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キッチン/吉本ばななのあらすじと読書感想文

2011年8月14日 竹内みちまろ

キッチンのあらすじ

 両親と祖父を幼いころに亡くした桜井みかげは、祖母と2人で暮らしていましたが、その祖母も死んでしまいました。葬儀が済んだ後、3日は脱力していましたが、あとの生活を考え1人で住むには広すぎる部屋から引っ越しを考えます。しかし、部屋探しや引っ越しの手間を考えて絶望し、ごろごろして過ごしていました。

 そんな折、1歳年下で同じ大学に通う田辺雄一がみかげを訪れ、しばらく雄一の家にこないか、と誘いました。みかげは雄一にほとんど覚えはなかったのですが、雄一は祖母の行きつけの花屋でアルバイトをしていました。

 マンションの10階にある田辺家で暮らすことになったみかげ。なぜ私を呼んだんでしたっけ? の問いかけに「困ってると思って。」と答える雄一のしぐさや雰囲気が心にしみます。みかげ、雄一、男ですが女として生きている雄一の母親・えり子(本名は雄司らしい)という3人暮らしが始まります。しかし、暮らしといっても何かが始まるわけではなく、居候のみかげは、だらだらしながら、田辺家の台所やソファーを愛し、眠りをむさぼり、掃除など「主婦のような生活」をします。

 同じ大学に通う元恋人の宗太郎から電話があり、みかげは会いに行きました。みかげが田辺家で暮らしていることや、田辺が学食で恋人からひっぱたかれたことが学校中のうさわになっていると知ります。しかし、雄一やえり子の純粋さや、やさしさに触れながら、みかげは雄一が買ってきたワープロで引っ越しあいさつの葉書を作ったりします。いっぽうでは、いつか、この場所を出なければと感じました。

 みかげは、大家さんの好意でそのままにしっぱなしであった元の住み慣れた部屋を片付けました。雄一と夜中にジュースをしぼったり、えり子から「女になるのも大変よね。」とグチを聞いたりします。みかげは、いつかここから出なくてはならない、でも、今は、雄一と、えり子と同じ場所にいることがすべてだと感じました。

キッチンの読書感想文

 『キッチン』は学生のころに読み、映画も見ました。とても好きな作品です。読み返してみて、改めて好きになりました。『キッチン』は時間や、時の流れを見つめる感性を描いた作品だと思いました。

 祖母が死んで「びっくりした」様子や、その後の脱力状態から始まる『キッチン』ですが、雄一や、えり子や、宗太郎からの働きかけでその後のストーリーは構築されています。田辺家で暮らし始めてから、天涯孤独を感じたり、「少しずつ、心に光や風が入ってくる」ことを感じたりします。

 印象に残っている場面があります。みかげが、いつか田辺家を出なければと感じる場面です。雄一は買ってきたワープロで、みかげの引っ越し葉書を作ろうと張り切っています。転居葉書の作成を断ろうとして雄一とやりとりをしているうちに、みかげは、ふと、雄一が悲しんでいることを知りました。みかげは雄一に恋をしていないので、かえって、雄一の心に触れることができました。同時に、葉書を作りながら、いつか、ここを出なければと感じました。

 『キッチン』は、感性を描いた作品だと思いました。しかし、『キッチン』に描かれた感性は、理性や理屈では説明のできない説得力を持っていると思いました。人生は旅、なのかどうかはわかりませんが、時間は必ず過ぎていきます。過去は変えることができず、人間には今を生きることしかできません。そして、未来はいつでも未知数です。未知数なのですが、その未来を見つめる「まなざし」を持っているからこそ、みかげは、雄一とえり子と3人で暮らす今という時間をいとおしく感じることができたのかもしれないと思いました。


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