読書感想文のページ > 満月――キッチン2
2011年8月15日 竹内みちまろ
前作『キッチン』は、幼いころに両親と祖父を亡くした桜井みかげが、祖母を失い脱力している時に、祖母の行きつけの花屋でアルバイトをしていた田辺雄一から、家に来ないかと誘われ、みかげ、雄一、雄一の母親・えり子(本当は父親)の3人で暮らす物語です。『満月――キッチン2』は、えり子が死んだことが語られて始まります。
秋の終わりに、えり子はゲイバーの客につきまとわれた末にナイフで刺されてしまいました。時間がたってから、雄一から電話でえり子の死を知らされたみかげは、雄一の家へ駆けつけます。かつては、みかげは雄一と同じ大学に通っていましたが、秋の初めに学校はやめて、料理研究家のアシスタントとして働き始めました。みかげは、田辺家で半年ほど暮らしたことも語られます。
雄一の部屋に泊まったみかげが電話に出ると、無言でガチャリと切られました。みかげの職場に電話の主の雄一の恋人がおしかけてきますが、みかげは、突き放します。雄一は、みかげに「ずっとここに住みなよ」と告げ、みかげも「住んでもいいけど」とは言います。しかし、雄一は、えり子が死に天涯孤独の身になったことで、混乱し、恐怖しているようでした。
雄一は旅に出て、みかげも3泊4日の取材旅行に出ます。みかげは、雄一がもう帰ってこないかもしれないと思いつつも、追いかけることをしませんでした。しかし、取材旅行先の食堂でカツ丼を食べた時に、雄一にも食べさせたいと思い、タクシーを飛ばして、雄一が泊まる旅館までカツ丼を届けました。
前作『キッチン』が感性の物語だとしたら、続編『満月――キッチン2』は関係の物語だと思いました。
みかげはすでに天涯孤独の身ですが、それでも、社会や、他人をうらむような発想を持っていません。人生は選ぶことができず、「その人はその人を生きるようにできている」という考えを持っています。みかげは、他人にも、社会にも期待はしておらず、家族は、期待をするしない以前にいないという状態を生きています。雄一に対する態度も、「『そうね…私に。』できることがあったら言ってね、と言うのをやめた」という接し方をします。みかげ自身が他人に期待をしていないので、雄一(=他人)にも「できることがあったら言ってね」(=私に期待してね、私を頼ってね)とは言いません。ただ、「こういうとても明るいあったかい場所で、向かい合って熱いおいしいお茶を飲んだ、その記憶の光る印象がわずかでも彼を救うといいと願う」だけです。
印象に残っている場面があります。すでに祖母の死から時間がたっていて、新しい人生を歩み始めたみかげは、雄一よりも冷静になっています。そのみかげが「二人の気持ちは死に囲まれた闇の中で、ゆるやかなカーブをぴったり寄り添ってまわっているところだった」と語る場面がありました。「しかし、ここを越したら別々の道に別れはじめてしまう。今、ここを過ぎてしまえば、二人は今度こそ永遠のフレンドになる」と確信します。
他人に期待をせず、他人に頼らないことを通せば、他者と関係を築くことを回避できますので、ある意味では、楽に生きることができます。でも、人間は1人では生きていけない、やはり、社会的な生き物なのかもしれません。みかげが「雄一さえもしよければ、二人してもっと大変で、もっと明るいところへ行こう」と告げる場面が、心に響きました。
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