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張込み/松本清張のあらすじと読書感想文

2012年9月14日 竹内みちまろ

張込み/松本清張のあらすじ

 1か月ほど前、金銭を強奪する目的で、東京の目黒で殺人事件が発生。逮捕された28歳の山田はいったんは単独犯行を主張しましたが、2日後に共犯がいることを告げます。山口県から東京に出てきて、日雇いをしたり、血液を売ったりしていた石井久一という男で、山田と石井は、飯場で知り合いました。石井は、故郷に帰りたいとよくつぶやき、また、さだ子という九州にいる昔の女の夢をよく見ると山田に話していたといいます。下岡刑事は山口県にある石井の実家へ、油木刑事は、さだ子がいる九州の田舎町へ行きました。

 油木は、さだ子の家の斜め前にある旅館の2階に泊まり、張り込みを始めました。28歳のさだ子は、48歳の地元相互銀行に勤める夫と、後妻として結婚。6つほどの末っ子の男の子にまとわりつかれたり、15、6歳の長男と、12、3歳の長女のごはんをつくったりしています。夫は、朝の8時20分ちょうどに家を出て、夕方6時前に帰るというきまった生活を繰り返します。夫はケチで、毎日決まった金額の金をさだ子に渡し、結婚当初は米びつに鍵を掛けて計っていたほどですが、張り込みや、聞き込みを進めると、さだ子は特に不満をいうわけでもなく、継子にもなつかれているそうです。平穏な日々が流れていました。しかし、さだ子はどこか疲れた顔をしていました。

 5日目、さだ子の夫が銀行へ行き、子どもたちが学校へ行ったあと、洋服を着て手鞄を提げた男が近所を一軒、一軒、訪問して歩いていました。油木は物売りだろうと見過ごしましたが、外出するさだ子が割烹着の下にいつもと違ったスカートやセーターを着ていることに気がついて、洋服の男が石井だったと確信します。

 油木は尾行を始めてすぐ、三叉路でさだ子を見失いました。汽車の駅や、バス停で聞き込みをして、石井とさだ子のあとを追います。石井とさだ子は、バスの終点からいくつか手前の停車場で降り、雑木林を越え、用水路のところを歩き、池の堤の上に座っていました。紅葉が見事です。さだ子は、石井のひざの上に身を投げ出し、石井の首を両手で抱いていました。油木が5日間張り込んでいたさだ子の姿はそこにはなく、「別な生命を吹き込まれたように、踊りだすように生き生きとしていた。炎がめらめらと見えるようだった」さだ子がいました。

 油木は、地元警察に応援を頼み、石井とさだ子が入っていった旅館に踏み込み、石井を逮捕しました。ぼうぜんとするさだ子には、今ならまだ、夫が帰ってくる前に家に戻れると言い残しました。

張込み/松本清張の読書感想文

 張込みは掌編でしたが、面白くて、一気に読んでしまいました。余計なことは書かずに、それこそ、贅肉のいっさいない骨だけのような淡々とした文章でストーリーを進めていたことも印象的でした。

 さだ子と石井の関係は、かつて恋人だったというだけで何も語られません。また、どうしてさだ子が20歳も歳の離れた子持ちの男の後妻と成ったのかも語られません。油木が石井がさだ子に会いに行くと思った理由も、そんなふうに思った油木の中にどんなドラマがあるのかも語られません。犯人逮捕の過程が淡々と語られ、油木がさだ子の中に炎を見たことと、そんなさだ子へ、油木が今ならまだ間に合うと告げたことだけが記されます。

 小説、あるいは物語というものは、本当に必要なことだけを語ればよくて、作品の魅力というものは、語る言葉ではなくて、語られる物語のほうに内包されるのかもしれないと思いました。ストーリー、キャラクター、テーマがしっかりしていれば、描写というものは、(極端な話ですが)なくても作品は成立するのかもしれません。『張込み』を読み終えて、そんなことを思いました。


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