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ひめゆりの塔/石野径一郎のあらすじと読書感想文

2014年6月12日 竹内みちまろ

ひめゆりの塔のあらすじ

 米軍の沖縄上陸を控え、沖縄の女子師範学校と第一高等女学校で特志看護隊「ひめゆり部隊」が結成された。両校は、首里市と那覇市を結ぶ国道の中間に建設されたひとつの敷地に校舎を並べ、一人の校長に統率されていた。「ひめゆり部隊」は、教職員と16歳から20歳の女子生徒を合わせて200名を超える部隊となった。

 1945年3月、米軍の沖縄上陸が始まると各地で激戦が始まる。日本軍は5月上旬に反撃に出るも大打撃を受けた。

 「ひめゆり部隊」がいた南風原(はえばる)野戦病院は、首里、那覇、与那原(よなばる)の後方に位置。3つの壕からなる南風原野戦病院に次々と負傷兵が収容され、「ひめゆり部隊」の女子生徒たちは、南風原野戦病院から、陸海空からの砲爆撃にさらされる首里の山々を見つめながら豪生活を送っていた。

 与那原陣地が陥落すると首里が米軍に包囲される。5月下旬、日本軍は洞窟司令部がある首里城を放棄し、南へ司令部を移すことを決定。「ひめゆり部隊」にも移動命令が出され、島の南端へ向かって下り始めた。

 なす術の一切が消滅した6月18日、南部の米須で、4つの天然洞窟に分かれて本隊が壕生活を送っていた「ひめゆり部隊」に、軍から突然の解散命令が出される。一部の軍人や軍国主義の教職員らの先導で「ひめゆり部隊」は「総員玉砕」と決定。女子生徒たちがすすり泣く中、手榴弾による自決や、米軍の攻撃で、洞窟の奥深くに追い詰められた「ひめゆり部隊」は壊滅した。

ひめゆりの塔の読書感想文

 「ひめゆりの塔」は、読み終えて、自我というものを考えました。

 師範二部生で20歳の伊差川カナは容姿端麗で、数学が好きな女子生徒でした。妹の伊差川ミトは第一高女の最上学年で、カナと同じ師範二部生の美貌の詩人・荻堂雅子(うたこ)の影響で文学が好きな少女。

 カナが、ミトから、「雅子さんがおねえさんにあげなさいって――。わたしもまだ読んでないの、――だれか見てないかしら? ひろうときはとてもこわかったそうよ」といって、米軍機がばらまいていった「降伏勧告状」を渡され、姉妹で読む場面がありました。「降伏勧告状」には、戦争の勝敗はすでに決まっていること、米軍は投降者に危害を加えず、食料を供給し、病人を看護することなどが記されています。

 米軍の圧倒的物量による攻撃と、次々と野戦病院に送られてくる負傷兵を見ていたカナは、戦争の勝敗がすでに決していることは「うそではあるまい」と思い至り、「日本は負けたのである」と確信します。そして、米軍を懐近くにおびき寄せたら一気に葬ると息巻いていた日本軍の言葉がうそだったことを痛感します。しかし、アメリカやイギリスが野蛮な国で投降した女子生徒は純真を弄ばれ、悲惨な目に遭うと教えられていたカナは、「アメリカは、こういう国だろうか。もし、そうであったら――」を思いを馳せます。しかし、ビラに書かれた文字に見入っていた姉妹は、目と目でうなずき合い、ビラを細かくちぎって、見つからないように、地中に埋めました。

 カナは、生まれた時から日本が戦争をしており、軍国主義の中で育てられました。カナは、アメリカのことも、戦争のことも、そして、軍国主義というものがどういうことかも知らず、また何も知らされずに育ったのだと思います。

 しかし、首里城の放棄と、南部への避難が始まると、カナは道すがら色々な人たちと言葉を交わし、様々な出来事に遭遇し、軍国主義や、軍人や、教育者たちの欺瞞が一気に表面化した様子を見ました。そんな中、カナは、悩み、考え始めたのかもしれないと思いました。米軍は、ビラと同内容の降伏勧告の放送を行い、洞窟の奥に立て籠もる「ひめゆり部隊」も放送を耳にします。カナはしだいに心を動かされていきます。が、そんな様子が、軍人や教職員から目を付けられ、一人だけ洞窟の奥に呼ばれ、取り囲まれて、殴る蹴るのリンチを受けます。

 しかし、それでもカナは、米須の洞窟で、心を乱します。

「米国の放送が絶対真実だ、とはいえまい。しかしここにいる人たちの到達している玉砕は不合理である、しかもその考え方は数百年の虚栄的な国民道徳を基礎にして、この壕の中で絶大な指導権をもっている。自分とてこの考え方のわなから解き放たれているとはいいにくい。一刻を争うこの大きなせつなに、小さいわたし個人の微力をもってどういう働きができるか」

 教えられたことを信じて疑わない人間、一部の人間たちの都合で作られた欺瞞を正義と確信して疑わない人間、自分の頭と心で考えることを放棄した人間たちがはびこり、力を持った世界で、カナは、自分の頭で考え、心を乱し続けました。そのカナの姿に、人間の尊厳というものを感じました。


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