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23分間の奇跡/ジェームズ・クラベルのあらすじと読書感想文

2013年7月23日 竹内みちまろ

23分間の奇跡のあらすじ

 『23分間の奇跡』(ジェームズ・クラベル/青島幸男訳)は、「先生はこわくてふるえていた」という一文から始まります。時間は9時2分前。父親から、「あいつらに降参した以上、もうこわいことなんか、なにもないんだ。心配するなジョニー。おまえが、あんまり心配すると、かえって殺されてしまうかもしれないぞ」と聞かされていたジョニーだけは、教室の中で一人だけ、先生が入ってくる入り口を、「負けるものか」と思ってにらみつけています。訳者あとがきから言葉を借りれば、「その状況設定からいえば、アルフォンス・ドーデの名短編≪最後の授業≫の続編に当たり、いわば≪最初の授業≫ともいうべき作品である」。

 白髪頭になるまで独身で教育に身を捧げてきた厳格な女性教師ワーデンは、その日からクラスの担任になった19歳の女性教師から校長室へ行くよう言われ、万感の思いを込めて「みなさん、さようなら」と告げ、教室を出て行きました。「新しい先生」は、「いまからなにをしようかしら……そうだ、ゲームをしましょう」などと告げますが、ジョニーは、「まず、こっきにちゅうせいをちかい、それから、歌をうたうんだ」と朝の教室でやることを「新しい先生」に教えます。みんなで立ち上がって、国旗に忠誠を誓うことになりましたが、「新しい先生」は、「ちかう……ってなんのこと?」「それじゃ、ちゅうせい……ってなんのこと?」と胸に手を当てたまま、子どもたちに聞きました。

 「新しい先生」と子どもたちのやりとりが始まります。「新しい先生」は、「そうだわ、“神さま”っていうかわりに、“わたしたちの指導者”っていってみましょう」などと提案します。ジョニーは、「先生のいうことをよくきいて、いっしょうけんめいべんきょうするぞ。そして、とうさんのように、まちがった考えかたをしないようになるんだ」と決心します。「新しい先生」が腕時計を確認すると、9時23分でした。

23分間の奇跡の読書感想文(ネタバレ)

 『23分間の奇跡』を読み終えて、「教育」というものは、「麻薬」なのかもしれないと思いました。名前のない「新しい先生」は、前もって想定していた通りに“授業”を進め、それが成功を収めるのですが、自分の「教育」、というか「洗脳」に手応えを感じ、興奮します。しかし、「新しい先生」には、思想や信念はなく、自分自身の考えや、その土壌と成る感受性や、良心や、人間性が感じられません。機械ロボット、あるいは、マシーンのようでもありましたが、機械よりも恐ろしいのは、『最初の授業』を成功に導くために、「新しい先生」は生徒全員の席と名前を覚え、子どもたちを、あらかじめ用意しておいた「正解」に導くために、どんでん返しも差し挟んだ周到なストーリーを考え出していたことでした。なぜそんなことをするのかは、おそらくは、それが「仕事」、あるいは「教育」者としての「ミッション」だからだと思いますが、「新しい先生」も、子どもたちと同様に、あらかじめ用意された「正解」によって洗脳されているように感じました。しかも、機械ではなくて、人間なので、「仕事」をやり遂げるための準備をし、工夫もするというエネルギーを注ぎます。

 「新しい先生」の物語は描かれていませんので、そういったエネルギーがどこから生まれてくるのかは、わかりません。ただ、そのようなエネルギーは社会というものに影響を及ぼし、ときに潮流を築くのかもしれないと思います。そして、現代は、ブラック企業という言葉も話題になっていますが、特に人を導く「教育」というものが持つ「麻薬」にしびれ、一人でも多くの人間を「正解」へ導こうとする。名前のない人間たちのエネルギーは、現在社会にも満ちあふれているのかもしれないと思いました。


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