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佐賀のがばいばあちゃん/島田洋七のあらすじと読書感想文

2012年8月22日 竹内みちまろ

 島田洋七の『佐賀のがばいばあちゃん』は、朝鮮戦争がいったん終わっていたころの話です。伊勢湾と太平洋を眺める周囲1里にも満たない歌島に住む漁師の青年と、青年に心を寄せる少女の恋の物語として名高く、映画化もされていますので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。あらすじと読書感想文をまとめておきたいと思います。

 『佐賀のがばいばあちゃん』(島田洋七)という回想記をご紹介します。「がばい」とは「すごい」という意味で、タイトルの意味は、『佐賀のがばい(すごい)ばあちゃん』となります。島田洋七さんは、1975年にお笑いコンビ「B&B」を結成し一世を風靡した人気漫才師。幼少のころ、広島から、佐賀に住む明治33年(1900)生まれの祖母に預けられました。『佐賀のがばいばあちゃん』には、幼少のころの思い出から、広島の高校へ入学するために佐賀を出たことまでが語られています。あらすじと読書感想文をまとめておきたいと思います。

 原爆が投下され何もかもが破壊された広島。「俺」こと徳永昭広少年は、原爆ドーム近くにあるアパートで、兄と母親といっしょに暮らしていました。父親は原爆症で亡くなっており、母親は、露店がてんでばらばらに建ち並びほとんど「スラム街」と化していた原爆ドームのすぐ側で居酒屋をし、兄弟を育てていました。「俺」が小学2年生のある日、母親の妹である叔母・喜佐子が佐賀から来て、しばらく滞在しました。叔母が佐賀へ帰る時に、広島駅まで見送りに行くことになりました。が、汽車のドアが閉まる瞬間、「俺」は母親に背中を押されて、汽車に乗るはめにました。叔母も母親も泣いています。佐賀に住む祖母の家に預けられた「俺」の生活が始まりました。

 広島はスラム化しているとはいえ都会でしたが、「俺」が到着した場所は、駅前に食堂が5、6軒あるだけで、夕方になると真っ暗になってしまう町でした。川のほとりにある、かやぶき屋根のボロ屋に着くと、意外にも背の高い上品な祖母が姿を見せました。しかし、いきなり、「明日から、昭広がごはんを炊くやけん、よう見ときんしゃい」と、かまどに火をおこし始めます。祖母は、早朝から午前中は、佐賀大学や周辺の付属の小中学校の職員室の清掃の仕事をし、出歩くときは換金する鉄くずを集めるため、ひもで腰に結んだ磁石を引きずって歩き、川に渡しておいた棒にひっかかる木の枝を薪にし、食べ物の大半も川に流れてきたものを食べ(川の上流に市場があって、売り物にならない曲がったきゅうりや、泥をおとしている時に手から滑り落ちた野菜などが流れてくる)、鶏を飼い、「貧乏には二通りある」「暗い貧乏と明るい貧乏」「うちは明るい貧乏だからよか」と自信満々に「俺」に教えていました。「俺」は来た当初こそ面食らったものの、すぐに佐賀での暮らしに慣れ、「海水パンツなんかいらん! 実力で泳げ!!」という「がばいばあちゃん」とのかけがえのない生活が始まりました。

 印象に残っている場面があります。「俺」は野球少年でしたが、佐賀市民球場で広島カープのオープン戦が行われるとき、家の近くの古い旅館にカープの選手が泊まることになりました。ダントツの人気だったプロ野球の選手を一目見ようと、旅館周辺には人だかりが出来たのですが、なかなか現れない選手にしびれを切らせてついに昭広少年一人が残ったそうです。あこがれのカープの選手に会いたくて、そして何よりも、昭広少年にとっては、「広島」につながるものはすべて「母親」につながっていました。とうとう、カープの選手が姿を見せ、少年は、「僕のかあちゃん、広島で働いてるんです。徳永っていうんですけど、会ったことありますか」と聞いたそうです。あとになって思えば会ったことはまずなく、会ってもわかるはずがないと記されていましたが、当時の昭広少年は真剣そのもの。そして、「古葉選手」らしきカープの選手は、にっこり笑って、「うーん……会ったことないなあ。僕は、ここで何してるの?」と告げ、少年が「かあちゃん、仕事で忙しいから……おばあちゃんの家に預けられてるんです」と答えると、選手は旅館に戻って、豆菓子の包みを取ってきて、「これ、あげるわ。おかあちゃんに会ったら、よろしく言っとくな」と手を振って去っていったそうです。

 「がばいばあちゃん」の言葉に、「人に気づかれないのが本当の優しさ、本当の親切」というのがありました。『佐賀のがばいばあちゃん』を読み終えて、昭広少年は、佐賀で「本当の優しさ」に包まれて育ったのだなと思いました。小学校の「母の日」の作文の時間には「僕にとって、夏休み全部が母の日です」で結ばれる長い作文を書き(夏休みにだけ汽車に乗って広島へ行き母親に会うことができた)、「父の日」の作文には原稿用紙いっぱいに「知らん」とだけ書き、その「父の日」の作文に百点満点をつけた先生もいました。人間はそれぞれの事情を持って生きているのですが、相手のことを思いやる心というものを感じました。本書の刊行は2001年。バブル経済崩壊から始まる不景気のまっただ中でした。しかし、島田洋七さんは、プロローグで、幸せは「心のあり方で決まる」と断言しています。世の中が殺伐とし、みんなが何かがおかしいと思っている現在の社会で、失われつつあるものが、『佐賀のがばいばあちゃん』の中にはあると思いました。


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