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竹取物語のあらすじと読書感想文

2018年7月16日 21時30分 竹内みちまろ

 「竹取物語(全)」(角川書店=編集/武田友宏・前田恵美/角川ソフィア文庫)からあらすじと読書感想文をまとめました。

なよ竹のかぐや姫

 「竹取の翁」は、讃岐造(さぬきのみやつこ)という名を持っていたが、野山に入って竹を取っては色々なことに使っていた。光る竹を見つけ、中をのぞくと、背丈が10センチほどの可愛らしい女の子が座っていた。家に連れて帰り、妻のばあさんと、竹の籠の中に入れて育てた。

 その女の子を見つけた後、竹取の翁は、竹の中に黄金を見つけるようになり、大金持ちになった。女の子はすくすくと背が伸び、3か月ほどで美しい娘に育った。髪上げをして成人式にあたる裳着(もぎ)を行った。

 竹取の翁は黄金を見つけることが長く続き、今や大富豪。女の子も十分な娘に育ったので、三室戸斎部(みむろといむべ)の秋田という名士に名づけ親になってもらい、「なよ竹のかぐや姫」と命名された。祝いを3日間続けて行い、年ごろの男ならだれでも歓迎し、盛大に祝宴を繰り広げた。

5人の求婚者

 世の中の男たちは身分の上下を問わず、かぐや姫を自分のものにしたいと悶えたが、恋愛巧者と言われる5人の貴公子が、竹取の翁に、かぐや姫と結婚したいと頼んだ。

【5人の貴公子】
・石作の皇子(いしつくり)
・庫持の皇子(くらもち)
・右大臣阿部御主人(みうし)
・大納言大伴御行(みゆき)
・中納言石上麻呂足(まろたり)

 自分が異界の者とも知らずに竹取の翁を実の親と思っていたかぐや姫は、竹取の翁から結婚するようにさとされ、「どうして結婚なんてするのですか」と疑問を投げつけるも、なおも竹取の翁からさとされる。かぐや姫は、相手の愛情を確かめたうえでないと結婚できないといい、5人の中で自分が望むものを見せてくれた人をより深い愛情の持ち主と判断し、その人の妻になると告げた。

 日が暮れるといつものように集まってきた5人の貴公子に、かぐや姫は、竹取の翁を通して、希望の品を告げた。

【かぐや姫が要求したもの】
・仏の御石の鉢:石作の皇子
・蓬莱山にある、白銀を根とし黄金を茎とし白い玉を実とする木を一枝:庫持の皇子
・唐土にいる火鼠の皮衣:右大臣阿部御主人
・竜の首にある5色に光る珠:大納言大伴御行
・燕(くらつばめ)が持っている子安貝:中納言石上麻呂足

石作の皇子「インドの鉢」

 石作の皇子は、インドにひとつしかない鉢が手に入るわけがないと見透かしていたが、かぐや姫にはインドに出発しますと告げた。3年ほどして、石作の皇子は、にぜものの鉢をかぐや姫の家に持参した。かぐや姫に、にせものだと見抜かれ、石作の皇子は求婚を諦めた。

庫持の皇子「蓬莱山にある玉の枝」

 庫持の皇子は、朝廷に休暇を願い出て、かぐや姫には「玉の枝を取りに行ってきます」と伝え、難波の港から出向し、3日後にひそかに難波の港に戻った。人が容易に近づけない場所に隠れ家を建て、自身もそこにこもり、16か所の領地の蔵を開けて資金を集め、玉の枝を作らせた。

 玉の枝が完成すると難波の港に密かに運び込み、自宅にも船で帰り着いたと連絡。旅装をして竹取の翁の家に出向き、玉の枝を渡した。かぐや姫は、親の勧める結婚を一方的に拒むのは気の毒に思って難題を出して諦めてくれることを期待したのに、と悔しさをにじませた。

 庫持の皇子は、蓬莱山までたどり着いたという作り話を披露し、結婚を迫ったが、そこに6人の技術者が、玉の枝の製作費をまだもらっていないと、竹取の翁の家に代金を請求に来た。庫持の皇子との結婚を思って落ち込んでいたかぐや姫は、一転、笑顔になり、竹取の翁に、玉の枝を突き返した。

 かぐや姫は、6人の技官たちにたくさんの褒美を持たせて帰らせたが、技官たちは帰り道に待ち伏せをしていた庫持の皇子に血が出るまでたたきのめされ、褒美も取り上げられてしまった。

