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飛ぶ教室/エーリッヒ・ケストナーのあらすじと読書感想文

2006年11月4日 竹内みちまろ

 「飛ぶ教室」(エーリッヒ・ケストナー/山口四郎訳)という作品をご紹介します。作家自身が登場するプロローグとエピローグで本編を挟んだ構成になっていました。本編で語られるのは寄宿生の5人組の物語でした。クリスマス気分で町が浮き足立つ数日間の物語です。クリスマスイブの夜がクライマックスになります。クリスマスものと言えるかもしれません。

 「飛ぶ教室」のあらすじを簡単にご紹介します。5人が通う学校の仲間が実業学校に通う生徒たちに襲われて一人が捕虜になってしまいました。実業学校の生徒の旗を奪って破いたことの仕返しのようです。双方から代表者を一人ずつ出して決闘することになります。最後は、大乱闘になり、陽動作戦を展開するうちに別動隊が地下室に監禁されていた仲間を助けだします。そんなエピソードがたっぷりと語られていきます。

 「飛ぶ教室」は作者の語り方が印象に残りました。5人組には、ちびとあだ名されている臆病な少年がいました。名前に「フォン」がつく身分のようですが、少年自身もいくじがないことを思いつめています。そんな少年がみんなの前で勇気を証明した場面がありました。仲間たちは、少年を尊敬の目でみるようになります。セバスチアンという少年がいました。いつも人をあざけるような態度をとり、友達が一人もいませんでした。そのセバスチアンが教室でちびの少年の勇気をほめたたえました。ここだけの話にしてうちあけるが自分だって小心者だと言います。ある仲間が「人間は、恥を知っているほうがいいとぼくは思うな」と言います。セバスチアンは「ぼくだってそう思う」と答えます。教室の仲間たちは、セバスチアンだって孤独に悩んでいたのだと思うようになります。しかし、セバスチアンは、すぐに「それはそうと、ぼくに勇気がないのをひやかすようなことは、ぜったいにだれにもさせないぞ。もしそんなことをしたら、ぼくは、ただ自分の体面をたもつためにも、そいつの横っつらをはりたおさずにはおかないだろう。つまり、それぐらいの勇気は、ぼくだって持っているんだ」と突っ張りました。作者は地の文を利用して、「これが、彼という人間でした。いまのいままで、みんなは彼に同情しかけていたのです。それなのに、もう、その相手にしっぺがえしをくわせるのでした」と読者に語ります。「飛ぶ教室」は児童文学として子ども向けに書かれた作品です。翻訳を読んだ限りでは、作者は子どもたちにわかりやすく話しかけています。しかし、話す内容は、すべてがすべて子どもが理解できるレベルのものではないと思いました。作者は、相手が子どもゆえに、まやかしは通用しないと信じているのかもしれないと思いました。人間というものがいかに孤独で、現実というものがいかに残酷であるのかを、包み隠さずに語っています。

 プロローグでは、文筆者としての自分が「飛ぶ教室」という物語を書くまでのエピソードが語られます。母親からクリスマスの話を書くようにせかされて、作者は汽車に乗って夏でも雪が見ることができる場所に行きます。プロローグのなかで、作者は、「まったく、人生のきびしさというものは、お金をかせぐだんになって、はじめてはじまるというものではありません」、「おとなというものは、どうしてこうも、けろりと、自分の子どものころをわすれて、子どもだって、ときにはずいぶん悲しく、不幸なことだってあるのだということを、まるでわからなくなってしまうのでしょう」と言います。作者は、「わたしがつぎにいうことを、みなさんは、よくよくおぼえておいてください」と語りかけます。

「かしこさをともなわない勇気はらんぼうであり、勇気をともなわないかしこさなどはくそにもなりません! 世界の歴史には、おろかな連中が勇気をもち、かしこい人たちが臆病だったような時代がいくらもあります。これは、正しいことではありませんでした。勇気のある人たちがかしこく、かしこい人たちが勇気をもったときにはじめて――いままではしばしばまちがって考えられてきましたが――人類の進歩というものが認められるようになるでしょう」

 「飛ぶ教室」を読んで感じたのは、人間がいかに愚かで世界がいかに絶望に満ちているかとなげく作者の心でした。そして、それゆえに、作者は、子どもたちに、希望を語らずにはおられなかったのかもしれないと思いました。


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