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コンビニ人間/村田沙耶香のあらすじと読書感想文

2017年4月14日

コンビニ人間のあらすじ

 36歳未婚女子、古倉恵子。大学生から始めたコンビニのアルバイトは早18年。もちろん当時のバイト仲間はひとりもいない。今の店長も8人目だ。日々きびきびとマニュアル通りにコンビニの仕事をこなしていく恵子だが、小さいころから、どこか人とは違う感情をもちあわせていた。それは昔から家族の心配の種でもあった。

 恵子は何かを真似るのは得意だ。例えば、コンビニのようにマニュアルがあればその通りに、上手に動くことができる。バイト仲間もよく観察する。着ている服やしゃべり方まで真似ることで、自分を「形成」していた。

 たまの休みには地元の友人に会う。年齢的にも既婚者が多く、子供がいる人も。友人たちに会うことはコンビニ以外の世界との唯一の接点だった。友人たちは恵子に聞く。「まだ結婚とかしないの?」と。恵子は素直に「してない」と答える。そしてコンビニでバイトをしていることも隠さない。それを聞き、毎回顔を曇らせる友人たち。それを察知するとすぐさま恵子は続けた。「あんまり身体が強くないから、今もバイトなんだー」と。

 ちなみにバイト先には、「親が病気がちで介護がある」と言ってある。これらは妹が考えてくれた言い訳だ。二十代の頃はそんな言い訳は必要なかったが、30代後半にもなると、ずっとバイトでいることを、みな不思議がるのだ。

 コンビニに、新しいバイト・白羽(35)が入った。ひょろりと背の高い、針金のハンガーみたいな男だった。あまり挨拶もせず、どこか怪しげな男。白羽の態度は極めて悪く、言われたことすらできない。白羽がコンビニで働き始めた理由は「婚活」だという。訳が分からない白羽を店員たちは毛嫌いし始める。その後、白羽の仕事態度は、一向に改善されず、毎日遅刻をする始末。しかも、好みの女性客にストーカーまがいなことをし始め、クビになった。それを聞いて店員たちは口々にいう。

「あの年齢でコンビニバイトをクビになるって、終わってますよね。あのままのたれ死んでくれればいいのに」

 笑い声をあげる店員たち。恵子も「そうですよねー」と一緒にうなずきながら思う。

「私が異物になったときはこうして排除されるんだな」と……。

 恵子は友人に誘われバーベキューに参加する。14〜5人集まった中で、結婚していないのは恵子ともうひとりの女性だけだった。そこでも恵子が未婚のまま、コンビニでバイトをしていることに話が集中する。周りは、誰かいい人紹介しようか、と勝手に盛り上がる。就職しないなら、せめて結婚くらいしたほうがいい、というのがみんなの意見だった。それを聞いて恵子は真面目に聞いてしまう。

「あの、今のままじゃダメってことですか? それって、何でですか?」

 空気が一変する。恵子は自分が異物な存在になっていた。

 バーベキューの帰り。コンビニに立ち寄る恵子。急にコンビニの音が聞きたくなったのだ。コンビニはいつもと変わらずそこにあった。そして恵子をいつものように受け入れた。ほっとする恵子。すると店の前に、白羽がいることに気が付く。誰かを待ちぶせしているのか、ビルの影で腰を屈めて身を隠していた。恵子は、「白羽さん、今度こそ警察に呼ばれますよ」と注意をする。白羽は「俺はもう店員じゃない」と開き直った。そしていつもの白羽の意味不明な言い訳が続く。このままじゃらちが明かないと、恵子は白羽を連れて、ファミレスへ向かう。

 「この世界は異物を認めない。僕はずっとそれに苦しんできたんだ」と白羽は言う。30代半ばなのに、なぜバイトなのか、なぜ恋愛経験もないのか、とずけずけと他人は踏み込んでくる。誰にも迷惑をかけていないのに、ただ少数派というだけで、皆が自分の人生を簡単に蹂躙すると……。「だから僕は結婚をして、あいつらに文句を言われない人生になりたいんだ」と続けた。そしてその怒りの矛先は恵子に向かう。「その年で未婚でいるなんて、処女でも中古だ」と言い放った。恵子はなんて支離滅裂な男だと思う。でも恵子はそんな白羽を見ながら言った。「婚姻だけが目的なら私と婚姻届けを出すのはどうですか?」と。

 白羽は嫌な顔をしながらも恵子の部屋に転がり込む。実は白羽は家賃を滞納し、ルームシェアを追い出されていたのだ。

 恵子は妹に連絡する。「家に男の人がいる」というだけでとても喜んだ。やっと人並みのお姉ちゃん、になったと思ったようだった。友人たちにも白羽の話をしてみると、、みな一様に驚きながらも、恵子の彼について興味津々だった。そして、「心配してたんだ」と口をそろえた。それを見ながら、どこか赤の他人の話を聞いているような気分の恵子だった。