 庫持の皇子は、恥ずかしさのあまり、家来の前から姿を消してしまった。

右大臣阿部御主人「唐土にいる火鼠の皮衣」

 阿部御主人(みうし)は、かぐや姫から難題を出された年に日本に中国船で渡航してきた王慶という人に手紙を書き、信頼できる部下の小野房守を中国に送り、手紙と資金を王慶に渡した。王慶は、火鼠の皮衣は中国にはないがインドにあるかもしれないので人づてに探してみる旨を答えた。

 やがて房守が帰国した。王慶の手紙には火鼠の皮衣をやっとのことで手に入れたが資金が足りなく立て替えてあるので、追加で50両送ってほしいと記されていた。阿部御主人は、感激のあまり中国の方向へ向かって拝み伏した。

 阿部御主人は、竹取の翁の家に火鼠の皮衣を持参して、かぐや姫に結婚を迫った。かぐや姫は、火鼠の皮衣を火で焼いてみて焼けなければ本物だと納得して結婚しましょう、と告げる。

 阿部御主人も望むところと納得し、火鼠の皮衣を火にくべてみたところ、焼け落ちてしまった。阿部御主人は真っ青な顔になり、かぐや姫は「まあ嬉しい」と大喜びした。

大納言大伴御行「竜の首にある5色に光る珠」

 大納言・大伴御行(みゆき)は、渋る部下たちを怒鳴りつけ、食料とある限りの資金を与えて、竜の首にある5色に光る珠を見つけるまでは帰ってくるなと怒鳴りつけ、捜索隊を送り出した。しかし、部下たちは、やっていられないとばかりに大伴御行の悪口をいい、食料と資金は分配したが、捜索はしなかった。

 大伴御行はかぐや姫が住むのに普通の家では見苦しいと、華麗な屋敷を建て、かぐや姫と結婚するからと妻たちと離れて、独りで暮らし始めた。

 部下たちからは年を越しても連絡がない。しびれを切らした大伴御行は、2人だけ配下の者を従えて難波の港に行き、竜を殺して首の珠を取った話を聞かないかと尋ねるも、ある船長から、そんなことをする船はありませんよ、と言われてしまう。

 大伴御行は、ぐずな家来を待ってはいられないと、自分で船を借りきって、竜を求めてあちこちの海にこぎ出し、はるか遠くの九州の方の海にまで出てしまった。そこで、暴風が吹き、辺りが真っ暗になり、船が荒波にもまれ始めた。うろたえた船長から竜を殺そうとするからこうなるのだと詰め寄られた大伴御行は、竜を殺そうなどという気を起こしたが今後は竜の毛一本にも触れないと神に祈った。雷鳴は収まり、船は風に吹かれて明石の浜にたどり着いた。大伴御行の腹はパンパンにふくれ、両目はすももを2つつけたように腫れ上がっていた。

 大伴御行は輿にかつがれてようやく都の屋敷に運び込まれた。どこで聞きつけたのか戻ってきた部下たちに、竜を殺そうとしてひどい目に遭ったことを告げ、部下たちに、竜を殺さなくてよかった、あのかぐや姫とかいう大悪人が自分を殺そうとしたのだ、とかぐや姫をののしり、部下たちに屋敷に残っていた財産を与えた。その様子を聞いた元の妻は、腹を抱えて大笑いした。

中納言石上麻呂足「燕(くらつばめ)が持っている子安貝」

 中納言の石上麻呂足(まろたり)は、燕が子を産むときに子安貝を腹に抱えるという話を聞き、大炊寮(おおひづかさ/食料を管理する省庁)の炊飯用に建物に家来20人を派遣して足場を組み、棟の柱に巣を作る燕を監視させた。大炊寮の役人の助言で、燕の警戒を解くために20人は退去させて、1人だけを目の荒い籠に入れて燕が子を産もうというときに綱で籠ごと引き上げて子安貝を取る方法に切り替えた。

 家来が燕の巣に手を入れて探っても子安貝はみつからず、石上麻呂足は自分で籠の中に入り綱で引き上げられて巣を探った。石上麻呂足が何かをつかんで「下ろせ」と命じ、慌てた家来が綱を引いたが綱が切れて石上麻呂足は落下。家来たちに介抱され石上麻呂足は意識を取り戻していったが、腰が抜けてしまい、手に握っていたものは、燕の古い糞だった。

 石上麻呂足は腰の骨が折れてしまい衰弱。かぐや姫は、子安貝が取れず待つ“かい”もないといううわさを聞きましたが本当ですか? という歌を送り、石上麻呂足は返歌を書き終えて息絶えた。かぐや姫は、すこし可哀そうに思った。

