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謎解きはディナーのあとで/東川篤哉のあらすじと読書感想文

2012年7月29日 竹内みちまろ

謎解きはディナーのあとでのあらすじ(ネタバレ)

 警視庁国立署の刑事・宝生麗子は、大財閥の一人娘なのですが身分を隠して公務に汗を流しています。麗子の上司・風祭警部(32歳・独身)は、そこそこの企業の御曹司。現場にジャガーを乗りつけるキザな男ですが、ちょっと抜けています。麗子と風祭は殺人事件の現場に駆けつけます。現場では、なぜか死体が全裸だったり、バラ園のバラの中に横たえられていたり、密室の中で後ろから背中を刺されたりしています。

 謎だらけの事件にでくわして帰宅した麗子は、なんの気なしに、宝生邸で働き始めてまだ1か月もたっていない30代の執事兼運転手・影山に事件のことを話し、「判る、影山?」と話しかけます。影山は、「サッパリ判りません」が「お嬢様がもう少し時間をかけて詳しくお話ししてくださるなら、あるいはわたくしなりの考えをお伝えすることができるかもしれません」と、銀縁メガネの奥の瞳を輝かせます。影山の考えというものに、ふと、興味を持った麗子が事件のあらましや現場の状況を伝えます。影山の口から出た言葉は、「失礼ながらお嬢様――この程度の真相がお判りにならないとは、お嬢様はアホでいらっしゃいますか」

 麗子と影山の謎解き珍道中(?)が始まりました。

謎解きはディナーのあとで/東川篤哉の読書感想文

 『謎解きはディナーのあとで』を読み終えて、まず、「珍道中」という言葉が浮かんできました。

 世間の常識から外れ、垢抜けている風祭警部は、麗子を食事に誘ったりもします。しかし、麗子は、相手にせず、仕事中も腹をたてて、ときに、「セクハラ上司!」と声に出してつぶやてしまったりします。風祭警部は捜査能力は皆無なのですが、そういった一言は聞き逃さないという愛すべきキャラ。

 一方で、執事の影山は、第1話で「本当はプロ野球選手かプロの探偵になりたかった」と影山自身の口から語られますが、実態は謎に包まれています。麗子の買い物に付き合って、8時間も車で待機させられたりもします(もっとも、それが仕事なのですが)。麗子が夜のバラ園を散歩すれば、「しかしながら、どれほど美しい薔薇とて、今宵のお嬢様の美しさの前では、色褪(あ)せて見えることでしょう」と賛辞を口にします。麗子は「あら、影山ったら、正直者なんだから――」と、蝶よ花よと育てられたお嬢様ぶりを発揮します。しかし、殺人事件となると、影山の目が光り、ついでに、口も達者になります。「ひょっとしてお嬢様の目は節穴でございますか?」「それでもお嬢様はプロの刑事でございますか。正直、ズブの素人よりレベルが低くていらっしゃいます」などと口にします。麗子が屈辱と恥ずかしさに背中を震わせると、さすがに、「お気を悪くされたのなら申し訳ござい――」と慇懃にわびます。しかし、「謝って済むなら警察いらんっつーの!」と麗子の本性(?)が。第2話、第3話、第4話……と話が進むにつれて、麗子と影山のからみがますます珍道中化していき、謎解きに加えてお嬢様と執事という特殊な関係の2人からも目が離せなくなりました。

 一話、一話が短いということもあり、謎解きの検証や、殺人事件の裏にある人間ドラマなどなどは、そこに深い物語があることが暗示されるに留まっていますが、一つ、おもしろいなと思ったことがありました。

 それは、執事稼業というもので、影山は普段はクールな冴え者なのですが、麗子がパーティーで訪れた豪邸に50年間その家一筋に務めている執事がいると「執事でございますか。それは素晴らしい。ぜひお会いしたいものです!」と興奮し、自分もパーティーに連れて行ってほしいそぶりを見せていました。また、殺人事件が起きた家の執事をなぜか意識して、しまいには、その執事と、金属バットと、置き物の西洋甲冑がさしていたサーベルで立ち回りを始めてしまったりもしていました。

 お嬢様と執事という関係に加え、執事稼業の裏も垣間見れるところが面白かったです。


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