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石を積むひと/エドワード・ムーニー・Jr.のあらすじと読書感想文

2015年5月8日 竹内みちまろ

石を積むひと/エドワード・ムーニー・Jr./杉田七重訳のあらすじ(ネタバレ)

 アルコール依存症の父親の暴力に怯えながら子ども時代を過ごした78歳のジョーゼフ・マリーノは、高校教師を退職し、ハイスクール時代に知り合って53年間連れ添っている妻のアンと2人で、パイン・マウンテンの麓の標高1500メートルの場所にある家で暮らしています。

 アンは子どもたちに愛情を注いだものの、ジョーゼフは、短気で怒りっぽい性格の上に、忙しさを理由に子どもたちと向き合うことしてきませんでした。息子のポールは、ジョーゼフと衝突し、5年以上、連絡がない状態に。ポールはコンピューター技師としてサンディエゴで妻と2人の子どもという自分の家庭を持っていましたが、ジョーゼフは、ポールが結婚したことすら知りません。ベーカーズフィールドで事業を起こしている娘のセアラも夫と子どもたちとともに忙しくしていました。

 ジョーゼフとアンが、パイン・マウンテンの麓の家で花壇作りの手を止めてひと休みをしている時、アンが「……だからミミズがね」などと話し掛けても、ジョーゼフは上の空でした。「最近なにかで悩んでいるでしょう」と声を掛け、ジョーゼフが「時間が足りない。怖いのは、つまり……」と口ごもると、アンは「死を迎えること?」とジョーゼフが口に出せなかった言葉をあっさりと言ってのけます。

 アンは、ジョーゼフの顔をパイン・マウンテンへ向けさせ、「あの山にはいつ登るつもりかしら?」「もう三十年もまえから、いつか登るといっているけど」などと告げ、やることはたくさんあるとジョーゼフを勇気づけます。そして、アンは「完成してよ、ジョーイ」と「ツタに覆われた石塀」の完成を願います。アンは、少女の頃、工場の仕事を終えて家に帰ってくる父親を石塀に隠れて待っていた思い出から、少女時代の幸せな思い出が今はもう壊されてしまった石塀に詰まっていることを話します。ジョーゼフは「きみのために、完成するよ」と約束し、アンは「わたしたちのためによ」と訂正し、ほほに落ちた涙をぬぐいました。

 ジョーゼフはまだほんの基礎としかいいようのない石の塀に石を積み上げて、石塀を完成させる作業に取り掛かりました。しかし、アンは重い心臓発作を起こし、庭で倒れます。一命はとりとめたものの、医師は長くて1年と告げていました。ジョーゼフは石塀を造る作業を続け、アンは残された時間を使ってジョーゼフに何通もの手紙を書きます。やがて、アンは息を引き取りました。

 アンの生前から、納屋にペンキで落書きをしたり、石塀を壊したりするなど、ジョーゼフにちょっかいを出していた地域の厄介者の17歳の3人組がいました(アイザイアと、アイザイアに流されるように付き合っているティム、ティムの恋人のシャノン)。アンと一緒に行ったショッピングセンターの駐車場で、3人が投げ捨てたタバコがジョーゼフのズボンをかすめ、ジョーゼフが「おい! 危ないじゃないか、気をつけろ」と叱ったことから、ジョーゼフにちょっかいを出すようになっていましたが、アンは、「導いてくれる人もなく、愛情も与えてもらえずに育っていくんだもの。気も荒くなっていくはずよ」と残念がっていました。

 ジョーゼフは、アンが亡くなったあとも、アンとの約束を果たすため、石塀造りを続けます。ジョーゼフが塀に使う石を拾うため小川にやってきたとき、アイザイアとティムが森の中から「ヘイ……じじい……!」とあざけり、やがて、ものを投げ、ジョーゼフの額に直撃し、ジョーゼフは小川に倒れ込みます。アイザイアとティムは「死んだんじゃないか」などと怯え、パニックに陥りますが、財布の中身を奪い、意識を失ったジョーゼフを放置して逃げました。

 アイザイアとティムはすぐに捕まり、裁判が開かれます。ジョーゼフは被害者として傍聴席にいましたが、「アンが判事だったら、どんな判決を下すだろうか」と考え、アンにそばにいてほしいと願います。「すると、ジョーゼフの体を、なんともいえない不思議な気分が駆けめぐった。まるですぐ近くにアンがいるかのように、妻の体のぬくもりを感じだ」。