帝(天皇)の求愛

 かぐや姫の美貌と男たちを破滅に導ているという噂が帝(みかど)の耳に入った。帝からかぐや姫に会って確かめてくるようにと命じられた使者が竹取の翁の家を訪れたが、かぐや姫は使者に会おうとせず、「国王の命令に背いているというのなら、すぐに私を殺しなさい」と面会謝絶を貫いた。

 帝は竹取の翁を宮中に呼び出し、かぐや姫を差し出すように命じ、そうすれば竹取の翁に五位の位を授けるとも告げた。竹取の翁はかぐや姫の説得を試みるも、かぐや姫は応じない。

 帝は、狩りに出かけたふうを装って不意打ちで竹取の翁の家を訪れかぐや姫の姿を見てやろうという策を竹取の翁に打ち明け、実行に移した。

 帝は竹取の翁の家に入り込み、かぐや姫の袖をつかんで「放しはしないぞ」と告げた。かぐや姫は、私はこの国の生まれではないので私を連れ去ることは難しいです、などと帝に告げ、姿を光に変えてしまった。かぐや姫がただの女人ではないことを理解した帝は、連れて帰るのは諦めるので元の姿に戻ってくれ、その姿を見てから帰る、と告げると、かぐや姫は元の美しい女の姿に戻った。

 帝はしぶしぶ宮中に戻ったものの、かぐや姫を諦められず、妃たちのもとにも通わなくなり、かぐや姫に四季折々の木々や草花をつけて歌を詠み、手紙を送り続けた。帝の求愛をはねつけたかぐや姫も、帝のまごころに応えて、手紙のやり取りをした。

かぐや姫の出生の秘密

 かぐや姫と帝が手紙で心を通わすうちに3年の歳月が流れた。その年の初春から、かぐや姫は月を眺めては普段にも増して物思いにふけるようになった。7月の十五夜、かぐや姫は縁側に出て月を眺めながら物思いに浸った。竹取の翁が理由を聞いてもかぐや姫は明かさなかった。

 8月の十五夜に近いある夜、かぐや姫は人目もはばからず激しく泣きじゃくった。竹取の翁とばあさんがうろたえながら尋ねると、かぐや姫は思いもよらぬ以下のような秘密を打ち明けた。

・自分が月の都の者であること
・月の国での約束に従って人間界にやってきたこと
・帰らなければならない時が来たので、今月の十五夜に元いた国から迎えの人々がやってくること
・育ててくれたおじいさんと、おばあさんがどんなに嘆くだろうと思うと悲しくて、春以来ずっと思い悩んできたこと

 竹取の翁が、かぐや姫は自分が見つけて育て上げたのだから連れて帰るなど許さない、と泣き騒ぐと、かぐや姫はさらに以下の告白をした。

・自分には月の都に両親がいるが、両親の記憶はないこと
・ほんの短い期間と言われていたものがこんなにも長い時間を地上界で過ごしてしまったこと
・地上で竹取の翁とばあさんと実の親子として慣れ親しんだこと
・故郷である月の国に帰るといってもさほど嬉しくはないこと
・2人と別れるのが悲しくてたまらないこと

 かぐや姫も、竹取の翁も、ばあさんも、屋敷の使用人たちも、みな心をひとつにして嘆き悲しんだ。

帝の軍隊の派遣

 かぐや姫の昇天のうわさが帝の耳に入った。15日、帝は2000人の精鋭を竹取の翁の屋敷に派遣。屋敷の土塀の上に1000人、屋根の上に1000人が配置され、屋敷の使用人たちも弓矢を持った、ばあさんは物置部屋の中にかぐや姫を抱きかかえてこもり、竹取の翁は物置部屋の戸を閉めて、戸口の前に座り込んだ。

 竹取の翁も兵士たちも負けるはずがないと思っていたが、かぐや姫は、月の国の人々が来たら、みな戦闘不能になり、扉もすべて開いてしまうと説いた。

 迎えの天人たちの目玉をくり抜いていやるといきり立つ竹取の翁をかぐや姫は冷静になだめ、以下のような別れたのあいさつをした。

・これまでの恩情になんのお返しもしないで帰ることが残念
・孝行ができなかったことが心残りなので数日間、月の国の王に1年間の帰国の延期を願い出ていたが許可されなかった
・月の国の人はとても美しく、年を取らず、悩みがない
・しかしそんな月の国に帰ることは少しも嬉しくない
・年を取り体の弱った2人を介護できないことがせつない

