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兎の眼/灰谷健次郎のあらすじと読書感想文

2013年2月22日 竹内みちまろ

兎の眼のあらすじ(ネタバレ)

 医者のひとり娘で、大学卒業後すぐに結婚し、結婚して10日で新任教師になった小谷芙美は、H工業地帯にある姫松小学校の1年4組の担任になりました。学校の裏には1918年に建てられた塵芥処理所があります。新任教師になってすぐに、塵芥処理所内にある作業員のための住宅から通う臼井鉄三が、教室でカエルを2つに引き裂き、さらに、別のカエルを足で踏みつぶす事件がありました。小谷先生は、職員室に駆け込んで、吐きました。

 塵芥処理所から出る煤煙で、学校は終日、どんよりとしていました。学校だけではなく、町中が被害に遭い、ふとんを干せば汚れるという状態でした。

 カエル事件から2か月後、別の事件が起きました。アリの観察の時間、小谷先生が前の席の文治のビンを手に取ると、それを見た鉄三が猟犬のように飛び掛かってきて、ビンを奪いました。鉄三は文治にも襲い掛かります。文治は指の骨が見えてしまうほどの大けがをしました。

 小谷先生は、鉄三がハエをビンに入れて飼っていて、鉄三が文治から取り返したビンは、鉄三の家から盗まれたものだと知りました。小谷先生は、文治から事情を聴き、鉄三に謝るように諭しました。後日、文治の父親がけがをさせられたうえに、あやまらせるとは何事か、と学校に乗り込んできて、小谷先生の胸ぐらを掴みました。小谷先生は真っ青になって何もしゃべれなくなりました。2年生の担任で、私生活が乱れているという噂でしたが、なぜか子どもたちや保護者からの評判がいい足立先生から、「臼井鉄三に手こずっているようだけれど、ぼくの経験からいうと、ああいう子にこそタカラモノはいっぱいつまっているもんだ」と声を掛けられます。

 小谷先生は、塵芥処理所の家を訪問し、鉄三がハエ博士であることを知ると、昆虫図鑑をプレゼントしました。ハエの名前を書いたラベルをビンに貼ることで、読み書きを教えます。両親のいない鉄三は、祖父の獏(ばく)じいさんと暮らしていました。小谷先生は、獏じいさんとも心を通わせ、獏じいさんから戦争中に起きた出来事の話を聞いたりしました。塵芥処理所の子どもたちは、姫松小学校でいい先生といえば、足立先生と、折橋先生と、太田先生くらいと口にしていましたが、小谷先生も受け入れられるようになります。

 しかし、小谷先生は、家で夫と口論をするようになり、夫との溝が深まっていきました。夫は、いまに仕事を辞めさせて楽をさせてやるなどと言いますが、小谷先生は、この人は何を言っているのだろう、などと違和感を持ちます。日曜日に、日曜出勤の夫を送り出してから、小谷先生はひとりで西大寺へ行きました。西大寺には、小谷先生が好きな善財童子の彫刻があります。善財童子は美しい目をしており、小谷先生は、人間の眼というよりも兎の眼だと感じます。小谷先生は、処理所の子どもたちのことを思い出しました。

 小谷先生は、みな子という知的障害を持つ子どもを引き受けることにしました。みな子は、給食を手でつかんだり、漏らしたりする子どもでしたが、クラスの子どもたちは、自主的に、順番でみな子といっしょに時間を過ごすようになります。小谷学級の、裕福な家の親たち14、5人が学校に乗り込んできて、「じょうだんじゃありませんよ。あなた、気はたしかですか。一日中、勉強もなにもできないって、うちの子どもはいっていますよ」と小谷先生に詰め寄ります。小谷先生はくやしさが込み上げて、「わたしは自分のために仕事をします。ほかの先生のことは知りません」などと答えます。一方、下町や商店街の家の親たちは、「先生、きのうの一件をききましたぜ。ここにきてるもんは、みんな先生の味方ですワ。まだまだ先生の味方はおりまっせ」と勇気づけました。

 小谷先生のクラスに変化が起こり始めていました。1学期は、告げ口が多かったのに、ほとんどなくなりました。鉄三と小谷先生はハエの研究を続けていましたが、それをどこかで聞いたハム工場の担当者から、ハエが大量に発生して困っているので原因を教えてほしいと依頼がありました。鉄三はハム工場の塀によじのぼり、「あれや」とたい肥を指さしました。小さなハエ博士の記事が新聞に載ります。

