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2004年10月15日 竹内みちまろ
「若きウェルテルの悩み」(ゲーテ/高橋義孝訳)は、既婚女性への思いに悩み、青年が自殺をする話です。「若きウェルテルの悩み」が発表された当時は若者の自殺が流行したそうです。「若きウェルテルの悩み」は、ウェルテルが友人へ送る書簡形式ではじまります。ウェルテルに宛てられた手紙は紹介されません。手紙を利用した一人称による独白です。あらすじを簡単にご紹介します。ウェルテルは、金のためにあくせくする人間を蔑みます。泉のほとりでホメロスを読むことを楽しみに毎日を送っています。なかなかのロマンチストのようでした。
「いっそコガネムシになりたい、そうしていいにおいの海をさまよい泳ぎ、自分の養分を存分に見つけ出せたらと思う」
そんな青年は、既に結婚が決まっている女性と知り合い、恋に落ちてしまいました。思い悩む青年は、つてで得た公使館勤務をやめてしまいます。戦争に行こうと思ったこともありましたが、知人の将軍に止められて、あっさりやめてしまいます。あてのない旅にも出ましたが、気がついたら、自分の知っている場所だけを回っています。そんな自分を思い返すたびに人生に失望して、女性への思いだけを強くしていく姿が、手紙からは伝わってきます。世の中は、ろくでもない場所だとあきらめをつけて社会に順応する、そんな生活の中で自分なりの楽しみを見つけていくことが人生であると悟ることができれば、それなりの幸せが得られるのかもしれません。しかし、それができないウェルテルは、社会から取り残されて、内面世界に閉じこもります。
そんな青年の苦悩が伝わってくる手紙の数々は、本書の約7割を過ぎたところで一旦終わります。残りの3割は「編者より読者へ」という文章に移ります。それまでの内容が、ウェルテルが友人に当てた私信の列挙であるために、読者には事実関係やウェルテルを取り巻く周囲の人間の姿が、いまいち浮かび上がってきません。ラスト3割は、編者がウェルテルの自殺に関して、客観的な事実を列挙するという形式を取っています。自殺を決意するまでのウェルテルの手紙を引用しながら、同時に、周囲の人間がウェルテルをどう見ていたのかを冷静な目で浮き彫りにします。そして、ウェルテルが思いを寄せていた女性も、密かにウェルテルを自分のものにしたいと切望していたことが語られます。物語は、ウェルテルも知っているある未亡人に仕える男が、未亡人に思いを寄せる別の男を殺害する事件により、一挙に終焉に向かいます。連行される男は、ウェルテルに「あのひとには誰にも手をつけさせない」と語りかけます。ウェルテルは「すさまじいおそるべき感動」を受けます。手紙を列挙することによりウェルテルの内面世界へと読者を誘い、編者による客観的な分析により女性のウェルテルへ対する思いを提示するという構成が、ラストシーンで描写されるウェルテルの自殺を仕立てあげているのだと思いました。
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