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リバース/湊かなえのあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2017年12月11日

リバース/湊かなえのあらすじ(ネタバレ)

 深瀬和久はニシダ事務機株式会社で営業マンをしているサラリーマンである。小さな会社の中でも一番若い深瀬が、社内で唯一期待されていることは、コーヒーを淹れることであった。深瀬がコーヒー豆を買っているのは「クローバー・コーヒー」というコーヒー豆専門店である。深瀬が入社して間もなく出会ったそのお店は、珍しい豆とセンスの良いマスター、饒舌な奥さんがおり、すぐに深瀬の行きつけの店となった。そして、その店の常連客だった越智美穂子と出会い、美穂子に惹かれた深瀬は、クローバー・コーヒーの奥さんの後押しもあり、美穂子と付き合うこととなった。

 ある日、深瀬は美穂子とクローバー・コーヒーで待ち合わせをしていた。約束の時間が過ぎても現れない美穂子に連絡をすると、美穂子は深瀬のアパートにいるという。深瀬はアパートに戻り美穂子を部屋に入れるが、いつもと雰囲気の違う美穂子に戸惑う。美穂子は自分の勤めているパン屋に届けられたという一通の封書を深瀬に差し出す。深瀬が中を開けるとそこには『深瀬和久は人殺しだ』と書いてあった。美穂子から心当たりについて聞かれた深瀬は、迷いながらも、頭から離れない過去について美穂子に語り始める。

 3年前の夏、大学生4年生だった深瀬は、同じゼミの村井隆明、浅見康介、谷原康生、広沢由樹と一緒に班丘高原へ行くことになった。ゼミのメンバーは普段、村井、浅見、谷原は派手グループ、広沢、深瀬は地味グループというように分かれており、深瀬は初めてできた親友の広沢と時間を過ごすことが多かった。しかし、卒業間近の思い出作りということで、ゼミメンバー全員で旅行へ行くことになった。

 叔父が別荘を所持している村井が旅行の提案者であり、旅行の準備をすべて仕切ってくれていた。しかし、村井は旅行前日に交通事故に遭ったため、当日は遅れて合流することになり、村井を除いた谷原、浅見、深瀬、広沢の4人で先に別荘へ行くことになった。斑丘高原への道中、深瀬が調べてきた情報を元に食い倒れツアーのようにご当地グルメを楽しんだ。昼食も深瀬が調べていた蕎麦屋に入ることになったが、カレー好きで知られる広沢だけは1人別行動をして斑丘高原豚のカツカレーを食べた。その後、道の駅でバーベキュー用の野菜や、朝食用のパン、地元農家手作りのジャムや蜂蜜などを購入し別荘へ車を進めた。

 スキー場にあるという別荘は、曲がりくねった狭い山道の奥にあった。無事別荘についた4人だったが、天候が悪くなったため予定していたバーベキューを中止し、別荘の中で夕食をとることになった。

 夕食の準備をしながら谷原と浅見は酒を飲み始め、広沢と深瀬にも酒を勧めた。広沢と深瀬は酒が飲めないと断ると、谷原は不機嫌になった。特に、昼食も単独行動をした広沢対して不満げな態度をとった。深瀬は体質的に酒が飲めないと伝え、谷原も2人が酒を飲まないことに納得した様子であったが、広沢は「自分は深瀬とは違い、飲むと眠くなるだけだから」と言って酒を飲むことにした。

 そこから、4人は和やかに食事を楽しんでいたが、後ほど合流する予定だった村井から、近くの駅まで来ているので、迎えに来て欲しいと連絡があった。電話をとった谷原が、「免許を持っている浅見と広沢は既に酒を飲んでいるため迎えにはいけないので、タクシーで来るように」と伝えると、「タクシーを拾うためには前の駅まで戻る必要があるため、車で迎えに来い」と村井はゴネた。旅行準備を率先してやってくれた村井相手に、強く言うことはできず、谷原は「浅見か広沢に迎えに行かせる」と言って電話を切った。

 谷原はまず、天候や山道の状況を考えて、運転の慣れている浅見に頼んだ。しかし、浅見は教師であった亡き父の影響で真剣に教師を目指しており、飲転検問に引っかかり人生を棒に振りたくは無いと頑なに拒否した。浅見は広沢に運転を頼み、深瀬は止めようと思ったが、結局広沢は引き受けた。深瀬は自分にできることを考え、蜂蜜入りコーヒーが好きな広沢のために、道の駅で買った蜂蜜を、淹れたてのコーヒーに入れて広沢に持たせた。

