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パズル/山田悠介のあらすじと読書感想文

2014年2月8日 竹内みちまろ

パズル/山田悠介のあらすじ

 この学校の卒業生たちが日本を動かすと言われる超名門の私立徳明館高校の3年A組は、特に厳しい選抜試験を潜り抜けてきた秀才だけが全国から集った特別クラス。入学時には26人いた生徒は、付いていけなくなった者が学校を去り、今では15人だけとなっています。

 3年A組の中でも一番の成績の湯浅茂央は、「トップになるまで勝ち残れ!」などとわめく担任の安田寛の声を聞き、クラス全員が大きく返事をする中、ひとりだけ小さな声で返事をしました。

 茂央は、両親の希望する政府の官僚になれば人生は安泰だろうけれど、それ以上に大事なものがほかにあるのではないかと、最近、考え始めるようになっていました。しかし、勉強ができなかったり、手際が悪いというだけで安田から罵倒されるクラスメイトを見ても、勉強しかできず、勉強しかやらせてもらえなかった自分にどうにかできるわけではないと冷めた気持ちであきらめていました。

 ある日、学校に異変が起きます。拳銃で武装したグループが職員室を占拠して、安田を人質に取りました。A組の生徒15人を残して、すべての生徒と教職員に、学校から出るように命じます。犯人グループは、A組の15人に、これから校舎の中に隠す2000ピースのパズルを48時間以内に探し出し、パズルを完成させなければ、安田を殺すと要求してきました。

パズル/山田悠介の読書感想文 

 「パズル」は、この後、犯人グループと生徒たち、また、生徒たちの間で繰り広げられる心理劇となります。事件が起こることにより、生徒それぞれがキャラが表に出始めて、犯人グループも、A組の全員で力を合わせてパズルを探し出してほしいなどと本心を表していきます。群像劇として、一気に面白みを増していきました。

 「パズル」はクライマックスが読みごたえがありました。A組を指揮してパズルを探し続けた茂央も、犯人グループも、それぞれ「正論」を主張します。そんな「正論」は、日常生活の中での言葉だったら陳腐にすら聞こえてしまうものとも感じられましたが、特殊な状況では、かえって、説得力がありました。

 また、犯人グループが自分たちには親も兄弟もおらず失うものは何もないと告白したり、犯人グループが躊躇なく人質の足を撃ち抜いたりします。核家族化が進み、人と人のつながりが希薄になっているといわれる現代社会を描いていると思いました。

 同時に、犯人グループの卑劣なやり方を見て、生まれて初めて怒りという感情をあらわにしたり、いったんは逃げ出した生徒が「ここで動かなければ、自分は一生、変われない」と学校へ戻ったりなど、特殊な事件の中で浮き彫りになる人間たちの感情や側面も、等身大の現代を生きる若者たちが描かれていると思いました。また、家に帰ろうとする生徒に「もしここで帰ってしまえば、あなたたちをマスコミはどう報じるかしら」と声を掛けて威う場面など、マスコミというものが大きな力を持ってしまっているという現代社会の側面も表していると思いました。

 「パズル」の魅力は、ストーリーもさることながら、現代の若者の心を、まっすぐに描いているところだと思います。特殊な事件によこって発生する群像劇という特別なシチュエーションが提示されますが、描かれている人間たちの心には、多くの人が共感するのではないかと思います。また、周到な伏線と、衝撃の結末も、見事でした。


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