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贖罪/湊かなえのあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2019年7月17日

贖罪/湊かなえのあらすじ(ネタバレ)

 15年前、ある田舎町で小学4年生のエミリという女の子が殺害された。エミリは都会から田舎町に引っ越してきた転校生で、手足が長い美少女。家も裕福であり、田舎に住んでいた女の子たちの羨望の的であった。エミリ自身は田舎の生活に期待や憧れを持ち、そこで同じ年の紗英、真紀、晶子、由佳と仲良くなり、5人はよく一緒に遊ぶようになった。

 事件は夏休みに起こった。5人が学校の校庭でバレーボールをしていると、急に知らない男が、「プールの更衣室の換気扇の点検を手伝ってほしい」と声をかけてきた。男はエミリを指名し、更衣室に連れて行った。なかなか帰ってこないエミリを心配し、4人が様子を見に行くと、更衣室でエミリの死体を発見した。エミリの死体には性的暴力を受けた様子もあった。

 その光景を見て、紗英はエミリの死体を見張り、真紀は先生を呼びに行き、晶子はエミリの母親である麻子を呼びに行き、由佳は警察に知らせに、それぞれ行動した。しかし、後日事情聴取で警察から犯人について聞かれた4人は、4人ともなぜか犯人の顔を思い出すことができなかった。

 目撃者が4人もいたのに、犯人は捕まることがなく、エミリの母親・麻子はその怒りを4人の子供たちに向けた。4人の少女に向かって「あなたたちを絶対に許さない。必ず犯人を見つけなさい。それができないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい」と告げた。

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 15年後、4人はそれぞれ、事件に対して十字架を背負って生きていた。

 紗英は、貴博という男性と結婚し、結婚式には麻子も招待していた。紗英は、お礼の手紙を麻子に出し、その手紙の中で、事件の真相と自身の心情を綴った。

 事件当日、小柄でおとなしい性格の紗英は、エミリの死体を見張るよう真紀に言われて、1人で死体を見張っていた。犯人がいつ帰ってくるかもわからない恐怖は紗英の中に残り続け、事件から時間が経っても、犯人にいつか自分も殺されるのではないかと思っていた。また事件が原因で、紗英は大人になっても初潮を迎えていなかった。エミリの事件当時、5人の中でエミリだけ初潮を迎えており、紗英には大人になったら殺されてしまうという思いがあった。

 紗英は結婚相手の貴博とはお見合いで出会った。初夜の時、貴博は突然紗英にフランス人形が着ているようなドレスを着るように言った。実は貴博は紗英と同郷であった。貴博は紗英の家に置いてあったフランス人形と、そのフランス人形に似ていた紗英に一目ぼれをした。そして、紗英に近づき結婚までこぎつけた。そこから、貴博は紗英を人形のように扱うようになった。ある日、紗英はついに初潮を迎えた。そのことを知った貴博から無理やり体を求められ、紗英は気づいたら貴博を殺していた。

 手紙の最後には、エミリ殺害の犯人について、思い出したこととして当時はおじさんだと言っていたが、30代半ばくらいの男性であったと書き記されていた。

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 真紀は、小学校の先生になっていた。真紀は、プールの授業中に知らない男がナイフを持って侵入してきた際、生徒を守るために男に立ち向かい、誤って殺してしまった。最初は回りから称賛されていたが、いつしか殺人犯と呼ばれるようになってしまった。

 保護者に対して事情を説明するために、PTA総会の場で話していた。そのPTA総会には麻子も呼ばれていた。真紀は、なぜ自分が犯人を殺してしまうまでに至ったのかを話した。真紀の話は15年前の事件までさかのぼった。15年前、エミリが田舎町に来るまで、真紀は背も高く友達の中でしっかり者として頼られ、常に輪の中心にいた。

 エミリの死体を見つけた時も、友達それぞれに指示を出したのは真紀であった。真紀は先生を呼びに行ったが、先生が見つからず、その後、怖くなって家に帰ってしまった。自分よりも頼りないと思っていた友達3人は、恐怖の中でも役目を果たしていた。事件に対して何もできなかった罪悪感を抱えていた真紀は、今回不審者が現れた時に、必死で行動することになったのだった。結果として、人を殺めてしまった。

