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2011年2月10日 竹内みちまろ
『芋粥』は、王朝物と呼ばれる、古典に題材を取った作品の一つ。平安時代が舞台です。
「五位」と官位で呼ばれる主人公は、さえない風体と、取り柄のない性格で誰からも相手にされていません。そんな五位が、あるときふと、当時ごちそうだった芋粥を飽きるほど食べてみたいともらしました。それを聞きつけた貴人が、おもしろ半分に、飽きるほどごちそうしようと申し出ました。はじめこそ慎重になっていた五位は、食欲から、貴人の誘いに乗ることにしました。京の都から、越前の国・敦賀まで出向き、ようやくにして、芋粥にありつけることになりました。しかし、五位の中には、馬鹿にされ、後ろ指を差されながらも、孤独に、芋粥を飽きるほど食べてみたいという欲望を「唯一人大事に守っていた、幸福な」自分が浮かんできました。
『芋粥』は、人間の心理を切り取った掌編だと思いました。
手の届かない時は羨望していたものが、いざ手の届く場所にきてしまうと、とたんに興味が薄れてしまう…、羨望していたころの自分に心地よさを感じてしまう…、人間は欲しいから「欲しい」と思うのではなく、欲しいと願う自分に心地よさを感じ安心したいがために「欲しい」と願うのだ…など、人により感じることはそれぞれだと思います。五位が、哀れをさそう孤独で、さみしい人物であるだけに、『芋粥』には独特の味わいがあります。
『芋粥』を読んで、人間心理をさめた目で切り取った短編の魅力というものを感じました。なんの取り柄もない人間が、ある出来事に巻き込まれて、一人孤独に自分の中だけで空想の楽しみにふけることに幸福を感じる姿は白眉でした。
しかし、同時に、そんな人間心理を見つめたうえで、そのうえで、芥川が、小説の力を通して、何をどうしたいのかという、心理ではなくて、人間存在そのものを見つめる、芥川の願いのようなものが反映されたストーリー物の長編小説を読んでみたいと思いました。
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