 保安官助手は少年の更生施設に入ることになるだろうと、ティムの弁護士は数年間刑務所に入ることになるだろうと予想していましたが、判事から「ご意見を聞かせてほしい」と指名されたジョーゼフは、自分が発言することになるとは予想していなかったため、心の準備ができていませんでしたが、「この少年たちを監獄に送るのは、なんとも正しいことのようには……」「ひょっとしたら彼らに仕事を手伝わせることはできないでしょうか? 壊した荷車を修理して、わたしの石塀を完成するのに力を貸してもらうんです」などと告げます。

 アイザイアとティムには、2年間の保護観察期間と、地域社会への貢献としてジョーゼフの手伝いを300時間することが言い渡され、保護観察期間には、毎週仕事の状況を報告することを条件に、2年間の執行猶予が付けられました。

石を積むひと/エドワード・ムーニー・Jr./杉田七重訳の読書感想文(ネタバレ)

 「石を積むひと」はここから本格的なストーリーが始まりますが、この辺りで感想に移りたいと思います。

 「石を積むひと」は、読み終えて、ジョーゼフが、ティムとシャノンに、「人間はみな、あのなかにある一個の石だ。どんなものであれ、両親が築いた土台の上に乗っかっている。だがな、みてごらん……」と話し始める場面が印象に残りました。

 ジョーゼフは、てっぺんの石がティムとシャノンで、てっぺんのすぐ下にある石が親、その下はさらにその親というふうに続いていると話します。シャノンが「つまり、昔に起きたことのせいで、いまうちの家族がぐらついているってこと?」と聞くと、ジョーゼフは「そのとおりだ」と答えますが、ぐらつく石の上でもしっかりしている石があることを示し、「それぞれの石はその下の石を押さえている。となりあった石どうしも互いに支えあっている。つまり『親石』がしっかりしていなくても、そのかわりに自分を支えてくれるしっかりした石があればだいじょうぶってことなんだ」、「頼りになる石をみつけるんだな。自分の気持ちを理解してくれて、なんでも話せる相手。自分より多くの経験を積んだ頼りになるやつをな」と聞かせました。

 シャノンの母親は、自分の言いたいことだけを一方的にしゃべり、人の話を聞かず、わがままで、傲慢で、シャノンのことを気にかけていないくせに、世間体にこわだり、ヒステリーを起こしてシャノンを頭ごなしに怒鳴りつけ、3度目の結婚相手と暮らしています。ティムは怒った目をした父親から酔ってよく殴られ、アイザイアは、人種差別主義者で、わがままで、すぐにキレる父親とそっくりの性格をしています。

 シャノンは、ジョーゼフから「うちの孫もきみみたいな美人に育ってくれたらいいんだがなあ!」を声を掛けられ、「あたしが美人?」と驚きます。ジョーゼフが「そうさ! きみの言い方だと、いままでだれもほめてくれなかったようにきこえるぞ」と続けると、「ほんとうに、だれもそんなこと言わなかったもの」とおずおずとした笑みを浮かべます。レストランで、ジョーゼフに椅子を引いてもらってもどうしていいのか分からずに戸惑い、席に着いてからは、ジョーゼフの仕草を見てから、ジョーゼフの真似をして、ナプキンを広げました。

 ティムは、ジョーゼフとシャノンと3人で、シャノンがティムとの間の子どもを身ごもっていることをシャノンの母親に告げるため、シャノンの家にあがったさい、家に入った時に帽子を脱いだジョーゼフから、「ティム、帽子……」、「室内では帽子を脱ぐもんだよ、ティム」と教えられていました。

 ジョーゼフから、監獄に入れられたら地獄だぞと厳しく言われたアイザイアは、「知ってるさ。だがおれはそんなことぐらいじゃあ、根をあげやしねえ。もっとひでえ地獄のような毎日を生きてきたんだからな」と言い返していました。

 ジョーゼフは、ティムに、「落ち着け。もうこれ以上、怒りに満ちた人間をこの世に増やしたくない」と声を掛けていましたが、家庭環境や子育てというものは、人類に共通した問題であり、古今東西を問わず、心ある人間たちはずっと、不幸や憎悪の連鎖というものをどう断ち切るのかに、心を砕いて取り組んできたのだと思います。

 ジョーゼフは、「結局、ほかのことはどうでもいいんだ。大事なのは、お互いのことをどれだけ気にかけているか、それだけなんだよ」と口にしていました。 

 石塀を完成させることは、ジョーゼフにとって大切なことでしたが、石塀を造ることを通して、ジャーゼフはティムやシャノンと心を通わせていきます。

 「石を積むひと」を読み終えて、人間たちが集まって、お互いのことを気に掛けながら、大切だと思う何かを共同作業でいっしょに作り上げていくことが、人間たちにもたらす恩恵の大きさというものを感じました。


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