 そして、総会の最後には、エミリ殺害の犯人について、思い出したこととして、フリースクールを経営している南条弘章という男によく似ていたと話した。

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 晶子は、エミリが殺されてから家に引きこもり、精神的に異常をきたしていた。まともに会話もできない晶子に対して、麻子はカウンセラーと偽り、晶子のこれまでの話を聞く。

 晶子は元々おとなしい性格で可愛らしいものが好きで、エミリが転校してきた時に、可愛らしいエミリと仲良くなりたいと思い、友達になった。

 エミリの死体を見つけた時、晶子は足が速いという理由でエミリの家まで走って、母親の麻子を呼びに行った。うろたえて激昂する麻子は晶子を突き飛ばして額に傷を負わせた。幼少期より、身の丈以上のものを求めると不幸になると祖父に教えられて育っていた晶子は、自分がエミリのような可愛い子と仲良くなろうなんて高望みしたことが全ての原因であると思い込むようになる。

 事件以後、麻子から償うように言われ、自分が普通の生活をすることを申し訳なく思い、引きこもるようになった。晶子には小さい頃から仲の良い優しい兄がおり、兄は15年引きこもっている晶子にも優しくしてくれていた。兄は春花という子持ちの女性と結婚し、連れ子である若葉という娘もできた。晶子は兄の結婚を喜び、春花とも若葉とも仲良くしていたが、ある日、晶子は若葉の忘れ物を届けに兄の家へ行った時に、兄が若葉を強姦しているのを見る。晶子はエミリの事件を思い出して若葉を助けようと、気づけば兄を殺してしまっていた。実は春花と兄の間に愛情はなく、春花は娘を差し出す代わりに生活を援助してもらっていたのだった。晶子はまた、自分が幸せな生活を望んだから悲劇が起きたと思い込み、精神を病んでしまう。

 最後に、エミリ殺害の犯人について、思い出したこととして、当時関西に住んでいるはずのフリースクール経営者の南条を、町で見たことがあると話した。

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 由佳は、姉の夫と不倫して、その夫の子どもを妊娠をしていた。出産間近で病院にいるところに麻子が訪れ、由佳は当時について語る。事件当時、エミリの死体を見つけた後、由佳は警官を呼びに行った。事件の恐怖の中、警官に優しくしてもらったことから警官を好きになった。由佳には体の弱い姉がいて、両親からの愛情を姉に奪われていることをコンプレックスに感じていた。

 エミリの事件の時に、4人の中で自分だけ親が迎えに来てくれなかったこともあり、由佳は家にいるよりも警官の元を訪れるようになる。警官に会いにいく口実で自分のお小遣いを落し物だと言い交番に預け、そのせいで必要な文房具などを万引きするようになる。姉を通して親にばれ、好きだった警官も異動してしまい、そこから由佳は非行に走った。

 それから15年後、姉は警官と結婚した。由佳は姉の夫を見て、好きだった警官を思い出し、姉の夫を誘惑して妊娠した。そんな時、ニュースで聞き覚えのある声が聞こえ、それがエミリの事件の犯人の声だと思い出す。声の持ち主はフリースクールを経営していている人物であった。それを姉の夫に伝えようと呼び出したが、お腹の子どもについての話だと勘違いした夫は、姉にばらされたくないと思い由佳のことを襲う。抵抗しているうちに、由佳は姉の夫を階段から突き落としてしまう。警察が来るが、そのうちに由佳は産気づき、病院に運ばれてきたところであった。麻子と話しているうちに、姉から連絡が入り、姉の夫が死んでしまったということがわかる。これで4人全員が人を殺めてしまった。

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 4人が罪を犯したことと、幼い女の子に酷い十字架を背負わせて彼女たちの人生を狂わせてしまったことに責任を感じる麻子は、自分の罪を償うにはどうすれば良いのか考えていた。

 麻子は麻子がこの町にくる前のできごと、大学生の頃を思い出していた。麻子には大学2年生の時、秋恵という友人がいた。

 麻子は秋恵の友人からの繋がりで、南条弘章という男性に出会い恋に落ちて付き合うことになる。麻子は南条と結婚の約束までして、結婚指輪ももらっていた。しかし、結婚直前に、実は南条に過去に付き合っていた女性への気持ちがまだ残っていることを知る。しかし、そのことを知った時には、麻子は既にその南条との子どもを妊娠していた。

