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魔女の宅急便/角野栄子のあらすじと読書感想文

2013年7月7日 竹内みちまろ

魔女の宅急便のあらすじ

 小さな街に住むキキは、魔女の母親「コキリさん」と、伝説や民話の研究をする人間の父親「オキノさん」の間に生まれた13歳の女の子。人間と魔女が結婚して生まれた子が女の子の場合、10歳を過ぎたころ、人間として生きるのか、魔女として生きるのかを自分で決めていいことになっていました。魔女になる場合は、母親から魔法を習い、13歳の年の満月の夜に家を出て、魔女として生きていくために、魔女がいない町や村を自分で探さなければなりません。勝ち気で自立心旺盛なキキは、母親の後を継くことに反発もありましたが、ほうきで空を飛んだときの爽快感に取りつかれ、魔女になることにしました。真っ暗な夜と、何一つ音がしない静けさが世界からなくなってから、魔法や魔女の文化は衰退していました。昔は、魔女たちはたくさんの魔法が使えましたが、コキリさんが使える魔法は、ほうきで空を飛ぶことと、薬草を作ることの2つだけ。コキリさんは、薬草を作ることで小さな町の人々の役に立って生きていましたが、キキは薬草作りはまったく覚えず、ほうきで空を飛ぶ魔法しか使えませんでした。それでも、キキは、誰も知らない町や村に降り立ち、自分で使える魔法で、ひとりで生きて行かなければなりませんでした。

 キキは、キキが生まれたときにコキリさんが見つけてきた黒猫のジジといっしょに、ほんの少しのお金と、お弁当を持ち、お母さんが作ってくれた丈の長い黒い服を着て、「ラジオはいいでしょ」といって持っていくことにしたラジオを、お母さんが使いこなした古いほうきにぶら下げ、満月の夜に旅立ちました。コキリさんからは、大きな町はよしたほうがいいと言われていましたが、海が見たかったキキは、川を見つけると、途中の町や村を飛び越し、川沿いを飛んでいきました。川が海に入ろうとしている場所に町を見つけました。そこは、海に注ぎ込む大川を挟んで左右に広がる大きな「コリコの町」でした。

 キキが「コリコの町」の石畳の道に降り立つと、魔女を見たことがなかった人たちが遠巻きにし、もの珍しそうにキキを見つめます。キキは、コキリさんから言われた通り笑顔を絶やさず、「おじゃまさせていただきます」と声を掛けました。しかし、人々はどこか冷たく、「めんどうはごめんですよ」などと口にし、周りの人たちとおしゃべりをして、どこかへ行ってしまいました。キキが生まれた町では、「魔女ってね、時計にさす油みたいなものよ。いてくれると町がいきいきするわ」と言ってくれて、キキの旅立ちの日もみんなで見送ってくれました。しかし、「コリコの町」の人たちは違いました。黒猫のジジは、「ちぇっ、魔女も弱くなったもんだよ。むかしだったらさ、こんな町なんて、ただじゃおかないんだけど。あの塔を持って、この町ごと、どこかの山のてっぺんにでも乗せちゃうんだけどなあ」と、おろおろと歩くキキを励ますように言いました。

 どこをどう歩いたのか、キキは、狭い通りに入っていました。半分閉まりかけたパン屋さんの中から、「あれっ、まあ、あのおくさんたち、たいへんなものをわすれて。ちょっと、あんた、とどけてあげてよう」という女の人の声を聞きました。女の人から話を聞いたキキは、「あたしでよかったら、かわりにおとどけしましょうか」と声を掛けます。キキはパン屋さんの隣にある粉置き場に、おとどけ屋さんの「魔女の宅急便」を開業しました。見知らぬ町で、ほうきに乗って空を飛ぶ魔法を使ったキキのひとり立ちの物語が始まります。

魔女の宅急便の読書感想文(ネタバレ)

 『魔女の宅急便』は、春に「コリコの町」に降り立ち、夏、秋、冬と、「魔女の宅急便」をしながら過ごし、一年たって、キキが、両親が住む懐かしい小さな町に里帰りする場面で終わります。

 『魔女の宅急便』は読み終えて、人生というものを考えさせられました。キキが「魔女」ということもあり、町にもどこか、ヨーロッパの雰囲気が漂っています。13歳のキキは、魔女という宿命を選んだため、一人で見知らぬ場所へ行き、魔法で生きて行かなければなりませんでした。もし、キキが人間として生きていくことを選んでいれば、生まれ育った町で、やさしい両親と町の人々に囲まれたまま生きていくことができたかもしれません。例えば、中世のオランダの画家のフェルメールは、生まれ育ったデルフトという町で一生を過ごしたようです。もちろん、昔から旅人もいたでしょうし、戦争での人の行き来もあったでしょうし、行商の商人たちもいたと思います。でも、産業革命が起るまでは、生まれ育った町で一生を過ごす人々も、少なくはなかったと思います。

 「コリコの町」に降り立ったキキの活躍を読むうちに、人間が立派に生きていくためには、学校での勉強が絶対ではないのかもしれないと思いました。13歳のキキは、コキリさんから言われていたこともあり、自分が使える魔法で、町の人々の役に立つように心がけます。キキの父親の「オキノさん」のように、何かを研究して発表することも社会の役に立つことだと思いますが、キキは外に出て、人々と触れ合い、生活する人々の声を聞きながら、人々の暮らしの中で、ほうきで空を飛ぶという自分が使える魔法を利用して、人々の役に立っていました。

 人間が立派に生きていくということは、社会に出て、自分ができることを見つけ、それを利用して、人々の役に立つことなのかもしれないと思いました。それは何も大きなことをして功績を残したり、発明をしたり、発見をしたり、後世に残るようなことをしなくても、実現できることかもしれません。キキの活躍は素朴で、ひとつひとつは人々の小さな思いを実現することでしかありませんが、13歳で魔女として独り立ちして、誰も知らない町で生きることを選んだキキは、やがて恋をして、人間の男性と結婚し、女の子が生まれ、魔女になりたいと言ったとき、自分の体験を伝えて、キキと同じように13歳で旅立ち、人々の役に立つ立派な生涯を送る魔女を育てていくのかもしれないと思いました。


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