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一瞬の風になれ/佐藤多佳子のあらすじと読書感想文

2013年4月9日 竹内みちまろ

一瞬の風になれのあらすじ

 幼い頃から中三までずっとサッカーをやっていた神谷新二は、サッカー強豪校への進学はせずに、神奈川県の公立高校・春野台高校へ進学しました。新二の2つ上の兄の健一は、ユースの日本代表候補にも名前が挙がる天才フォワード。新二は、健一と同じサッカー強豪校の東京の私立の男子高に入って同じチームでプレイすることが夢でした。しかし、その学校は高校で生徒の募集はしておらず、中学の入学試験には新二は落ちてしまいました。そして、新二は、兄のような才能が自分にはないことを痛感していました。健一は、新二がサッカー強豪校へ進学しなかったことに納得がいきませんが、新二は、才能がないのに3年間努力が足りないと思い続けてサッカーを続けて行くファイトがわきませんでした。

 サッカーをあきらめた新二でしたが、3年間を無為に過ごすつもりはありませんでした。そんな新二に、同じクラスになった根岸康行が、一ノ瀬連のことを聞いてきました。連は、新二の幼なじみで、新二の隣のクラスでした。春野台高校は陸上部で力をつけており、根岸も陸上をやっていました。連は、中学の時に、短距離で全国大会7位の成績を誇る天才でしたが、中二の時に、陸上部を退部していました。根岸は連のことを知っていました。

 高校の体育の授業は2クラス合同で行われ、最初の授業の時、身長が同じ175センチの新二と連は、並んで走ることになりました。新二は、「思いきり走れよ」と声を掛けます。「知りたいんだよ。おまえ、どのくらい速いのか」。連が「おまえ、速いんだっけね」と聞いてくると、ここで引いたらイカンと感じた新二は、「速いよ。わりと」と力を込めて答えます。連には笑われてしまいましたが、新二は真剣に「勝負しよう」と言います。結果、新二は連の背中しか見ることができませんでした。が、新二のタイムは、陸上経験者の根岸よりも上でした。新二は、衝動的に、「おまえ、陸部、入れ」と連に詰め寄ります。連は、「新二も走る?」と尋ねます。新二は、強烈な熱い風を胸に吹き込まれた気がして「おう」と答えました。

 陸上部には、連、新二、根岸など10人の新入生が入ります。うち2人は女子で、鳥沢圭子と谷口若菜でした。顧問の三輪は、春高陸上部のOB。「冬場にしっかり走りこんだ奴はイヤでも結果が出るし、サボッた奴は出ねえから、今更あせるな。自分の身体は自分で管理しろ。いいか、俺のせいにすんな」などというところもありますが、陸上部では、部員同士の恋愛が禁止であることを告げます。新二は、谷口をかわいいと思って気になっていました。

 春高陸上部は、最初の目標であるインターハイの地区予選に参加します。400メートルを4人で走るリレーには、エースの2年の守屋をはじめもう一人の2年生と3年生2人が出場し、12位の成績で地区予選を突破します。

 県大会には、登録が済んだ1年生も出場できます。3年生の申し出により、タイムを計ってレギュラーを決めることになりました。結果、3年生の岡林、守屋、連、新二の4人で臨むことになりました。三輪は、新二に、生まれつきの体がないと勝負にならないという100メートルで、「おまえは、100mを10秒台で走るスプリンターになれるよ」と告げます。新二には、強力なバネがあるとも。

 新二は、インターハイの県大会予選で、三輪の恩師で県立の鷲谷高校陸上部顧問の大塚から、同級生の仙波一也を紹介されます。仙波は、中2の時は、連に負けましたが、中3では全国2位になった逸材でした。また、谷口と同じ中学で、谷口の片思いの相手でもあります。三輪は、新二や連をさして、「こいつらが三年になる時には、4継(=400メートルを4人で走るのリレー)で鷲谷を抜きますよ」と大塚にいいます。陸上素人の新二はバトンを渡すだけで受け取る必要がない第1走者に選ばれ、仙波の隣で走ることになりました。エース区間の第2走者は連。春高は練習ではどうしても出なかった43秒台のベストタイムを出しましたが、15位で予選落ちしました。しかし、新二は、陸上ではタイムが名刺代わりになり、そして、出したタイムは「俺らのもん」ということを実感します。