 しかし、時間が経っても広沢が現れないと、村井から連絡が入った。広沢に電話をかけても繋がず、心配した浅見と谷原は、深瀬には別荘で広沢の連絡を待つように伝え、広沢を探しに行った。不安でたまらない深瀬に浅見から連絡が入り、広沢が運転していた車がガードレールを突き破り、崖下に転落し炎上していると知った。翌日、警察の調べで、広沢が死亡しているのが確認された。

 深瀬の話を聞き終わった美穂子は、「お酒を飲んでいたことを知って送り出したのは無罪とは言わない」と言った。事故後、深瀬、浅見、谷原、村井は警察や広沢の両親に、広沢が酒を飲んでいたことは暗黙の了解として伏せていた。そのことを美穂子に告げると、「隠していることがあるのが、罪の証拠だ」と言い、美穂子は深瀬の元を去っていった。

 ある日、深瀬は仕事の依頼を受けて楢崎高校を訪れる。楢崎高校には、浅見が務めており、ゼミ仲間という繋がりから、浅見はよく深瀬の会社に仕事の依頼をしてくれていた。しかし、楢崎高校へいくと依頼をしたのは、木田瑞希という国語教師であった。そこで深瀬は、木田から、浅見の車に「浅見康介は人殺しだ」という張り紙があったことを教えられる。

 その後、深瀬は村井と会い、村井も同じ被害にあっていると知る。村井は、事故の事を振り返り、広沢を迎えにいくと見せかけた谷原と浅見が、広沢を殺したのではないかと言い始める。実は、深瀬が知らないところで、谷原、浅見、そして村井も広沢と接点を持っていた。村井から聞いた話に頭を悩ます深瀬であったが、数日後、村井から連絡があり、野球チームに所属している谷原が、練習の帰りに線路から突き落とされたということを知る。

 深瀬は、村井、浅見とともに谷原のアパートへお見舞いに行く。谷原は、命に別状はなかったが、突き落とした犯人が告発文の送り主同一人物ではないかと考え、警察に届けるのを迷っていた。話し合いの末、広沢の死によって4人を恨んでいる人物が犯人ではないかということになる。また、広沢に彼女が居たという事実が判明し、その彼女が犯人なのではないかという話になる。深瀬は、親友だと思っていた広沢に彼女がいたことを知らなかったことに少なからずショックを受けるが、自分の知らない広沢の人生を知りたくなり、自ら犯人捜しを名乗り出る。

 深瀬は広沢の過去を知るため、愛媛県の広沢の地元を訪れる。そこで、深瀬は広沢の同級生と話し、広沢は運動神経が良く周囲から慕われていると知り、自分と同じ人種だと思っていた広沢は、自分とは全く違う過去を持っていたことに驚く。また、何人かの同級生から話を聞く中で、広沢には古川大志という仲の良い友達がいたと知る。古川が犯人なのかとも疑う深瀬であったが、同級生から借りた広沢の卒業アルバムに、深瀬も良く知るある女性の写真を見つける。

 広沢の地元から帰った深瀬は、現在神奈川県に住んでいるという古川に会いに行く。古川は、高校時代から広沢と仲が良く、大学に進学してからも広沢と親しくしていた。大学3年の時、古川は広沢が高校時代好きだった女性と偶然再会し、広沢と彼女を引き合わせ、広沢はその彼女と付き合うことになった。古川、広沢、広沢の彼女の3人で遊ぶことが多かったが、古川は自分だけが劣っているという劣等感を持ってしまい、広沢にひどい言葉をぶつけて絶縁した。古川は告発文の犯人ではないとわかり、深瀬は卒業アルバムで見つけた、深瀬の知る女性が犯人だと思う。卒業アルバムで見つけたのは、浅見の同僚教師木田であった。しかし、古川に確認をすると広沢の彼女は木田ではなく「5組のカワベ」という女性で、犯人捜しはまた振り出しに戻る。

 同級生からの情報で、犯人に繋げられなかった深瀬は、広沢と谷原が所属していた野球チームの池谷博之に話を聞く。同級生の話を聞いて、自分の知らない広沢がいることを痛感したためでもある。しかし、池谷は谷原が突き落とした事故に興味があるようで、突き落とされた日の事を話し始める。そこで深瀬は、突き落とされた日の帰り道、谷原は野球チームの女子マネージャーと一緒だったことを知る。その日以来マネージャーは姿を現さず、誰も連絡を取れないという。深瀬は、彼女が犯人であると思い、池谷に卒業アルバムを見せ、マネージャーが居ないか尋ねる。池谷が指したのは「5組のカワベ」であった。