 白羽との同居生活は、コンビニにいることで「普通の人間」という架空の生き物を演じていた恵子に変化をもたらした。

 そしてとうとう恵子はコンビニを辞めることになり……。

コンビニ人間の読書感想文/ネタバレあり

 「コンビニ人間」。ずいぶん摩訶不思議なタイトルである。著者の作品は以前にも読んだことがあったが、そのときのタイトルもなかなかのものだった。ちなみに「殺人出産」。

 本作品は著者のコンビニのバイト経験を踏まえた物語と聞き、しかも芥川賞受賞後もそのバイトを続けているらしいというので、興味津々でページをめくった。

 主人公の恵子は36歳。いい年齢にも関わらず、大学時代からのコンビニバイトをいまだ続けている。気が付けば18年。昔からの友人たちはみな結婚し、子どもができ、別次元へと生活をシフトした。もちろん家族や友人は恵子を心配する。「いつまでそんな生活をしているの?」と。逆に恵子はその言葉を不思議がる。

「どうして今のままじゃだめなのか」

 私は恵子の生き方は、さほど突飛なことだと思わなかった。むしろ親近感がわいた。

【毎日を普通に生きていたら、あっという間に時間が経っていた】

 ということでしかない。私の周りにはこういう人が結構いる。夢追い人と言ってしまえばそれまでだが、強い信念を持って我が道を謳歌している人が多い。しかし、それを貫くには、いわゆる「普通の生活」はできないのが現実だ。

 ここで必ずぶつかるのが、「普通」とは何か、ということである。

 女性でいえば【結婚して子供を産み家庭を守る】ということが「普通」とされる。さすがに現代は、そんなことを高らかに言うとあれこれ炎上するが、でもいまだに、30代後半で未婚の女というのは、(みんな面と向かってはいわれないけれど)世間の風当たりは、がぜん強いと思う!

 コンビニにいることで「普通の人間」を演じてきていた恵子のもとに、35歳の白羽という男が現れ、恵子の日常がにわかにざわつき始める。白羽は恵子とは真逆で、世間の目を気にしすぎて生きていた。そのため、だいぶゆがんだ思想の持ち主だった。

【縄文時代から男は狩りにでて、女は家を守るのが当然】

【今、自分が結婚もせず、バイトをしている状況を周囲から冷ややかな目で見ていることは、世界が不完全なせいであり、だから不当な扱いを受けている】

 なんてことを平気で言う。しかも「婚活」の一環でコンビニバイトを始めたというから、もう意味が分からない。さらに理想な女(自分の考えを理解し、起業のために出資してくれるような女)を見つければ、ストーカーまがいなことをし、

「僕は結婚をして、あいつらに文句を言われない人生になりたい」

 と言う始末。なんてイライラする男だ! 結婚してなくても、魅力的な男性は星の数ほどいるのに! でも冷静に考えれば、白羽こそ「普通」にこだわるあまり、みんなと足並みを揃えなくてはならないという思いが超越してこんな思想を持つようになったに違いない。なんだか悲しい。

 恵子が白羽と同居することになる。そのほうがお互い世間からの目も気にせず生きられると思ったからだ。案の定、家族や友人たちは口をそろえて安堵する。きっと年相応にふさわしい生き方をし始めた、と思ったのだろう。しかし周囲の人たちは白羽の詳しい素性までは知らない。表向きにはようやく落ち着いたと見えても、実は……、なのに。

 しかし、バイト生活のふたりがまともな生活ができるのか、とごもっともな疑問を呈したのが、白羽の義姉だった。もともと、白羽に金を貸していた義姉は、白羽に対していい思いをもっていなかった。当然のごとく、ふたりに強く当たる。結果白羽は、自分は働かず、恵子にまともな就職をさせようとして、コンビニをやめさせる。白羽は、恵子がちゃんと就職すれば、もっと世間から認められると考えたのだ。

 白羽に言われるがままの恵子は、コンビニにという基準を失い、生活のリズムが狂う。そして動物としての合理性を基準に判断をすることが正しいのではないかと思い始める。それは、子供を産んで、種族を反映させること……。恵子は白羽の義姉に聞く。

「子供って、作った方が人類のためですか?」

 すると義姉はそんなことはやめてくれとため息交じりで

「あんたらみたいな遺伝子残さないでください」

 と冷たく言った。残念だけど、これこそ、普通に生きてない人間に対しての一般的な本音だ。異物を増やしてどうするということだと思う。

 恵子は自分が異物な存在なのだと実感させられる。そして吸い寄せられるようにコンビニへ入り、改めて自分はコンビニで形成された「コンビニ人間」なんだと認識する。普通の人間でいるならば白羽(男性の存在)は必要だが、コンビニ人間にはそんなものは必要ないと気が付くのだ。

 「普通」から逸脱して生きるのは簡単ではない。「私は私」と思いのままに行動をとれば、孤独を感じてしまうこともあるかもしれない。でもせっかくの人生なんだから、好きに生きるのもひとつなのではないだろうか。少なくとも、誰かと同じになることはないし、それを周りがやいのやいのというべきではない、ということを改めて思わされる一冊だった。(スギ タクミ


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