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ザ・ラスト・ワルツ―「姫」という酒場/山口洋子あらすじと読書感想文

2004年7月22日 竹内みちまろ

 「ザ・ラスト・ワルツ―「姫」という酒場」は、山口洋子が経営していた銀座のクラブ「姫」の回想録です。山口洋子は、直木賞作家です。19歳でクラブ経営をはじめて、作詞、野球評論、小説など幅広い分野で活躍をしてきた山口洋子が人生を振り返っています。以下、あらすじから。

ザ・ラスト・ワルツ―「姫」という酒場のあらすじ

 「姫」をオープンしたのは1956年とあります。石原慎太郎の「太陽の季節」が世間を騒がせていたようです。オープンしたばかりのころは、店も狭くてホステスも3人というスタートでした。しかし、冒頭に書かれている開店当初の思い出が、一番楽しそうで、山口洋子自身も幸せそうでした。銀座には、まだ落ち着いた雰囲気があったようです。そのころは、男も女もわきまえが利いていて、粋に楽しんでいた様子がうかがえます。しかし、そんな人間たちは、女も男も「よく死んだ」と書かれていました。

 店ではしっかり者を気取っていても、その実、肉親から食い物にされていたり、服毒しながらも帰る見込みのない恋人を待ち続けたような、幸うすく散っていった女たちの物語が語られていました。気丈に振る舞い、粋を演じながらも、内面世界では、激しく身を焦がし、短い命を燃やし尽くした女たちの生きざまは、かげろうのようにはかなくて、それゆえに、ある美学を感じました。日本人が失ってしまった潔さが、まだ残っていた時代のようです。山口洋子が垣間見てきた世界の奥深さが伝わってきました。解説者の野坂昭如は「延べ千人以上の女給を観て来た。まだこの世界について、山口はふっきれていない。文学にするには時を必要とする。だが山口がここを書けば、バルザックの世界」と書いていました。

 東京オリンピックのころから、銀座も変わりはじめたと書かれています。流行に敏感なホステスたちが和服をミニスカートにはき替え、ブランド品を身に付けるようになりました。そのころから、山口洋子は、世の中の変化に不安と恐怖を抱いていたようです。「クラブ」という言葉が使われはじめて、内装の豪華さを競い、ホステスの日給と客の支払いが、誰にも止められない勢いで上がっていった様子が描かれていました。そのころの山口洋子は、作詞や評論から収入を得て、「姫」の現場からは離れていたようです。しかし、「姫」を完全に手放すのはまだ先です。

 「ザ・ラスト・ワルツ―「姫」という酒場」の後半には、銀座で出会った有名人の話や、作詞家、小説家としての成功、また、山口洋子自身の闘病生活が書かれています。しかし、そんな人生のステージにあっても、常に山口洋子の心は「姫」の中にあったようです。

ザ・ラスト・ワルツ―「姫」という酒場の読書感想文

 「ザ・ラスト・ワルツ―「姫」という酒場」は、古き良き時代に銀座に店を構え、何もかもが崩れ去る予感を持ちながらも、取り返しが付かなくなるまで「姫」から身を引けなかった山口洋子の人生の記録だと思いました。

 解説で野坂昭如が、「『うちの女給さん、みんな自殺未遂してるのよ』といったマダム山口の言葉、及び、見るべきものはすでに見つといった、その表情」により銀座の酒場を知ったと書いていました。「ザ・ラスト・ワルツ―「姫」という酒場」は、夜の酒場に「姫」という自分自身の分身を作りだして、それを変わり行く時代の流れの中に沈めさったある女性の物語だと思いました。


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