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ノルウェイの森|突撃隊について

2011年9月4日 竹内みちまろ

 小説『ノルウェイの森』の登場人物・突撃隊。主人公のワタナベと同じ寮に住む学生で、地図の勉強をしています。ラジオ体操を好む吃音者ですが、突然、物語から消えてしまいます。今回は、突撃隊について考えてみたいと思います。

 『ノルウェイの森』は、第1章で37歳の僕が飛行機の中でビートルズの「ノルウェイの森」を聞き、第2章から、回想が始まるという構造をとります。第2章の書き出しは、「昔々、といってもせいぜい二十年くらい前のことなのだけれど、僕はある学生寮に住んでいた」となっています。しばらく、その「右翼的な人物を中心とする正体不明の財団法人によって運営されて」いた寮の話が続きます。部屋割りは、原則、1、2年生が2人部屋で、3、4年生が1人部屋。新入生のワタナベは2人部屋に入り、パートナーが突撃隊でした。

 突撃隊というのはもちろん、あだ名です。国立大学で地理学を専攻する突撃隊は、国土地理院に入りたがっていますが、頭は丸刈りで、いつも白シャツに紺のセーター、学校へ行くときは学生服を着用し、靴も黒。「見るからに右翼学生という格好だった」ため、突撃隊のあだ名がつけられたことが語られます。しかし、見た目とはうらはら(?)に、「政治に関しては百パーセント無関心」で、洋服を選ぶのが面倒でいつも同じ格好をしているだけとのこと。潔癖なまでにきれい好きですが、海岸線の変化だとか、新しいトンネルだとかの話を始めると、1時間でも、2時間でも、しゃべり続けるそうです。さすがに、毎朝、6時半になると部屋でラジオ体操を始めることに文句は言いますが、ワタナベは、別にこれといって突撃隊のことが気にくわなかったり、バカにしたりということはないようでした。しかし、直子をはじめ、会う人たちには、話題としていつも突撃隊の話をして、相手を面白がらせていました。

 年が明けて、1969年の1月末、突撃隊が40度近い熱を出して、ワタナベは直子とのデートをすっぽかして、看病をしました。4月の半ばには直子が20歳になり、ワタナベは直子と結ばれて、直子はワタナベに何も言わずにアパートを引き払ってしまいます。5月の末に大学がストに入り、ワタナベは、「結構、解体するならしてくれよ」と思います。7月の初めに直子から京都の療養所に入ろうかと思っていますという手紙が届きます。7月の終わりに、ワタナベは突撃隊から蛍をもらいます。近くのホテルで客寄せに放つ蛍が庭に迷い込んできてつかまえたそうです。突撃隊は実習が終わりしだい、山梨の実家へ帰るとのこと。

 夏休みが終わり、ワタナベは、休み中に機動隊が突入してストとバリゲードを粉砕したという大学に登校し、廃墟となっていることに半ば期待を抱いていましたが、まったくの無傷であることを目の当たりにしてがく然とします。ストが解除され、いちばん最初に授業に出席してきたのはストを指導する立場にあった学生たちであることをみとめ、ワタナベは「これはどうも変な話だ」と感じます。ワタナベは、彼らのところへ行って「どうしてストをつづけないで講義に出てくるのか」と尋ねます。答えはありませんでした。ワタナベは「おいキズキ、ここはひどい世界だよ」と心の中で、自殺した旧友に話し掛けます。

 9月の第2週になってもワタナベは戻ってきませんでした。歯ブラシも、お茶の缶もそのままです。突撃隊の学校の授業はとっくに始まっており、ワタナベは突撃隊の代わりに部屋の掃除をして、突撃隊が戻ってきて「どうしたの? すごくきれいじゃないか」と賞めてくれるのを待っていました。しかし、ある日、学校から帰ってみると、突撃隊の荷物が全部、なくなっていました。寮長室に聞きにいくと、「退寮した」とのこと。理由を尋ねたのですが、教えてもらえませんでした。ワタナベは、一人になった部屋で、ときどき突撃隊のことを思い出し、学校で緑から声を掛けられました。

 「昔々」で始まる回想の物語が語られて最初に登場した突撃隊。しかし、不自然とも思える形で消えてしまいました。

 第1章で、ワタナベは、「失われた時間」「死にあるいは去っていった人々」「もう戻ることのない想い」など、「これまでの人生の過程で失ってきた多くのもののことを考え」ています。キズキ、直子、ハツミなどが“死んでいった人々”ならば、突撃隊は“去っていった人々”ということでしょうか。突撃隊についても、“去っていった人々”についても、『ノルウェイの森』という小説の中では語られないでわかりません。37歳のワタナベが、回想の物語を語る上でわざわざ突撃隊の話をピックアップして語っているという現象だけが、読者には、提示される形になっているのだと思いました。


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