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書評「穴 HOLES」ルイス・サッカー/少年が自らの運命を切り開く物語が秀逸な情景描写で紡がれる|あらすじ&感想も

2017年8月9日

 情景を容易に想像できる小説は名作であることが多いが、本書はどこもかしこもしっかりと映像として脳裏に描き出される作品である。

 1998年に刊行された本書は、翌1999年には多数の賞を受賞。累計で350万部以上を売り上げる大ベストセラーとなった。日本ではそこまで知名度の高い作品とは言えないかもしれないが、アメリカでは幼少期には必ず読まれるといっても過言ではないという。今回は、そんな「穴 HOLES」の魅力を紹介しよう。

「穴 HOLES」のあらすじ

 物語の主人公は、ポッチャリ系男子のスタンリー・イェルナッツ3世。学校ではいじめっ子にいじめられ、先生にまでも予期せぬ悪口を言われるような可哀想な少年だ。

 ある日の放課後。帰宅途中に頭の上に靴が落ちてきたことから、運悪くも無実の罪で少年犯罪に問われてしまう。その靴はある有名野球選手のシューズだったこともあり重罪として捉えられ、更生の為に砂漠のど真ん中に位置する“グリーン・レイク・キャンプ”へと行くことになる。

 スタンリーの一家には代々災難が訪れ続けてきた。これはスタンリーのひいひいじいさんがとあることがきっかけで呪いをかけられてしまったからで、イェルナッツ家には一生不運な人生が待っているのだ。

 そんな災難続きのスタンリーがやって来たグリーン・レイク・キャンプの日課は、直径1.5メートル、深さ1.5メートルの筒状の穴を砂漠に毎日1つ掘ることで、来る日も来る日も干からびた砂漠のど真ん中で、直射日光にさらされながら、限られた水分しか補給できない環境下で、ひたすら穴を掘りつづける。これが更生への道とされ、犯罪を起こしてしまった個性豊かな少年たちは、言うとおりに日々を過ごしている。

 ここでは仲間同士、あだ名で呼ばれることになっており、メガネをかけた少年は“X線”、ガタイのいい“脇の下”、ちょっぴりお惚けな“ジグザグ”、そして言葉を話せない“ゼロ”など様々だ。ここでスタンリーに名づけられたあだ名は“原始人”。れっきとした理由は描写されていないものの、ここではあだ名を付けられた時点で一人前として認められた証拠なのだ。

 不本意ながらもキャンプでの不毛な生活をし、仲間たちとの距離を縮めていくスタンリーだったが、日々の穴掘りに疑問を抱き始める。

 謎多きグリーン・レイク・キャンプの所長やミスター・サーと呼ばれる監視員はこぞって何かを見つけたらすぐに報告するようにと言っているが、何を探しているのだろうか。

 もしも素晴らしいものが見つかったら、その日一日穴掘りを休めるというルールさえある。この穴掘り作業が後の自分の人生を大きく変えることになるということをスタンリーはまだ知らなかった・・・。

「穴 HOLES」の感想

 とてつもなく生命力に溢れた文章で、前に進む勇気をくれる作品。登場人物のニックネームに自身の欠点が冠されている部分も印象深く、決して世渡り上手とは言えない少年が、毎日の穴掘りを通じて、かけがえのない“何か”を見出す。それは友情であったり、勇気であったり、人生を生き抜くうえでとてつもなく重要なものだ。

 「穴」という何ともミステリアスなタイトルながら、中を開いてみれば、メッセージ性の強い物語が繰り広げられ、もちろん“穴”の秘密や過去と現在が交錯し語られるキャンプの秘密など、ミステリアスな部分もあるが、本筋としてはやはり一人の少年の勇気と希望の物語と言えるだろう。

 そして何よりも本書の魅力として挙げたいのが、その描写の上手さ。その砂漠のど真ん中に放り出されたかのような暑い日ざしやカラカラとした乾燥具合、そんな時の冷たい水のありがたさなど、描き出されている環境下を肌で感じることができるのだ。これはもはや脱帽としか言いようがなく、活字でここまでの情景描写ができている本を読んだのは初めてと言っても過言ではない。

ディズニーで実写映画化

 実は本書は2003年にすでにウォルト・ディズニー・スタジオにより実写映画化されている。

 物語の大筋は原書通りの構成で、干からびた砂漠の描写やシャイア・ラブーフを初めとした登場人物を演じる俳優たちのキャスティングもこれ以上ないものである。

 元々、映画のファンであった筆者は、より作品を知るために本書を手に取ったのだが、より細部までこの「穴 HOLES」という作品を理解でき、改めて映画版の傑作ぶりを痛感させられたと同時に、原作でこれほどまでに徹底した描写がされているからこそ、実写化しても立派な作品に仕上がるのだろうと感じた次第である。少年スタンリーが自らの運命を切り開く物語をぜひ、映画版と原作を一緒に楽しんでもらいたい。

夏休みの読書感想文にもオススメ(小学生や中学生)

 最後になってしまったが、本書はこの暑い夏にピッタリの作品で、公園などのベンチで読んだら、より一層の没入感が増す小説だ。夏休みの読書感想文の題材としても推奨したい作品で、小学生や中学生ぐらいの年齢層に特に読んでもらいたい。

 読み終わった後には、きっとスタンリーと同じように“何か”を見出せるはずだ。本当の意味での“宝”というものを・・・。(文=Sunset Boulevard Twitter:https://twitter.com/sunsetblvdmovie


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