 深瀬は、ひと月ぶりにクローバー・コーヒーに来ていた。深瀬は、広沢の彼女と約束をしていた。そこに現れたのは、美穂子であった。美穂子は広沢と付き合っていたが、大学4年生に上がる少し前に、広沢との関係が悪くなっていた。そんな状況で広沢が亡くなってしまい、美穂子は大学時代の広沢を知りたいという気持ちから深瀬ら4人に接触をした。美穂子は4人に接触し、「最後に一緒だったのがこの人たちで良かった」と思い地元に帰ろうと思ったが、広沢にとって特別だった深瀬の傍にいたいと思うようになってしまった。

 しかし、美穂子のストーカーが「深瀬和久は人殺しだ」という告発文を送ったことで、深瀬から過去の話を聞き、許せないと思い他の3人にも告発文を送った。また、谷原は広沢の件があったにも関わらず、「飲酒運転をしても構わない」という発言をし、さらには美穂子に抱きつこうとしたため、美穂子は谷原を突き飛ばし、ホームに転落させてしまったのだった。

 深瀬と美穂子は互いに、広沢について語り合い、大切な存在だと確認した。今後どうしたら良いのか考えた結果、広沢に関わった人に会い、広沢について知っていこうという事になった。

 深瀬と美穂子は、クローバー・コーヒーで、自分たちの知る広沢、知人から聞いた広沢についてノートに書いていた。美穂子から、広沢が蕎麦アレルギーだということを教えてもらった深瀬は、斑丘高原で広沢がカレーを食べた理由をやっと知ることになる。そんな深瀬と美穂子のために、マスターがコーヒーを淹れてくれた。砂糖の代わりに、数種類の珍しい蜂蜜を用意してくれたが、その中で深瀬は斑丘高原へ向かう途中の道の駅で購入した蜂蜜に似たものを見つける。

 何の蜂蜜なのかわからなかった深瀬は、奥さんに答えを聞いて愕然とする。広沢に最後に渡したコーヒーに入れた蜂蜜は、蕎麦の蜂蜜であった。広沢は、深瀬の淹れたコーヒーを飲み、蕎麦アレルギーを起こし事故にあってしまったのだった。深瀬は、広沢を殺してしまったのが自分であることに気づく。

リバース/湊かなえの読書感想文(ネタバレ)

 最後の一文に行きつくまでのストーリー展開と伏線回収、読了後の後味の悪さは、イヤミスの女王と呼ばれる湊かなえらしさを、存分に感じさせてくれました。

 また、ミステリーという視点を超えて考えてみると、本作は『人間がいかに自分の都合の良いように物事を見ているか』という、あまり気づきたくない事実に気づかされた作品でした。本作の主人公である深瀬は、「深瀬和久は人殺しだ」という告発文が送られてきた事をきっかけに、親友広沢の過去について探っていくことになります。自分の親友だと思っていた広沢の知らない過去を探るにつれて、自分と同じような地味でつまらない人間だと思っていた親友が、実は違うタイプの人間だったと知ります。これは深瀬にとって、知りたくない事実だったのではないでしょうか。

 大学時代の深瀬にとって、広沢という存在は、初めてできた友達であり、自分の劣等感や孤独感を埋める役割を果たしていたのだと思います。もしかしたら、自分が見たい広沢を見て、広沢の別の面が見えていなかったのかもしれません。人間は自分のプライドや居場所を守るため、自分の都合の良いように物事を見ているのだと思います。広沢は、この作品の中で、そういった物事の象徴のような存在だったのだと思います。物語後半、深瀬は広沢の過去を探ることで、広沢に向かいあいながら、同時に自分自身の認めたくない部分、目をそむけたい部分と向き合っていくことができたような気がします。

 また、本作の魅力として、男性同士の嫉妬心や劣等感が非常にリアルに描写されているという点も挙げられます。友達も少なく地味な深瀬と、大学のゼミ仲間である浅見、村井、谷原という社交的で要領の良い3人は対照的であり、男性社会の中では、このような上下関係が、学校でも会社でも日常的に見られる光景なのかなと感じました。また、男性の読者だけではなく、友達の多さがステータスのように感じている若い読者にとっても、共感とほんの少しの痛さを感じながら読んでいけるのではないかと思います。 (まる)


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