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2014年1月9日 竹内みちまろ
都内に暮らす53歳の大崎俊介は、大手電機メーカーの営業部長。直属の上司は次期社長になることがほぼ決まっており、俊介を取締役にすると伝えてきました。うわの空で礼を述べる俊介に、「ばあか。俺の次はお前ってことだよ」と告げます。
俊介は、3歳年下の妻・昭子とは社内結婚でしたが、バブルの時代、仙台に単身赴任していたとき、女を作ってしまいました。以来、昭子は、世間体では、エリートサラリーマンの家を守る妻を装いますが、玄関を足の踏み場もないほど鉢植えでいっぱいにしたりなど壊れていきました。今では、俊介とは会話もなく、声を掛けても面倒臭そうに生返事をするだけで、家庭内別居状態でした。俊介は悔恨とともに、責任は自分にあると歯を食いしばります。高校2年生のときに「登校拒否」になり、高校退学後、アルバイトをしている20歳の長男・大介と、口を開けたまま音を立ててものを食べる、17歳で高校2年生の長女・咲子とも、ほとんど話をしない生活を送っていました。
そんな折、警察から電話が掛かってきます。俊介の父で今年80歳になる同居の俊太郎が神奈川県の大磯にいて、「どうも、ご自宅への道筋を忘れられたようです」という。
4月の初め、会社に妻の昭子から電話が掛かってきました。「どうにかしてよ!」といきなり金切声をあげます。俊介が帰宅すると、俊太郎が、自らの汚物にまみれながら、床の上に正座してうずくまり、立ちはだかる昭子を呆然と見上げていました。
「サクラサク」は読み終えて、親子って何なのだろうと思いました。
俊介は、俊太郎から、お前は妻や子どもたちのことを一生懸命見つめていないのではないかと諭され、愕然とします。俊介は、実は大介が俊太郎のおむつの世話をしていたことを知りませんでした。俊太郎は、「勉強や外面のできなどどうでもいいじゃあないか。大介は人の痛みを感じられる、本当はそういう子なのだ」と告げ、「俊介。貧しいと不幸せは同じものじゃない。豊かと幸福も同じじゃないだろう?」と聞かせます。
「サクラサク」のストーリーは、もう限界だと感じた俊介が、会社を無断欠勤して、家族全員を連れて旅行に出かけることで展開するのですが、会社というものは辞めてしまえば終わりという場合が多く、会社での人間関係は、ある意味、いっときのものなのかもしれません。会社に限らず、取引先や、地域での関係なども、いつか終わるときがくるのかもしれません。
「サクラサク」では、2人の子どもの姿が印象に残りました。大介は、祖父のために、父親には内緒で(というか父親がただ気づかないだけで)、おむつの買い出しから廃棄までを一人でやっていました。咲子も、根はやさしい子で、父親と母親のいうことに最後には耳を傾けます。
ただ、俊介の家庭は崩壊しているといえるのかもしれません。それでも、やり直そうとみんなで顔を向き合わせることができたのは、それが親子であり、家族だからかもしれないと思いました。
作品の中でも触れられていましたが、親子という関係は終わることがありません。婚姻についてはまた別ですが、親子というものは、関係という次元の現象ではないのだと思いました。
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