月の国の王、竹取の翁との別れ

 宵を過ぎて午前零時ごろになると、屋敷の周辺が昼にも増して明るく輝き、天人が雲に乗って降りてきて、地上から高さ1.5メートルの場所に立ち並んだ。その姿を見た人間たちはみな、奇怪なものに襲われたようになり、戦う意欲を無くしてしまった。

 天人たちの伴っていた車の中に王と思われる天人がいて、竹取の翁に以下のことを呼び掛けた。

・お前がわずかばかりの善行を積んだので、お前を援助しようと短期間、かぐや姫を遣わしたこと
・かぐや姫は月の国で罪を犯したので、お前のような身分の低い者の家に滞在されたこと
・このたび罪に服する期間が終わったため、かぐや姫を迎えにきたが、お前が嘆き悲しむのは見当違いであること
・早くかぐや姫を連れてくること

 竹取の翁は言い返したが王は相手にせず、王は、かぐや姫に直接、月の都に帰りましょうと促した。かぐや姫を閉じ込めた物置部屋の戸が開き、厳重に下ろしていた格子も誰も触れていないのに開いてしまった。ばあさんが抱きしめていたかぐや姫は、するりと抜けて、部屋の外に出た。

 かぐや姫は、取り乱している竹取の翁に、私もつらい思いで帰るのです/せめて昇天するときだけも見送ってください、などと慰めの言葉を掛けた。竹取の翁はなおも取り乱すので、かぐや姫は、私を恋しく思い出すときにいつでも読めるように手紙を書き残すといった。手紙には、私が地上の国に生まれたならば2人の命がある限りお世話をするのですが期限が過ぎてしまいました/脱いでおく着物を形見と思ってください/月の出た夜は私のいる月を地上から見上げてください、などと記された。

かぐや姫の昇天と、天の羽衣・不死の薬

 天人に持たせていた箱に、天の羽衣と不死の薬が入っていた。天人が、地上の穢れたものを召し上がったので気分が悪いでしょうから壺の薬を飲みなさい、とかぐや姫に告げた。かぐや姫は薬を少しなめてから形見として脱いでおく着物に包んで残そうとしたが天人に制止された。

 かぐや姫は、天の羽衣を着てしまうと人間の心ではなくなり天人の心になると聞いたので、その前に書き置かなくてはならないことがあります、と告げた。天人は、時間がないとせかしたが、かぐや姫は、そんな情け知らずなことをいわないで、と落ち着きはらってたしなめ、以下のようなことを記した帝あての手紙をしたためた。

・月の国に帰らなければならないことが残念で悲しいこと
・このような事情があったために勅命に従わなかったが、無礼なやつとばかり心に刻まれてしまっていることが何よりも心残りでならないこと
・今はこれまでと天の羽衣を身にまとうが、このときになって、帝を心から慕う気持ちがしみじみと沸いてきていること

 手紙と壺は、かぐや姫から天人を経由して、頭中将に渡された。天人は頭中将に手紙と壺を渡すと、かぐや姫にすばやく天の羽衣を着せかけた。かぐや姫の心の中から、竹取の翁をいとしく、そして気の毒に思っていた気持ちが消えうせた。かぐや姫は月の都に帰って行った。

残された帝と、富士の山

 帝はかぐや姫の手紙を読んで深く感動した。大臣・高官を呼んで「どこの山が一番、天に近いか」と尋ねると、駿河の国(静岡県)の山という答えが返ってきた。

 帝は、二度とかぐや姫に会うことができないので不死の薬などなんの価値もない、という内容の歌を詠み、調岩傘(つきのいわかさ)に命じて、手紙と不死の薬の壺を山頂に並べて焼かせた。

 岩傘が大勢の兵士を引き連れてその山に登ったので、それ以降、その山を「富士の山」(士に富む山)と名付けた。

竹取物語の読書感想文

 「竹取物語」を読み終えて、かぐや姫は、どんな罪を犯したのだろうと気になりました。

 かぐや姫は、5人の貴公子から求婚される段階では、自分が異世界の者だとは知らずに、おじいさんとおばあさんを両親だと思っていました。帝に袖を掴まれた際に、自分はこの世の者ではないと明かしていますので、この時点では、異世界の者だと理解していたことになります。

