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2013年12月7日 竹内みちまろ
東京のボロアパートに暮らす無職で24歳の「俺」こと藤田優作は、20歳の時に北関東の地方都市からやってきました。親子3代に渡り、その都市と多くの部分でいっしょくたになっている企業に勤めていましたが、父親が同僚の策略にはめられてリストラ退職の憂き目に。父親は電話を掛けては苦情を言い続けるクレーマーと様変わりし、母親はうつ病に。俺は東京に来て、ミュージシャンや劇団員を目指しますが長続きしません。近所のゲームセンターくらいしか行く場所がない生活を送っていました。
しかし、ゲームセンターで出会った「オッサン」こと、堀井健史から声を掛けられます。
「藤田優作、君はどれくらいの金持ちになりたい?」
「そうだな。金で買えないものはない、そう言えるくらいかな」
「わかった。それでいこう」
そう握手を交わし、俺がオッサンから呼ばれて向かった先は、当時完成したばかりの六本木ヒルズ。そこから、タクシーで向かった西麻布のお店では、俺は、俺でも知っている若手女優を見かけ、超高級カラオケボックス「六本木ドイチュランテ」のVIPルームに入れば、2人のアイドルが接待にやってきました。
オッサンは、「優作が金持ちになると、いったい、どうなるのか見てみたくなった」といいます。オッサン直伝のビジネス初心者4カ条は以下のとおり。
1つ、元手はかけない。
2つ、在庫ゼロ
3つ、定期収入
4つ、利益率
オッサンの指示と資金援助でゲーム製作・配信会社を起業した俺は成功を重ね、わずか数年で時代の寵児へ。オッサンは言います。
「この時代に虐げられた連中の憧れになれ。きみは反逆児となって、既存の勢力に徹底的に抗い、戦い、打ち負かしていくんだ。そうすれば、いま、行き場を失った若者たちはこぞって優作に憧れ、慕う。カリスマの誕生だよ」」
社名をネクサスドアと改名し、買収を重ねて巨大グループを作り上げた俺は、プロ野球球団の買収に乗り出します。
俺の活躍はまだ、まだ続きます。俺は、球団の買収に失敗すると、今度はテレビの在京キー局の筆頭株主になっている上場のラジオ局の株の買い占めに乗り出します。また、六本木ヒルズのワンフロア―を借り切ってオフィスを移転し、アイドルをはじめ、グラドル、モデル、キャビンアテンダント、女子アナなどを抱きまくります。
俺がラジオ局買収を報道する番組を見ている場面では、まっとうな顔で「いつからラジオジャパン買収を考えていたんでしょうか?」などと口にする女子アナを見て、「あんた、そのとき一緒にいたんだぜ」と心の中で言葉を掛けていました。「旭日テレビだけじゃない。ラジオジャパン買収の計画現場に、主要民放の女子アナが各局1人は居合わせていた。報道局は俺の前に自分とこの女子アナに訊けばいい」
ほか、山村ファンドの山村代表が、女子アナを集めて合コンをする秘密の日本庭園や、売天の三木山社長・ハイパーエージェントの藤井社長・MUSENの宇多社長・ハードバンクの朴社長などが集うパーティーの様子も読みごたえがありました。
でも、「拝金」を読んで、一番心に残ったのは、長野刑務所内で書かれた「あとがき」でした。
一瞬で何千億円という富を手にした堀江さんの前で、女たちはくどけば一瞬で落ちるほど性的に興奮し、堀江さんは、金と欲望を追い求め、金と欲望に浸り切り、金で買えないものはないといえるところまで登りつめたのだと思います。その時の感覚を、堀江さんは、「突き抜ける、そうとしか表現のしようがない」と書いていました。その「物凄い快感」を多くの人と分かち合うために、「拝金」は書かれたとのこと。
堀江さん、というか作中の「俺」の場合は、追い求めるものが金と欲望だったわけですが、ものは違えど、また、程度の差こそあれ、この「突き抜ける」という感覚は多くの人の人生にあるのではないかと思います。ある意味で、突き抜けた先にあるのは、「燃え尽きた灰」であったり、「悟りを開いた聖人君子」だったりするのだと思いますが、何も有名人ではなくても、(社会的な姿とは別に心の中が)灰になった人や、聖人君子になった人は、市井にたくさんいるのではないかと思いました。
そんな人間の普遍的な姿が現代的なストーリーの中で描かれているところに「拝金」の魅力があると思います。そして、競走に買ったり、大金を手に入れたり、優越感に浸ったり、権益の蜜をしゃぶることではなく、この「突き抜ける」ことの快感を知ってしまっているがゆえに、堀江さんは、これからも、自分の信じる道を突き進むのではないかと思いました。
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