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映画「ストレンジャー・ザン・パラダイス」のあらすじと感想

竹内みちまろ

 「ストレンジャー・ザン・パラダイス」という映画をご紹介します。監督:ジム・ジャームッシュ、1984年/アメリカ・西ドイツ、主演:ジョン・ルーリー、エスター・バリント、リチャード・エドソン、セシリア・スターク。

 「ストレンジャー・ザン・パラダイス」はベルリンの壁が崩壊する5年前に作られた映画です。ニューヨークで暮らす青年の部屋に、ハンガリーから従姉妹のヒロインがやってきます。青年は、一人で外出しようとするヒロインを、呼び止めました。

「お前はこの町のことを知らない」

「自分の身は、自分で守れるわ」

 二人とも、あまりしゃべりません。投げやりで、せつな的な雰囲気に包まれています。青年は、ハンガリー語は使うなと、ヒロインに言いました。

 「ストレンジャー・ザン・パラダイス」は青年とヒロインのからみが見応えのある映画でした。ヒロインは、青年から相手にされません。むかつくとこぼすこともありますが、青年の前では、すました顔から冷たい視線を送るだけです。でも、つまらなそうにしながらも、青年の部屋の掃除をはじめたりします。ヒロインは、外敵から身を守るためのような頑強なコートを着ています。国を出るときに、着てきたものでした。外出から戻ったヒロインは、コートの中から、缶詰やお菓子の箱をいくつも取り出しました。

「お前、文なしだったよな」

「お金は使ってないわ」

 青年が、はじめて笑顔を見せました。ヒロインもほほ笑みます。

 ヒロインに心を許した青年は、プレゼントを買ってきました。ひらひらが付いた薄いドレスでした。

「アメリカじゃ、みんな着てるよ」

「ダサいわ」

 ヒロインは、青年のために、一度だけ、ドレスを着ました。でも、部屋を出ると、すぐに、国から着てきた服に着替えてしまいました。ドレスは、そのままゴミ箱へ。ヒロインは、歩き去ります。

 ストーリーは、ブタペストからやって来たわけありのヒロインと、十年もアメリカに住んでいながら、仲間にも、自分がハンガリー人であることを隠している青年が、もう一人、青年の友人を交えて、三人で旅をすることにより展開します。でも、旅では、劇的な事件が起きたり、心の中に変化が起きたりするわけではありません。生活に希望を見い出せずに、せつな的に生きる三人の模様が描かれるだけです。

 そんな映画は、ある人物の思い違いがヒロインに訪れることにより、急展開をします。前半部分で描かれた青年とヒロインのからみの部分のエピソードが、すべて、ラスト・シーンを演出するための伏線だったことを知りました。

 映画では、青年とヒロインの物語は、何も語られません。ベルリンの壁を越えようとした人間が射殺された時代に、ハンガリーからアメリカに、人目を避けるようしてやって来たということがどういうことなのかは、みちまろには、わかりません。映画の中で描かれていたのは、アメリカには馴染むことができない青年とヒロインの姿です。二人の前で、時間だけが流れていきます。

 ヒロインは、どうにもならない現実から、一瞬、逃げ出せるかのような幻を見ました。幻を追うヒロインのうしろ姿は、もう一つの思い違いに形を変えて、青年の前に訪れました。そんな二人がすれ違うラスト・シーンは、惚れ惚れとするくらいに、見事でした。


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