は赤熊温泉の現場を調査した青江の研究室に赴き、青江の見解を聞きますが、青江の回答は「自然科学的見地から事件性はない」というものでした。一方、青江は、不可能だと言ったものの、考えれば方法はありそうで気になっていました。

 今度は苫手温泉にて硫化水素中毒による死亡事故が起こります。死亡したのは俳優の那須野五郎。地元新聞社から依頼され苫手温泉で事故調査をしていた青江は、赤熊温泉の事故調査中に出会った女性、羽原円華と再会します。事件現場に現れた円華は、青江の目の前でその場で次に起こる自然現象を言い当てていきます。なりゆきで円華と行動を共にすることなった青江は、彼女が失踪した甘粕謙人という青年を探していることを知ります。2つの事故現場で目撃されている木村という青年は謙人であることがわかりました。

 円華の不思議な力を目撃し、また、担当した2つの事故調査の見解に自信が持てなくなっていた青江は、中毒死した義郎や那須野のことを調べるうちに、映画監督の甘粕才生のブログに行き当たります。そこには甘粕家に起きた悲惨な事故のこと、そして家族のことが書かれていました。

 甘粕家もまた硫化水素中毒事故に見舞われていました。妻と娘を失い、奇跡的に生き残った息子・謙人は意識不明になります。重度の昏睡状態と思われた謙人ですが、羽原全太朗医師によると、脳の一部は損傷しているものの損傷部位はほかの人とは全く違うこと、謙人は意識があるということでした。

 全太朗にしかできない手術により謙人は快復します。ですが、謙人は自身のことも含め一切の記憶を失っていました。目の前にいる父・才生のこともわかりません。甘粕はしばらく旅に出ることにしました。

 2つの事故と甘粕家の事故にはすべて硫化水素が絡んでいます。謙人の生還には全太朗が関わっており、娘の円華は事故現場で謙人を探している……?散見されるキーワードが、青江には無視できないものになります。

 青江は全太朗を訪ね、謙人が持つ遺伝子と手術による脳への影響、そして円華に備わっている力について話を聞きます。2人は物理現象であれば瞬時に予測できることを青江は知ります。円華と謙人は、19世紀の数学者ラプラスが提唱した「計算によって、未来を予見できる知性」を持つラプラスの悪魔なのです。

 一方、警察は「円華には、なにか不思議な力が備わっている」として事件への関与を疑い始めます。中岡は青江から聞いた甘粕のブログの内容を追うように、ブログに登場する人物たちに会いに行きます。話を聞くにつれ、甘粕がブログに綴っていた家族と現実の家族とは大きく違っていたことがわかっていきます。事故死とされた水城義郎、那須野五郎と甘粕才生には繋がりがあることもわかりました。

 甘粕家に起きた硫化水素中毒事故。それは甘粕自身の手によるものでした。記憶障害のふりをし続けてきた謙人はその計算能力で、極めて稀な環境下でしか硫化水素が発生しない状況を予測し、千佐都を利用して義郎と那須野を殺害したのです。謙人が最後に狙うのは実の父、甘粕才生。円華は謙人と同じく物理現象を予測し、それが可能となりえない状況を作りあげ、謙人が人を殺めるのを止めました。謙人は姿をくらましました。

 円華と謙人の存在は国家機密に値するものです。甘粕の処置は然るべき機関に委ねられ、円華は元の生活に戻りました。そんな円華に武雄はこう問います。この世界はどうなるのかと。円華から返ってきた答えは「それはね、知らないほうがきっと幸せだよ」でした。

ラプラスの魔女/東野圭吾の読書感想文

*ネタバレがありますので、ご注意ください。

 『ラプラスの魔女』を読み始めて、各登場人物が語り手になる各章がどのように1つの物語になるのだろうと感じました。ヒロインが円華であることはなんとなくわかったのですが、青江が主人公なのかとも思いました。羽原円華、ボディガード武雄、中岡刑事、青江教授、甘粕謙人、父性欠落性の甘粕才生。最初は何がどうなっていくのかさっぱりでしたが、だんだん伏線が見えてきて、点が線になり線が太くなり面になるという濃い物語でした。

 理系作家ということもあり物理学、地球科学、数学論がたくさん出てくる他、倫理、医学、そして家族の在り方にも焦点を当てていて、さまざまなことを考えさせられます。人を殺すことを何とも思わないこと。現実世界で起きている事件でも、犯人の感情や生い立ち、家庭環境だとかの後天的なものに要因を求めてしまいがちですが、先天的な遺伝子もあるということが、この物語の一連の事件を理解不能ではなく納得のいくものにしています。専門的な用語がたくさん出てきますが、理系・文系問わずワクワクハラハラさせられます。

 読み終えてから、この作品が「ラプラスの悪魔」ではなく、「ラプラスの魔女」と名付けられた意味について考えてみました。 物語の大半は謙人の復讐とそれを追っていく形で進められていますが、「悪魔」でなく「魔女」というタイトルになったのはなぜか。円華は愛する母を救うことができなかった過去から「魔女」となることを自ら選んだのに、最後の最後で唯一の理解者である謙人も自分から去っていく。能力をもってしても去るものを引き留めることは叶わず、予測できる未来を変えることも難しい、残酷な現実により一層苦しむことになる円華がやはりヒロインなのだと思います。

 現実的にありえそうな話にしてしまうところが著書の魅力であり怖さだと思います。東野ワールド全開で長編なのにまったく飽きのこない展開です。続編を期待させる結び方なので、ラプラスの魔女の円華と謙人の今後が気になります。桐宮、武尾コンビが活躍する姿も見たいものです。(水本このむ)



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