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武士道/新渡戸稲造のあらすじと読書感想文

2013年1月13日 竹内みちまろ

武士道のあらすじ

 「武士道」の概要は以下のとおり。「武士道」(新渡戸稲造/矢内原忠雄)が記されたのは、1899年(明治32年)。外国人に日本のことを理解させたいという願いから、英語で出版された。矢内原忠雄の序文によると、1899年は日清戦争の4年後、日露戦争の5年前で、世界からの日本に対する関心は高かったが、理解は「極めて幼稚なる時代」とのこと。

 新渡戸自身による第一版の序文に、「武士道」執筆のきっかけが記されている。あるとき、日本の学校には宗教教育がないというがそれならどうやって道徳教育を行うのだと問われ、即座に答えられなかったという。新渡戸は、自身の正邪善悪の観念が武士道からきていることを見出し、武士道と武士道を生み出した封建制度を理解しなければ、開国で西洋文明を取り入れ、植民地化の危機と不平等条約解消の願いから富国強兵を進める日本を理解することはできないとの結論に至った。

 「武士道」の中で、ある外国人が、「今日三つの別々の日本が相並んでいる」と分析したエピソードが紹介されている。古き日本は死滅せず、新日本は産声をあげたばかりで、過渡的日本は現在その最も危機的な苦悶にあえいでいるという。新渡戸は、封建制度は崩壊したが、武士道は学校や制度の中で教えられてきたわけではなく、豊かな自然に恵まれた日本人が、家庭や地域社会の中で育み、子どもたちは武士道を叩き込まれているため、武士道はなお過渡的日本の指導原理であり、かつ、新日本の形成力であると結論づけている。封建日本の道徳体系は崩壊し、新道徳が不死鳥のごとく現れると説く人もいるが、「不死鳥はただおのれ自身の灰の中から起きいでるのであって、候鳥でもなく、また他の鳥からの借り物の翼で飛ぶのでもなきことを忘れてはならない」

 「武士道」のあらすじを簡潔にまとめる。武士道は、もともと鎌倉時代の戦闘の掟が、武士階級の道徳的原理の掟として確立し、かつ、民衆への浸透していった。武士道の背景に、国土は祖先の霊が眠る神聖なる棲家であるとする神道の自然崇拝や、運命にまかせるという仏教の感覚が流れていることを明かし、「論語読みの論語知らず」といわれるのと同様、武士道は、知識を目的ではなく、「叡智獲得の手段」ととらえ、武士道はただ実践のみを求め、人々も、知識が行動に現れてはじめて、目を見張ったことなどが解説される。

 その後、個々の概念が章ごとに取り上げられている。「義」は、「義務」であり、例えば親に対する行動の唯一の動機は愛であるべきだが、愛が欠けるとき孝を命ずるための権威として位置付けられ、「詐術が戦術として通用し、虚偽が兵略として通用した時代」にあっても、「正義の道理」として称えられたなど。ほか、「勇」「仁」「惻隠の心」「礼」「誠」「名誉」「忠義」などが続き。そして、武士の教育や訓練、そして、高貴なる義務として課せられる忍耐や我慢、切腹や敵討(かたきうち)の制度などが取り上げられている。

武士道の読書感想文

 「武士道」は何度も読み返しているのですが、今回は、家族に焦点を絞って感想を書いてみたいと思います。

 「武士道」には、日本では、道徳は、宗教教育の中で培われるものではなく、学校で教えられるものでもないと記されています。また、引用されている、バルザックの「社会は家族の連帯を失ったことにより、モンテスキューが『名誉』と名付けし根本的の力を失った」という言葉も印象に残りました。武士道は、家族、一族、地域社会の中で受け継がれるもので、結果、例えば、誰も見ていないからといって万引きをする人が極端に少いという道徳社会を生み出しているのかもしれません。発見されなければ万引きは法律で罰せられませんが、例え誰も見ていなくとも、お天道様が見ているのであり、親が泣き、家族に顔向けができず、先祖の顔に泥を塗ることになります。愛に加え、恥、名誉、義理にも訴えかけ、人間が形成されていくのかもしれないと思いました。

 また、「名誉」と「名声」が、命よりも重いと考えられていたことも印象に残りました。武士は、命よりも高価であると考えられる事が起れば、迅速、かつ平静に、命を捨てたそうです。現代社会は、法律で最高刑が死刑と定められていることもあり、命が最も重いというコンセンサスで構築されていますが、そのコンセンサスの歴史も、たかだか、50年や100年しかなく、それまで何百年、何千年の間、日本人にとっては、命よりも重いものがあったのかもしれません。

 「血を流さずして勝つをもって最上の勝利とす」とあるように、「武士道の究極の理想は結局平和」であり、「戦いの本能の下に、より神聖なる本能が潜んでいる。すなわち愛である」と記されています。ニュースを見れば、痛ましい事件、あさましい事件、恥知らずな事件の報道ばかりですが、現代日本は、武士道とともに、愛が失われているケースが多いのかもしれないと思いました。


→ 国家の品格/藤原正彦のあらすじと読書感想文


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