 町の長年の課題だった塵芥処理所が、ついに、第三埋立地に移転することになりました。子どもたちは転校になりますが、新しい処理所の住宅から学校へ通うには、ダンプカーがひっきりなしに通る道を歩かなければなりません。また、新しい処理所は、市場へ行くのに、3、40分もかかります。そんな生活環境の悪い場所へ子どもたちを行かせるわけにはいかないという声があがります。

 塵芥処理所の子どもたちが、移転に反対して、集団で登校を拒否し、それが新聞の記事になりました。塵芥処理所の作業員たちは、ストライキはやらず、正職員としての登用と、現在の塵芥処理所の跡地に住宅を建設することを要求するビラを、小谷先生ら教師の有志と連名で、配ります。方針を決めるPTA総会が開かれました。移転の速やかな実施要求案が可決され、処理所作業員の戦いを支持する案は、約3対1の割合で否決されました。

 足立先生が、塵芥処理所の正門の前に登山用のテントをはって、ハンガーストライキを始めました。作業員の戦いへの支持案が否決されたことへの抗議でした。足立先生は、処理所の子どもたちが鉄三が飼っていた犬のキチを取り返すため、保健所の檻がついた車を破壊してしまった際、弁償するために、子どもたちがクズを集めてお金に替える手はずを、2、3日のうちに一人で整えてしまうような先生でした。処理所の子どもたちも、小谷先生も、足立先生を応援し、ハンストが反響を生みます。「処理所の子どもを支援する親の会」が発足し、署名運動が始まりました。署名が過半数を越え、校区の半分以上の家庭が処理所の子どもたちの味方になり、方針を表明する決議文をくつがえせるようになりました。

兎の眼の読書感想文(ネタバレ)

 「兎の眼」を読み終えて、「正しさ」って何なのだろうと思いました。小谷先生は処理所の作業員たちの戦いに賛同します。子どもたちを劣悪な環境へ行かせるわけにはいかないと思い、作業員たちの労働者としての要求にも賛同していました。一方、処理所の移転が計画通りに進み、子どもたちも含めて埋め立て地へ行くことを願っている親たちも(そして、もちろん子どもたちも)たくさんいました。処理所の移転自体は、小谷先生も含めて全員が賛成だと思います。処理所があるために、ふとんも干せない、のどを痛める、悪臭がするなど、公害問題がひどいからです。

 処理所の移転は、処理所の作業員たちや家族にとっては、自分の問題です。が、その他の家庭にとっては、つまるところ他人事。処理所が移転してくれればあとはどうでもいいという感じかもしれません。

 自分さえよければそれでいいのか、と口で言うのは簡単ですが、現実問題としては、他人事にまで口を出すと、口を出した分の責任が生まれます。小谷先生や、足立先生や、折橋先生や、太田先生は、作業員たちを支持し、署名集めをしたり、ハンストをしたりします。これらの先生たちは、いい悪いは別にして、大人としての自分の判断で行動し、発言にも筋を通し、行動を起こすことで、口で言ったことに対する責任は取っているといえると思います。ただ、他人事に首を突っ込んで自分の事がおろそかになってしまったら本末転倒という見方もできます。また、先生の中には、自分の事で精いっぱいで、他人事にまで責任を持って首を突っ込めないという人もいるのかもしれません。そういった先生が、足立先生や小谷先生よりも劣っているかといえば、そうともいえないような気もします。

 「正しさ」とか、「正義」などというものは、存在しないのかもしれないと思いました。また、例え存在したとしても、それははかないもので、10年たてばひっくり返るようなものかもしれません。この読書感想文の筆者(昭和48年生まれ)が子どものころは、学校の先生は、「うそも方便」という言葉の意味を教える際、ガンの人にあなたはガンですとは言ってはいけないでしょ、という教え方をしていました。当時は、どうして?という疑問を持ちませんでした。また、給食を残してはならないともしつけられました。子どもたちの一人一人が持っているアレルギーや、体質や、病気などはいっさい配慮されず、給食を残す子どもは悪い子で、給食を残す子どもをしかる先生はいい先生という感じです。

 何がよくてどうあるべきかは、つきつめれば、誰にも、何も言えないのかもしれないと思います。ただ、それでも、人間は社会を構成し、社会に参加して生きていかなければなりません。社会の中では、何らかの行動基準や、思想や、発想や、思考回路が求められます。なので、人間は、外部に「正しさ」や「正義」などを求めるのではなく、それが「恥」なのか、「良心」なのか、「誇り」なのか、「尊厳」なのかは分かりませんが、自分の内部に、「正しさ」とか、「正義」などとは違ったものを求めなければならないのだとと思いました。


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