 かぐや姫は、赤ちゃんとして人間界に送られていました。(人間界の常識や発想では)生まれたばかりの赤ちゃんが罪を犯すことは考えにくいので、かぐや姫は月の都である程度まで育って、そこで罪を犯し、身も心も赤ちゃんに変えられて(記憶も消されて?)人間界に送られたのかもしれません。ただ、月の国はある種のユートピアのような場所と理解できるので、そもそも、罪を犯すこと自体があり得ないのではないかとも思ってしまいます。しかし、月の国は人間の常識が通用する場所ではないと思いますので、生まれたばかりの赤ちゃんが罪を犯すことがあり得るのかもしれません。もしくは、そもそも罪を背負って生まれてしまったのでしょうか。

 月の国の王は、竹取の翁の善行に報いるため、ある種の褒美的な意味合いでかぐや姫を竹取の翁に使わしたと言っています。言葉通りかもしれませんし、本当の理由を隠すためのその場限りのでまかせかもしれません。ただ、かぐや姫が人間界で時を過ごすことは、服役や流罪というよりは、社会奉仕活動に従事させるような位置づけかなと感じました。また、かぐや姫の身分は相当高いと思いました。

 そもそも悩みが存在しないユートピアで、高貴な姫が、あえて自ら犯した罪とは、どんなものなのだろうと思いました。結果として、社会奉仕活動的な償いをさせられることになっているので、かぐや姫が犯したという罪が、そもそも明確に犯罪として整理して一概に弾劾できるような種類のものではなく、酌量の余地があるようなものなのかもしれないと感じます。かぐや姫が行った行為はやむにやまれぬものとして同情できるものの、月の国の決まりとしては、罪として扱わざるをえなかったということでしょうか。

 かぐや姫は、本当の両親の記憶を持たずに(記憶を消されて?)、身も心も赤ちゃんになって(もしくは生まてすぐに?)人間の世界に送り込まれました。かぐや姫は、相当に身分の高い姫であるようです。その姫が、月の国から見たら、汚らしい人間界の取るに足らないある家庭に送り込まれました。

 ここからは妄想全開で、かぐや姫の罪について想像してみました。

 月の国はユートピアなのですが、そのユートピアに住む天人たちは、そもそも、家族を愛するということがありません(もしくは、住人たちが知らないうちに、家族を愛することが禁止されていました)。家族を愛することを禁止しているからこそ、月の国の住人がひとつの家族として存在することが可能で、それがユートピアを根底から支えていたとします。

 ただ、かぐや姫は、両親を愛してしまいました。もしくは、先天的に家族を愛する心を持って生まれてきてしまいました。家族への愛はときに争いを生みます。社会全体が食糧危機に陥ったら、人々は自分と家族の食料を確保しようとしますが、そこから戦争が始まることもありえます。

 家族に対する愛がユートピアの存在を根底から脅かすことを知っていた月の国の中枢部は、やむにやまれず、かぐや姫をまっさらな赤子にして、“罪人”として、地上界に送り込みます。欲望と争いが渦巻く醜い人間界なら、家族を愛する心など生まれるはずがない、もしくは、すぐになくなると思ったのでしょうか。

 しかし、それでもかぐや姫は、おじいさんとおばあさんを愛してしまいました。かぐや姫が家族を愛する心を先天的に身に着けていたのか、月の国が忌み嫌っていた人間界で後天的に芽生えたのかは分かりません。いずれにせよ、かぐや姫は、家族を愛する気持ちという、月の国にとっては禁忌ともいえる心を持ってしまっていました。美しい姫に成長したかぐや姫が家族を愛する心を持ってしまっていることを知った月の国の王は、かぐや姫を人間界にとどめても意味が無いと考え、かぐや姫を連れ戻すことにしました。

 かぐや姫の身分の高さを考えると、もしかしたら、かぐや姫は月の国の王のお姉さんなのではないかと勝手に思ってしまいました。かぐや姫は家族の記憶を消されている可能性がありますので、かぐや姫自身は、月の国の王が自分の(愛する家族である)弟だとは分かりません。でも、月の国の王は、かぐや姫が、自分を愛してくれる(でも、それを許すわけにはいかない)姉だと分かっていながら、ユートピアの繁栄・存続のために、そのことを表に出さないのかもしれません。

 かぐや姫は、ユートピアである月の都に帰ることは嬉しくないと泣きます。おじいさんとおばあさんが悲しむ姿を見ることが辛く、2人に孝行できないことが心残りだと嘆きます。

 天人の世界では「家族への愛」は必要のないものなのかもしれませんが、「竹取物語」が名作として読み継がれているのは、「家族への愛」という、人間の普遍的なテーマを内包しているからだと思いました。


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