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阪急電車/有川浩のあらすじと読書感想文

2011年9月13日 竹内みちまろ

阪急電車/有川浩のあらすじ

 『阪急電車』(有川浩・幻冬舎文庫)はオムニバス形式の短編小説集です。阪急電車今津線を舞台にし、作品のタイトルは「宝塚南口駅」「甲東園駅」など駅名になっています。前の作品の主人公が次の作品に脇役として登場したり、ある作品で起きたエピソードが別の作品の冒頭に使われていたりなど、各作品はそれぞれ、作品ごとの枠組みを越えてつながっています。

 『阪急電車』のトップバッターの作品は「西宮北口方面行き−−宝塚駅」。会社員の征志(まさし)が、ほぼ2週間に1度のペースで通っている図書館で見かけた女性と電車の中で言葉を交わす物語です。きっかけは、女性が征志の隣に座ったことで、話がはずみ、「この次会ったとき、一緒に呑みましょうよ」となります。恋が始まる一歩手前を描いたような短編です。

 2番手の作品は「宝塚南口駅」。婚約者を会社の同期生に寝取られた翔子の物語です。翔子は、元婚約者と同期生の結婚式に、純白のドレスで乗り込みました。翔子が載った車両では、征志と女性の弾む会話が聞こえていました。

 『阪急電車』の各作品は、いったん、「西宮北口駅」まで行き、そこで折り返します。最後は「そして、宝塚駅」で終わります。「そして、宝塚駅」では、征志と、冒頭の作品では女性として登場していたユキの恋を育む姿が描かれます。

阪急電車/有川浩の読書感想文

 大阪の人や、京都の人の話を聞くと、関東人としては、「?」と疑問に思うことがあります。例えば、私鉄の「梅田駅」ですが、ようは、JR「大阪駅」と(ほぼ)同じ場所にある駅だそうです。関東ならば、例えば、JRの「蒲田駅」があり、けっこう離れた場所に、京浜急行電鉄の「京急蒲田駅」があります。旧国鉄の「蒲田駅」は「蒲田駅」で、国鉄に敬意を表しているのかどうかはわかりませんが、歩いて20分くらいかかるかもしれない場所にあるにもかかわらず、蒲田にある京急の駅は、「京急蒲田駅」と名づけられています。

 しかし、西へ目を向けてみれば、同じ場所にもかかわらず「梅田駅」。関西の人、特に大阪の人は、「阪急大阪駅」とはせずに、「梅田駅」と名づける。駅名が決定した詳しい経緯は分かりませんし、また、よい悪いとかを検証する次元の現象ではないと思いますが、とにかく、関東の人間だったら思わず(嫌がらせ?)(対抗意識むき出し?)などと勘ぐってしまうような駅名の付け方が普通に行われる場所が関西、あるいは、大阪。関西人・大阪人は、これはもう、(関東人からすれば)外国人とほぼ等しいのかもしれません。

 『阪急電車』は、関東人にとって、関西・大阪という場所と、そこで住み暮らす人を知るうえでも楽しく読むことができました。また、作中では、DVに苦しむ(恋人から殴られる)女性なども登場しますが、基本的に全部がハッピーエンドになっています。物語世界の中の現象で読者が「なんで?」と疑問に思うことが予想されることは、ほぼすべて地の文で説明されています。読者は何も考えることなく、頭を使わずにただ文章を追っていけばよいという作品になっています。電車の中で読んだり、旅のお供にかばんに入れたりと、極上のエンタメに仕上がっていると思いました。


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