 夏の合同合宿を終え、国体予選を兼ねた県記録会に参加することになりました。しかし、エースの連が外国へ行ってしまい、連不在で臨みました。連の母親は、服や雑貨のバイヤーをしていて、離婚を繰り返し、買い付けのため、ひんぱんに外国へ行っていました。根岸、新二、浦木、守屋で臨んだ4継は、急増チームでバトンの受け渡しがうまくいかず、いい記録は出ませんでした。

 帰国した連は、新部長の守屋からたっぷりと絞られました。3年生が引退し、2年生と1年生だけになった新人戦地区予選は、新二、連、根岸、守屋のベストメンバーで臨むことになりました。ただ、新二はずっと、無断で試合を放棄した連を無視しています。新二は、根岸に、「悔しくて」と連を無視する本当の理由を口にします。根岸は、「一ノ瀬連より速くなれ」と答えます。新二は、「まさか」と聞き返しますが、「まさかじゃないの。俺は無理でも、おまえは出来るかもしれないの。おまえらがマジで競うようになったら、ウチはほんとうにすげえチームになるよ」

 秋の新人戦が始まりました。10日間に渡る無視の後、「このチームはいける」と感じた新二は、連に言葉を掛けます。4継で、決勝まで進み、鷲谷に次ぐ、2位を走りました。タイムが期待されましたが、第3走者の根岸から、第4走者の守屋へバトンが渡される際、バトンを受け渡すテイクオーバーゾーンを越えてしまい、失格という結果になりました。新二は、幻となったタイムは気になりませんでした。鷲谷の仙波や高梨と競り合い、チーム4人で走った身体が感じたものが、嬉しいと感じました。

一瞬の風になれの読書感想文

 三部作の1作目だったのですが、「一瞬の風になれ」は面白くて、一気に読んでしまいました。スポーツもの、青春ものは、やはり、読んでいて爽快です。

 新二のキャラクターで印象に残ったのは、高校の3年間を無為に過ごすつもりはないと決めていたことでした。部活はやらずに、アルバイトをしたり、勉強に力を入れたり、友だちと遊んだりするという選択もありだと思いますが、3年間、何かに打ち込むことは、高校時代にはやはり、有意義なことなのかなと思いました(あるいは、現代社会が「そういった高校生活を送る高校生」を求めている?)

 一方で、陸上に打ち込むために作られた「部内恋愛禁止」という掟も、面白かったです。谷口若菜は、たぶん、おっとり系で、控え目ですがやさしくて、かわいい子なのだと思います。仙波にぞっこんですが、仙波も谷口を見かけたら、「若菜」と下の名前で呼んで近づいてくる仲のようです。新二にとっては、恋愛面でも、仙波が思わぬライバルとなったわけですが、それ以前に、そもそも恋愛禁止というのが、面白く、新二は、さぞかし、もやもやしているのではと思います。谷口の仙波への片思いと、新二の谷口への片思いがどうなるのかも気になります。

 試合の描写は最高でした。新二の周りには、本当にすごいメンバーが集まっているのですが、陸上素人の新二は、そんなメンバーたちといっしょに走り、速さや、集中力や、試合の運や、積み重ねの大切さなど、ひとつひとつを体で感じていきます。また、「試合になったら、もっと速いよ」という根岸の言葉の意味がわからない新二は、「えっ?」と口にし、経験豊富な根岸が、「試合になると、テンション上がってプラスアルファの力が出るからさ。みんな、そうだよ」と教える場面は、なにか今後起こるであろう、本番におけるあるゾーンを突破した選手やチームにだけ起こりうるミラクルとでもいうものを予感させます。続きが楽しみです。


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