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2016年2月24日 竹内みちまろ
「沈黙の春」(レイチェル・カーソン/青樹簗一訳)を読みました。原著「サイレント・スプリング」は1962年にアメリカで出版され、2年後に日本語翻訳版が出されました。
「沈黙の春」は、「まえがき」と17の章からなります。
「まえがき」では、1958年1月に、ある女性から「彼女が大切にしている小さな世界から、生命という生命が姿を消してしまった」という内容の手紙を受け取り、長いこと調べかけてそのままにしておいた仕事をまた始めようと思い、「どうしてもこの本を書かなければならないと思った」ことが記されています。
本編では、空中散布されるものを含めて、殺虫剤や除草剤を大量に使っていることにより、化学薬品が、昆虫、鳥、動物、魚、植物、地下水、川、海、土壌などを汚染し、人間にも被害を及ぼしている現状が報告されます。
「わずか二、三種類の虫を退治するために、あたり一面をよごし、ほかならぬ自分自身の破滅をまねくとは、知性あるもののふるまいだろうか。だが、私たちがいままでしてきたことといえば、まさに寸分違わずそのとおりなのだ」
その結果として以下のような状態に至っていることが記されます。
「鳥がまた帰ってくると、ああ春がきたな、と思う。でも、朝早く起きても、鳥の鳴き声がしない。それでいて、春だけがやってくる――合衆国では、こんなことが珍しくなくなってきた」
背景としては、第2次世界大戦の「おとし子」として合成化学薬品工業が急速に発達したことが指摘されています。もともと、人を殺すための研究に広範な昆虫が使わており、合成殺虫剤ができ、戦争が終わっても、新しい薬品があとを絶つことなく作られていると指摘されています。
さらに、化学工業の巨大企業が大学に殺虫剤研究費用を提供し、ドクター・コースの学生にはたっぷり奨学金が与えられ、魅力ある就職口を提示されるそうです。
一方で、科学薬品を使わずに昆虫の害を防ぐ生物的防除の研究にはいっさい援助をせず、州や中央政府所属の機関にまかせきりになっているそうです。さらに、著名な昆虫学者は化学工業関係の会社から援助を受けており、加えて、仕事すらも化学工業関係の会社から与えられていると記されています。
さらに、その数は少ないが自然保護主義者や生物学者、自然を愛する者たちがいくら声をあげても、中央政府や州政府関係の防除専門家(巨大企業に支援された研究者よりもはるかに給料が安い)は生物学者の報告を頭から否定していることが書かれています。
結果として、「殺虫剤はまったく無害です」ということになっているとのこと。
しかし、現実では、工場から出た科学薬品が地下水によって何マイルも離れた農場に運ばれて、井戸に毒がまざって人間も動物も病気になり、作物が傷めつけられていることが報告されます。
アメリカに留まらず、イギリスでは種子を化学薬品で殺菌したために、空から死んだ鳩が落ちてきて、中毒を起こして死んだネズミや鳥を食べたため半年で1300匹のキツネが死に、被害のひどかった地方では捕食性の鳥がほとんど完全に姿を消しました。
カナダでも、製紙工場の原料となるパルプを守るため、ある虫を駆除しようと広範囲に殺虫剤が空中散布され、2日と経たぬうちに川岸に死んだ魚や死にかけの魚が打ち上げられ、森の小道を行けば鳥の死骸が転がっており、「川からは生命という生命は姿を消して、ただ水が流れてゆくだけだった」。
「ミシガン州のコマドリ、ミラミッチ川のサケと同じように、これは私たちすべてにとって生態学的問題である。相関関係とか、相互依存関係の問題なのである」といい、「少量の薬品でもよい。じわじわと知らないあいだに人間のからだにしみこんでゆく。それが将来どういう作用を及ぼすのか。こういうことこそ、人類全体のために考えるべきであろう」とも記されていました。
「殺虫剤はまったく無害です」とアナウンスされる仕組みを読んで、人間の恥や尊厳というものを考えました。
勝手な想像ですが、研究者や関係者たちは、化学薬品が空中散布されたらどんなリスクがあるのかということに気が付いていたのかもしれないと感じました。
もしそうだったら、なぜ、声をあげて問題を提起しなかったのだろうと思いました。
口に出してしまったら職を失うという恐れがあったのかもしれません。みんなが黙っているから自分も黙っていればよいという気持ちもあったかもしれません。もしくは、今更言ったところで、現状は変わらないと諦め人もいたかもしれません。
ただ、そうやって現実に目をつぶり、自分に都合のいい理由を見つけて自分を納得させてしまっても、恥や尊厳は失ってしまうと思いました。恥や尊厳を失ってまで維持しなければならない現状というものは何なのだろうと思いましたし、恥や尊厳を失ってしまったら、人生にどんな価値があるのかと考えました。
この読書感想文を書いている今は2016年2月ですが、近年では、自己責任という言葉が浸透し、内部告発ということも言われるにようなりました。
ただ、そうは言っても、もし、自分が「沈黙の春」で報告されていた研究者や関係者の状況に立ったら、声を上げることができるだろうかと考えました。
日本にも公害問題があります。そして、原子力発電所というものもあります。
レイチェル・カーソンが、汚染は人類そのものに係わる問題であり、そして、人間の英知に係わる問題と訴えかけるたびに、自分は、自身に恥じない尊厳を持った行動ができるだろうかと考えました。
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