 その子どもはエミリである。悩んだ麻子は、その時、連絡をほとんど取り合っておらず、2人の交際も知らなった秋恵に相談する。しかし、南条の相手は実は秋恵であった。秋恵は南条と麻子の間に子どもがおり、2人が結婚するということを知り、南条への遺書を残して自殺をしてしまった。また、当時教師であった南条も、麻子の発言をきっかけに飲酒運転を犯したことで懲戒免職の処分を受けた。急な不運が麻子を襲い、麻子は秋恵の手紙と南条からの指輪を持ったまま、逃げるように南条の元から去り、今の夫と結婚した。

 ***

 時は流れて、南条は事件当時、フリースクールを作るために、偶然、麻子の住む田舎町に来ていた。そこで空き家であった別荘を見ていると、麻子に渡したはずの指輪と秋恵の遺書を見つける。実は、麻子の部屋で指輪と遺書を見つけたエミリがこっそり隠していたのであった。手紙を見た南条は、麻子に復讐しようと決意し、麻子の宝物であるエミリを殺したのだった。南条は、麻子の子どもが自分の子だとは知らなかった。実の子だとは知らずにエミリを殺したのだった。

 麻子は子供である紗英ら4人に罪を償えと言ったが、時間が経ち、そのことを後悔する。麻子は紗英の結婚相手であった貴博と知り合いで、紗英と貴博の結婚式に出席した際に「あの事件の事は忘れてほしい」と言った。しかし、紗英は結婚式後、貴博を殺してしまい、麻子にこれまでのことを手紙で伝えた。

 麻子は手紙を読んで、紗英が殺人を犯したのは自分の発言のせいだと思い、他の3人のことも心配になる。どうか、みんな幸せでいて欲しいと願いながら、会いに行くが、3人それぞれも、あの事件をきっかけに別の形で事件を起こしていた。

 麻子は、自分が事件を終わらせなければならないと思い、南条に会いに行った。そして、南条が殺したのは自分の娘だと伝えに行った。そうして、麻子自身の償いを全て終わらせたのであった。

贖罪/湊かなえの読書感想文(ネタバレ)

 この作品は15年前、小学生だった4人の少女が、東京から来たエミリちゃんという同級生が殺されるという辛いできごとを体験し、そして、被害者の母親に呪いのような言葉をかけられ、そのせいで次々と悲劇の連鎖が起こっていく、という物語です。読了後は非常に後味が悪く、まさしく「イヤミス」と言える、湊かなえさんの真骨頂と言える作品だなという感じがしました。

 15年後の4名の女性たちによる、独白形式でストーリーが進んでいきます。幼少期より、女性4名の性格などが明確で、登場人物が想像しやすいのも、作品の魅力だなと感じます。4名の女性それぞれが、過去の事件を思い出しながら、事件後に彼女たちがどんな人生を送ってきたのか、事件によってどのように歯車が狂っていったのか、そして時が流れて、現在起きた不幸な事件との結びつきまで、読んでいて身の毛がよだつ感覚を持ちつつ、一気に読んでしまいます。最終的に、それぞれの人物の話が、どんどん繋がっていき、最後には、彼女たちに呪いをかけた、エミリの母親である麻子の独白で全ての伏線が回収されます。伏線の散りばめ方、回収の仕方は見事で、読者を飽きさせないですが、救いようのない結末に、なんとも言えない胸の痛みを感じました。

 事件に巻き込まれた少女たちが犯人の顔を思い出せないからと言って、いくら被害者遺族でも、心ない言葉をかけて良いわけありません。麻子は少女たちに「罪を償え」と、大きな呪いをかけましたが、彼女たちが犯した罪はなんだったのだろうと思います。悪いのは、憎むべきは、娘を殺した犯人です。それは、誰が見ても明白だと思います。しかし、救いようのない絶望を感じた時、人間は盲目的に、周囲の人を傷つけてしまうことがあるのかもしれません。そして、感情的に自分が放った一言が、誰かの人生を壊していく恐れがあるのかもしれません。読んでいて、人間の弱さや脆さ、恐ろしさを感じ、自分の発言や言動も考え直していかないと…と思いました。(まる)


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