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でーれーガールズ/原田マハのあらすじと読書感想文

2015年1月28日 竹内みちまろ

でーれーガールズのあらすじ(ネタバレ)

 20代の頃から東京でマンガを描き続けている43歳の売れっ子マンガ家・佐々岡鮎子(ペンネーム:小日向アユコ)は、母校である岡山白鷺女子高校の国語教師・萩原一子から、創立120周年の記念事業の一環として講演をしてほしいという依頼状を受け取った。

 講演を引き受けるつもりはなかった鮎子だが、追伸に書かれていた「アユたんのデビュー作『でーれーガールズ』が、私の人生最良の作品です」という言葉を見て、萩原一子が、自分の古い読者であることを知った。「でーれーガールズ」は、老舗少女マンガ誌「別冊お花畑」(通称ベッバナ)の新人賞に佳作入選したデビュー作で、「アユたん」はデビュー当時のニックネームだった。さらに、同級生の南原みずの(旧姓・篠山)から、27年ぶりの同窓会が開催されるという手紙が来た。鮎子は、その手紙で、高校1年生から2年生に進級する春休みに広島に転校した秋本武美が同窓会に来ることを知った。

 同窓会に参加すると、国語教師の萩原一子が秋本武美だった。荻原は夫の姓で、名前は、占いで夫の姓と武美が字画的に合わないと言われたため、一子で通しているとのこと。驚く鮎子に、武美は、「うち、あゆの作品はぜーんぶ、最初っから読んどるんよ」とほほ笑んだ。

 同窓会が終わり、鮎子は、武美の嫁ぎ先の家に泊まった。鮎子は、武美の母親が一人娘である武美を連れて広島に行ったのは恋人を頼ってのことだったことや、武美が広島で女子大を卒業し、地元の化粧品会社に就職した直後、武美の母親が他界したことや、一人っきりになった武美が一発奮起して「ほんとうにやりたいこと」をやるために岡山へ帰り母校の教員試験を受けたことや、武美の夫が3年前に他界したことなどを知った。武美は「うちなあ。本気の恋は、16歳の、あのいっぺんきりじゃったんよ」などとかすかに笑った。

 ***

 東京生まれの鮎子は高校入学直前に、父親の仕事の都合で岡山に引っ越し、クラス替えのない岡山白鷺女子高校の進学クラスZ組で3年間を過ごした。1年生のとき、標準語を話す鮎子は、会話に加われず、いつも教室で一人でいた。鮎子と同じように一人で行動していた秋本武美が、あるとき、「佐々岡さんってお上品すぎるんじゃが。でーれーとっつきにくいんじゃ」と突っかかってきて、ほかの女子からも敬遠され始めた。鮎子が標準語で話をするたびに「でーれーなあ」と笑われ、鮎子は「ものすごい」という意味の「でーれー」が鮎子に対しては「なにかヘン」というニュアンスで使われていることを感じた。あえて方言を使ってみたりもしたが、使い方が的を外し、笑い者になっていった。

 ゴールデンウィークが終わった頃には、鮎子は「ヘンな岡山弁を無理してしゃべる東京のスカした女」として完全に孤立していたが、ある日、鶴見橋の欄干の上に、ノートを広げた。ノートの表紙には、「『ヒデホとあゆの物語(10)』 by 小日向アユ」と書かれていた。いつかマンガ家になりたと思っていた鮎子は、空想の恋人・ヒデホ(神戸大学文学部3年生/21歳/ロックバンドのボーカリスト兼ギタリスト)と、自身を投影した少女・あゆの恋物語をマンガに描き続けていた。

 欄干でノートを広げていた鮎子に、たまたま通り掛かった武美が声を掛けた。武美は、以前、武美が鮎子に鞄に癖をつけることを教えた際、鮎子の鞄から落ちた『ヒデホとあゆの物語(1)』を拾っており、『ヒデホとあゆの物語(1)』を鞄から取り出した武美は、「でーれー、おもしろかった」と笑った。鮎子と武美は仲良くなった。ヒデホが実在すると信じた武美は、鮎子もヒデホは実在すると武美に告げた。武美は、鮎子から聞く話を通して、ヒデホに恋をするようになった。

でーれーガールズの読書感想文(ネタバレ)

 「でーれーガールズ」は、読み終えて、家族、そして、幸せを求めた武美の物語がせつなかったです。

 スナックをやっている母親と2人で暮らす武美は、不良っぽいオーラと美しさを持っていましたが、すれたところは無く、ヒデホが実在すると信じる無垢さと、ヒデホに恋をしてしまう純真さを持ち合わせていました。鮎子も、武美は「恋愛に関してはまだ固いつぼみなのだ」と確信していましたが、武美は、輝きを放つ外見とは裏腹に、いつも居場所を求め、自分がここにいていいのかと不安になりながら、孤独に過ごすことしか知らない少女なのかもしれないと思いました。

 クリスマスイブにどこに行くと聞き、鮎子が“家”と曖昧にうなづくと、「ほしたら、あゆのお父さんとお母さんとお兄さんと、みんなでクリスマスの食事をするん?」と尋ね、「ええなあ」と夢でも見るようにつぶやいたり、「ふたりには、このさきもずうっと仲良うして、いつか結婚してな、子供を産んでな。……幸せになってほしいんじゃ」と目を輝かせり、始業式の日に「どこへ行っても、この街がうちのふるさとじゃから。いつか、きっとまた帰ってきたいって思うてます」と瞳を潤ませたり、鮎子が武美の母親は武美に字を書く仕事をして欲しいのではと推測するほど達筆だった武美の「ほんとうにやりたいこと」が国語教師になって「ふるさと」である岡山に帰って岡山で過ごすことだったります。

 高校1年生の2人が最後に会ったのは、鶴見橋の上でした。武美は「あゆには新しい恋人ができたみたいじゃし、うち、ヒデホ君に告白して、ヒデホ君と一緒に生きていけんじゃろうか。そんで岡山に残って、あゆやクラスのみんなとシラサギに通って、いままで通りに暮らしていけんのじゃろうか」と思い詰めたことを話し、「そんなこと、できるわけねえのにな」とあきらめます。「うち、おかんとおかんの恋人の邪魔にならんじゃろうか。うちがヒデホ君を好きになったら、あゆを、ヒデホ君を困らせんじゃろうか」「うち、いなくなったほうがえんじゃなかろうか」と、ひと思いに死んでしまおうと手首を切ったことを告げます。

 幸が薄く、未来を夢見たり、現在を楽しんだりすることなく、後ろ向きに生きることしかできなかったかもしれない武美ですが、それでも、大切な友達を得ることができたシラサギと岡山は“永遠の16歳”の輝きに満ちた大切な場所であり、16歳が終わっても、鮎子のマンガをずっと読み続け、義母には「あゆは、うちの友だち。うちの人生で、いちばんの友だちなんよ」と嬉しそうに話します。

 そんな武美の姿に触れて、幸せって何だろうと考えさせられました。


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