2017年4月27日
「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」と、かの有名な作品をオマージュした1文で始まる本作は、もちろん夏目漱石の『吾輩は猫である』と同じく、猫目線で語られる物語となっております。
猫の名前はナナ。元はノラ猫でしたが、ある日交通事故にあったことがきっかけで、いつも餌をもらっていた悟の元で暮らすことになります。心優しい悟の看病のおかげでナナの事故の傷は癒え、一緒に幸せな5年間を過ごしました。しかし、悟はナナを飼えなくなり、2人は最後の旅にでます。その旅というのは、ナナの新しい飼い主探しと、悟の親しい人たちに会いに行く旅でした。
最初に訪れたのは悟の小学校の時の幼なじみ、幸介。幸介は小学生の頃に悟と猫を拾い、ハチと名付けましたが、そのハチとそっくりな模様のナナを見て驚きます。幸介は当時ハチを飼いたがりましたが、幸介の父親が許してくれず、代わりに悟がハチを飼うことになったのです。小学6年生になり、2人が修学旅行に行っている間に不慮の事故で悟の両親が亡くなってしまいます。悟とハチが残されましたが、悟は母親の妹の法子の家に、ハチは遠い親戚の家に引き取られることになりました。幸介は再び父親にハチを飼うことを頼みますが叶いませんでした。ナナを大切にして欲しいと思った悟は、ハチの代わりにナナを飼おうとしている幸介に、新しい猫を探すように伝え、また旅に出ました。
次に訪れたのは中学時代の友達、吉峰。吉峰は両親が離婚し祖父母の家に引き取られ、悟と同じ中学に転校してきました。家庭環境に問題を抱える2人には分かり合えることも多くすぐに仲良くなったのです。そんな吉峰は現在、祖父母の後を継いで農家をしており、チャトランと名付けた子猫を飼っていました。母親に捨てられたチャトランに吉峰は自分を重ね合わせているのでしょうか。そんな昔話を聞きながら、ナナはチャトランにファイティングポーズを教え、悟と吉峰の前で促します。2人はナナとチャトランの相性が悪いと思い、ナナを吉峰の家で引き取るのを諦めます。今回は悟とずっと一緒に居たいナナの戦略勝ち。2人の旅はまだまだ続きます。
その後、訪れたのは、高校生の頃迷子の犬を拾い仲良くなった杉と千佳子。3人は当時三角関係にありましたが、優しい悟は身を引き、杉と千佳子は結婚しました。2人は動物と泊まれるペンションを経営しており、猫のモモと犬の虎丸を飼っています。しかし今回は虎丸がナナに吠えるので断念。また2人は旅を続けます。
最後に訪れたのは、悟の両親が亡くなってから悟を育ててくれた叔母の法子。法子は猫が苦手なのですが、一生懸命ナナに向き合います。不器用で真面目な法子の姿を見て、徐々にナナも懐き始めます。
各地を巡り、悟の思い出を巡ってきた、旅猫ナナ。ここで最後の旅をリポートするようです。悟はなぜナナを飼えなくなったのでしょうか……。なぜ最後の旅なのでしょうか……。理由を知ったとき、胸がぎゅっと苦しくなります。
最後の章では、涙が止まりませんでした。何度か読み返しましたが、何度読んでも涙が出るのです。悟の人生には沢山の悲しいこと、やりきれないことがあったことでしょう。ですが、だから涙が出るのではなく、ナナがいてくれたから悟は幸せだった、という気持ちでいっぱいになり、温かい涙がこぼれます。“私にとっての幸せって……?”と自身の人生を見つめなおし、自分の周りにいてくれる人たちを大切に思う気持ちが、自然と芽生えてくるような、そんな幸せな物語でした。
映画の見どころはやはり、ナナ役の猫さんと悟役の福士蒼汰さんの演技だと思います! 『旅猫リポート』の映画の公式サイトで福士蒼汰さんは、以下のようにコメントしています。
「お芝居で猫と共演するのは初めてなので、最初は猫との距離感に少しドキドキ、猫見知りしました。でも、相棒のナナは、クルクルとした毛がチャーミングな、ちょっとやんちゃでかわいい猫なので、日々楽しく撮影しています。」
とても可愛らしい猫さんのようで、たいへん楽しみです。
また有川浩さんは、同じく公式サイトにて「こちらからお願いしたのは、とにかく猫さまの都合を第一に!ということ。猫のしたくないことはいっさいさせない。必要であれば脚本はいくらでも書き換えます、と。けっして言うことをきいてくれない猫さまを一緒に愛してくださるみなさま、サトルとナナのふたりの旅を見守ってあげてください。」と猫第一を唱えており、ますます映画の仕上がりが楽しみです。
実は『旅猫リポート』は絵本としても出版されています。絵はこれまで数多くの絵本を手掛けてきた村上勉さん。内容も分かりやすくまとめられておりますので、お子様と一緒に絵本を楽しんでから映画館へ行くのも良いかもしれません。
『旅猫リポート』の映画化は2018年。本を読む際も、映画を見る際も、ハンカチ、ティッシュは忘れずに!(ミーナ)
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