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映画「舟を編む」松田龍平&宮崎あおいのあらすじと感想(ネタバレ)

竹内みちまろ

 映画「舟を編む」(石井裕也監督/出演:松田龍平・宮崎あおい・オダギリジョー他)を見て来ました。松田龍平さん演じる主人公・馬締の挙動が怪しくて、芸場内で笑いが何度も起きていました。でも、内容は、涙ありのストーリーです。

舟を編むのあらすじ(ネタバレ)

 時代は1995年。場所は、本の街・神田神保町。出版社・玄武書房で営業をしていた馬締光也(まじめ・みつや)は、辞書編集部にスカウトされ、異動になりました。馬締は営業ではまったく役に立ちませんでしたが、下宿している早雲荘の1階を書庫にしてしまうほどの本好きでした。

 早雲荘は坂の途中にある木造のオンボロアパートでしたが、大家のタケおばあさんが2階を使っており、住人は馬締1人のようです。その早雲荘に、板前修業中のタケおばあさんの孫娘の香具矢(かぐや)がやってきました。馬締は、恋に落ちてしまいます。

 馬締が配属になった辞書編集部では、24万語の見出し語を収録する、広辞苑や大辞林と同じ規模の中型辞典「大渡海」の編纂作業をしていました。「マジ」「ダサイ」「うざい」などの若者言葉も収録し、「すごい」という意味で使われる「やばい」の“誤用”なども盛り込みたいと意気込んでいました。馬締は、監修者の松本先生の、言葉の意味を知りたいということは誰かの考えや性格を知りたいということで人とつながりたいということ/言葉は生き物であり「大渡海」は生きた辞書として世に出したい、という言葉に感銘を受けます。

 一方、香具矢への恋に落ちてしまった馬締は、先輩の西岡や、佐々木さんの助言もあり、ラブレターを書きました。しかし、達筆すぎて読めなかった香具矢は、板前修行先の大将に読んでもらいます。香具矢は、どうして読めないよう手紙を書くの/どうせ私は学がないわよ、と怒ります。「手紙じゃなくて、言葉で聞きたい」と詰め寄ります。馬締は「好きです」と告白。香具矢の返事は「私も」でした。

舟を編むの感想

 「舟を編む」は雰囲気が温かい作品でした。辞書編集部に配属された馬締はやる気に満ちていましたが、コミュニケーション能力がなく、不安でした。馬締の不安を見抜いたタケおばあさんが「今夜いっしょにごはん食べない?」と誘います。馬締は、辞書には一生を捧げるつもりでしたが、「でも怖いんです」と打ち明けます。辞書は一人では作ることができず、馬締は、自分の気持ちを人に伝えることができず、誤解もされてばかりで、人の気持ちも分らないといいます。タケおばあさんは、人に気持ちがわからないなんて当たり前だよ、と笑い飛ばし、馬締を励ましました。そんなやりとりが行われるのが、早雲荘の中でした。

 「舟を編む」がなぜ温かいのかを考えたら、この早雲荘の雰囲気が温かいのかもしれないと思いました。

 早雲荘は、それこそオンボロアパートと呼ぶのがふさわしい古さです。柱や壁は年季の入り、黒くつや光りしています。文化財に指定された武家屋敷みたいで、家全体が静か。扉のひとつ向こうには誰かの息遣いが聞こえます。日本家屋に特有の、閉塞感のない空間の深みを感じます。

 印象に残っている場面があります。こんにゃくの味見をするため、夜、香具矢と馬締がベランダに並んで座る場面でした。2階なのですが、目の前にはほかの家の屋根が見え、空には月が出ているかもしれません。ごみごみとした裏側なのですが、都会や、鉄筋の建物にはない、人と人がつながっている雰囲気があります。

 そのベランダで、香具矢は、「明日から、(市場がある)築地に連れて行ってもらえるんだ」と空を見ながら口にします。横で馬締も静かに聞いています。向き合うことより、並んで同じものを見たり、嬉しかったことをひと言口にしたりするほうが、温かい場合もあるんだなと、「舟を編む」は改めて実感させてくれる作品でした。

 ストーリーとしては、企画から15年をへて、「大渡海」が完成します。しかし、監修者の松本先生は完成を見ることなく帰らぬ人となりました。ほか、オダギリジョーさんが演じる、馬締の先輩の西岡もよかったのです。でも、その西岡の恋人役の女性の、やさしくて、気遣いができて、何があっても相手の側に居続けるという雰囲気がよかったです。また、香具矢を演じた宮崎あおいさんの、ちょっとつんとした所や、相手の事をじっと見つめてにんまり笑う所が、小動物みたいでかわいかったです。


→ 舟を編む/三浦しをんあらすじと読書感想文


→ 風が強く吹いている/三浦しをんあらすじと読書感想文


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